毒親家庭に生まれたら人生は変わらない?自分の人生を切り拓くコツを臨床心理士に聞いた


生活している中で、悩んだり落ち込んだりし、ときにはなかなか立ち直れなかったり、体調にまで不調が生じたりすることは珍しくありません。神戸心理療法センター代表で、公認心理師・臨床心理士の高井祐子さんの本『ラクに生きるための「心の地図」―セルフケアのメソッド100―』(ナツメ社)では、不安なことがあったりストレスを感じたりしたときの気持ちの立て直し方が書かれています。インタビュー後編では、自分の褒め方や、やりたいことの見つけ方などを伺いました。
自分を褒めることが苦手なときは?
——「自分を褒めることが苦手」という悩みもよく聞きますが、どうやって解消していけばいいのでしょうか。
私自身も自分を褒めるのが苦手だったので、大変な作業であることはよくわかります。最初は本当に褒めるところが見つからないんですよね。
だから「毎日自分の名前を呼んで、今日1日を振り返って、一つでもいいから褒めるところを見つけてください」とお伝えしています。でも見つからない人もいるんですよね。「生きていても仕方ない」「消えてしまいたい」と思う人にも「今日なんとか生きることをがんばったね」と褒めてくださいね、とお伝えしています。
「全然思いつかない」「何も褒めるところなんかない」と反省会が始まってしまうことも。そういう方には「反省しなければいけないことがあっても、今日1日が無事で終わってよかったね」と言うことをおすすめしています。思いつかなければ、毎日同じことでも褒めることがポイントです。
——「自分ができたこと」を褒めなくてもいいのですね。
「褒め言葉」というと、人と比べて自分の方ができたときとか、人の役に立ったとき、嫌なことを頑張ったときに使うものだと思っている人が多いですが、日常生活の些細なことの中に「良かったね」と思えることを見つける作業なんです。
見つからないと思うなかで、なんとか絞り出すことに意味があります。「歯磨きできてよかった」「好きなテレビが見れてよかった」でも、なんでもいいのです。そうやって些細なことでも褒めることを繰り返していると、だんだんと自分を許せるようになります。
——「自分を許す」とはどういうことでしょうか?
最初はピンと来ないですよね。でもだんだんと、「まあ、いっか」という感覚が掴めるようになります。等身大の自分のいいところを見つけられるようになって、自分に寛容になりますし、自信がついて、自己肯定感も上がります。
さらに自分に余裕が出てくると、人の嫌なところも許せるようになるんです。「この人はすごく嫌な人だけど、きっと頑張って生きているんだろうな」といったふうに、他者に対しても慈愛の心が生まれてきます。
ただし、自分を許せるようになることは目的にするものではなく、結果的な副産物です。純粋に毎日自分を褒めることを繰り返していくと、大きな変化が表れます。
私が研修生の頃、師匠からは、自分を褒めることを最低100日は続けるように言われました。最初は自分のことが好きではなく、自分の名前を声に出して呼ぶことも嫌だったので大変でした。
「嫌なこと」に気づき、「やりたいこと」を探してみよう
——本書では、なりたい自分になりきる・なりたい暮らしをイメージするというメソッドをご紹介されていましたが、自己否定が強い方ですと、どうなりたいか、どう暮らしたいかを考えるのが難しい方もいると思います。気づくための第一歩としてどんなことができますか?
やりたいことがわからなくても、嫌なことはわかることは多いです。「じゃあこうしてみたら?」と言われると「それは嫌」とはっきり言えたりします。なりたい自分はそうではない、というイメージがあるんです。
明確になっている「したくないこと」を手がかりに、「それではどんなことをやってみたいの?」と外堀から尋ねていくと、だんだん自分のなりたい姿が見えてきます。
もう一つは、ささやかなことから気づくという視点です。ご飯を食べて「おいしい」と感じたり、音楽を聞いて「楽しい」と思う瞬間があれば、「自分はこんなことが好きなのかも」というヒントに。そうやって小さな点を集めていくと、一つの図形になって、なりたい自分やなりたい暮らしのイメージができるようになります。

生活や体が整っていることは、基本的な土台
——「穏やかフルネス」の項目で、生活や体を整えることが心を整えることにつながると書かれていました。なぜ生活や体を整えることが大切なのでしょうか?
臨床心理士としてカウンセリングを続ける中で気づいたことがあります。なかなか認知行動療法やマインドフルネスの習得に至らない人がいるんです。
そういう人はいつも疲れている雰囲気なので、話を聞くと、菓子パンばかり食べていたり、朝ごはんを食べていなかったり、睡眠不足だったり、お風呂に入っていなかったり。生活を整えないと、ワークに取り組む意欲も湧かないし、「自分を褒めましょう」と言っても気力がないんですね。
認知行動療法やマインドフルネスを行う手前で、生活と体を整えることは、家を建てるときの基礎工事のようなものです。これを「生活セルフケア」と呼んでいます。
——睡眠不足で悩んでいる人は多いと思いますが、工夫できるポイントはありますか?
まず生活の記録をしてみてください。何時にご飯を食べて、何時にお風呂に入って、何時に寝るのか。その間に何をしているのかを見ると、大体SNSや動画を見ている時間が多いものです。そういった時間を減らしたり、お風呂に入る時間を早めたりする工夫が大切です。
自分の人生は自分で拓いていける
——生まれた家庭の影響などでメンタル不調が長期間続いている場合、不調のない自分をイメージしにくくなっている方もいると思います。本書のメソッドを実行することで、どのように変われるのでしょうか。
私は人が変わっていく姿をたくさん見てきました。虐待を受けても、生活困窮家庭で育っても、捉え方を変え、自分を認め、本当にやりたいことを見つけられたら、自分らしく輝けると思っています。
メンタル不調が長期間続き、自分が良くなるイメージが湧かない人もいると思いますが、不調の期間が長いからといって、改善までの過程が長いとは限りません。
変われる人とそうでない人との違いは「自分の人生を変えようと思っているか」です。一生懸命に取り組まれる方は、ノートを何十冊も書いたり、本にふせんをびっしり貼って読み込んだりしています。
そういう人たちを見ていると、人は変われるし、自分の人生は自分で拓いていけるのだと思います。でも一人で取り組むのは大変なことですから、カウンセラーなど一緒に問題に向き合う人のサポートはあった方がいいでしょう。

【プロフィール】
高井祐子(たかい・ゆうこ)
神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法を行う。20年以上のカウンセリング実績を持ち、のべ1万4千人の診療に携わる。2020年よりオンラインカウンセリングを開始。
著書に、『認知行動療法で「なりたい自分」になる すっきりマインドのためのセルフケアワーク』(創元社)、『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた モヤモヤがスッキリ!に変わる85のセルフケア』(大和書房)〈メンタル本大賞2023最優秀賞、特別賞をダブル受賞〉がある。
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