メンタルヘルスが不安定になる背景に生まれた家庭の影響…。臨床心理士が教える「不安との向き合い方」

 メンタルヘルスが不安定になる背景に生まれた家庭の影響…。臨床心理士が教える「不安との向き合い方」
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メンタルヘルスに関する悩みは、生きる中でなかなか切り離せないものです。神戸心理療法センター代表で、公認心理師・臨床心理士の高井祐子さんの本『ラクに生きるための「心の地図」―セルフケアのメソッド100―』(ナツメ社)では、ストレスを感じたときや人間関係で悩んだときの対処法が書かれています。高井さんに不安になりやすい人の共通点や、不安との向き合い方について伺いました。

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メンタルヘルスは生まれた家庭環境の影響が大きい

——本書において、メンタルヘルスが不安定になる背景に、親や家庭の影響が書かれていました。具体的にどのように影響を受けてしまうのでしょうか。

日々カウンセリングをしている中で、人間の不安や緊張は、過去の生育歴に関係していると感じています。

考え方の癖となっている認知パターンを「スキーマ」といいます。スキーマは、その人の人生観や価値観のようなものです。たとえば「自分は役に立たない人間」「周りに迷惑をかけてしまう人間」と思っていると、人の顔色をうかがったり、すごく緊張してしまったりします。

そういう価値観はどこから生まれたかというと、小さい頃に「あなたはいつも他人に迷惑をかけている」「人に迷惑をかけたらダメ」などと親に言われていた体験が隠されていることが多いんです。

——反対に、不安になりにくい生育環境とはどのようなものでしょうか?

失敗しても「大丈夫だよ」「失敗じゃなくて学びになったね」などと言われて育つと、またチャレンジしようと思えますよね。

上手くいかないこともあるし、不得意なこともあるけれども、「それもあなたなのだから、いいじゃない」などと言われていると、「ありのままの自分でいいんだ」という安心感をもって過ごせて、自信を育むことができるのだと思います。

不安との向き合い方

——本書では不安に関する内容が多かったですが、不安との向き合い方を教えていただけますか?

前提として、不安とは誰もが感じるものなので、不安になること自体がおかしいのではありません。むしろ、危険な状態なのに「怖い」という感情がはたらかないと、自分の身を守れなくなってしまいます。

マンモスがいた頃まで遡ると、危険を感じると、筋肉が収縮し、早く走ったり戦ったりできるよう体が準備するのです。現代でいえば、職場の威圧的な上司や、意地悪な友人が嫌だと思ったときに、同じようなことが起きています。

——体ではどんなことが起きているのでしょうか。

自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、恐怖や不安を感じたときは、交感神経のはたらきが優位になって、筋肉が収縮し、心臓がドキドキしたり、呼吸が早くなったりします。

扁桃体のはたらきも関連があります。扁桃体はネガティブな感情を処理する部分です。たとえば、過去に学校で嫌なことがあったとすると、校舎を見ただけで負の感情が生じやすくなります。扁桃体と記憶を司る海馬は近いので、記憶と「嫌だ」という感情は結びつきやすいんです。

脳が直感的に嫌だなと思ったとき、ストレスを感じたときに、コルチゾールというホルモンが出ます。コルチゾールが出ると、気持ちが落ち込んだり、体がだるくなったりしやすいと言われています。

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——本書では予期不安への対処法も書かれていました。「こうなったら、こうやって対応しよう」の「こうなったら」を無限に考えてしまうときがあります。不安について考えるのをやめるには、どういうことができますか?

「こうなったら」というのは、ある程度は必要だと思うんです。そうやって備えることで、不安なことが起きないようにすることもできますから。ですが、中には無限に「~だったら」という想像が浮かんできてしまって、対策を考えるのをやめられない人もいます。

——たとえば、洗濯機からいつもは聞かないような音がしたときに、「壊れたら」「すぐに修理の人が来てくれなかったら」「修理の人が怖い人だったら」……といろいろな想像をしてしまいます。

対処を考えても考えても、その隙間をついて、別の考えが浮かんでくるのですよね。そうやって考え続けている自分に気づくことは大切です。問題は、不安になっているときは、その不安が自分の想像だということを忘れてしまって、まるで現実のように捉えていることです。

なので、不安になったときは、「自分の想像が自分を苦しめている」ということを思い出すと、目の前の現実に戻ってくることができるのではないかと思います。

——考えないようにしようと思うと、余計に気になってしまうことがあります。

「シロクマ効果」というものがあって、「シロクマのことを考えないでください」と言われた時点で、シロクマのことを考えてしまう。人間は考えないようにしようとするほど、そのものにとらわれてしまう習性があります。

なので、予期不安に気がついたら、マインドフルネスで「今自分はこのこと考えている」と受け止めて、そのまま置いておいて、目の前のことに集中するようにしてみるといいでしょう。

——目の前のことに集中するためには、具体的にどうすればいいのでしょうか?

五感に集中してみてください。洗濯機の音が気になり始めたのでしたら、洗濯物を手に取ったときの重みや冷たさ、乾いたときのパリッとした感じ、毛玉のついた感覚、柔軟剤の匂いなど、五感で得られる感覚を研ぎ澄ますことがマインドフルネスだと思っています。

もちろん呼吸法も大切です。ですが、瞑想するだけがマインドフルネスではありません。日常の中に、マインドフルネスの考え方を取り入れていくことが大切だと思います。

——不安と対処を紙に書き出して整理するという方法も聞いたことがあるのですが、書き始めたとき、どんどん不安が湧いてきて、止まらなくなってしまったことがあります。

書き続けたあと、どうされたのでしょうか?

——ある程度書いた時点で「これはキリがない」と思いました。結果的には、想像していた不安なことは何も起きなかったです。不安に思っていることを気が済むまで書き出したことで、「こんなに心配しなくて大丈夫だった」と納得できました。

その感覚がとても大切です!頭の中で整理しようとすると、自分のぐるぐる思考に捕まってしまいます。

自分が「感じている」ことや「考えている」こと自体を、感じたり気づいたりすることを「メタ認知」といいます。紙に書き出し「これはキリがない」と気づけたということは、メタ認知をすることができて、気球に乗って、ぐるぐる思考を空から見下している状態です。

「書き出すこと」そのものに意味があるのではなく、書き出すことを通して、客観的な気づきを得やすくなるので、書き出すことが大事なんです。他人に「考え続けても無駄だよ」と言われても、納得できないですし反発したくなるもの。だから自分で気づくことが必要なんですよね。

※後編に続きます。

『ラクに生きるための「心の地図」―セルフケアのメソッド100―』(ナツメ社)
『ラクに生きるための「心の地図」―セルフケアのメソッド100―』(ナツメ社)


【プロフィール】
高井祐子(たかい・ゆうこ)

神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法を行う。20年以上のカウンセリング実績を持ち、のべ1万4千人の診療に携わる。2020年よりオンラインカウンセリングを開始。
著書に、『認知行動療法で「なりたい自分」になる すっきりマインドのためのセルフケアワーク』(創元社)、『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた モヤモヤがスッキリ!に変わる85のセルフケア』(大和書房)〈メンタル本大賞2023最優秀賞、特別賞をダブル受賞〉がある。

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