「帰省は無理にしなくていい」毒親サバイバーの漫画家が語る「家族愛」からの脱却で得た解放感

 『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)より
『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)より

泣いたり怒ったりしてもからかう・体調が悪くても放置・不眠症になったときには無理に飲酒・家を継ぐために人工受精を勧める……これらは漫画家の尾添椿さんが実家で経験したことです。尾添さんは2019年に実家を出て分籍・住民票の閲覧制限を行い、実態としては親と絶縁をしました。その後、ご自身の経験を描いたり、『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)では他の毒親サバイバーの経験を漫画化しています。尾添さんに過去の経験や「親を捨てること」についてお話を伺いました。

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お金を渡して「機嫌を直して」と言う両親を見て「おかしい」と確信

——一番幼い頃の記憶で3歳頃に「言うことを聞かないなら、椿ちゃんを置いて海外で暮らそう」と言われ、泣いている尾添さんを見てご両親が楽しそうにしている様子が描かれています。このときのことをどう振り返っていますか。

大人になった今だから言語化できるものの、幼かったのでとにかく怖くて。抵抗しないようにねじ伏せられている感じがありましたし「いい子にしていないと絶対に置いていかれる」と思いました。

このようなからかいを大人がするケースは珍しくないと思うのですが、振り返ってみるとあれは本気だったと思います。ちょうどイヤイヤ期や意思表示をするようになる年齢で、あの両親ですので、育てるのが面倒になったのだと。親戚に預けたいという気持ちはどこかにあったんだろうと思っています。

——よその家庭と比較する機会がないので、家庭内で起きたことについてなかなか「うちはおかしい」と気づきにくいものです。違和感を覚えたのはどのタイミングだったのでしょうか。

小学4年生のときに授業で作った本を自分の部屋の机にしまっていたのに、両親が勝手に引っ張り出して見ていて「なんで勝手に読んだの?」と怒ったところ、両親はニコニコしながら「怒っている子どもはかわいい」と思っている様子で、私にお金を渡して「これで機嫌を直して」と言いました。それが「私の親はおかしい」と察した瞬間でしたね。

——小学生の頃は父親の暴言が続いたり、気管支炎が悪化しても放置されていたり、中学生で不眠症を発症して睡眠薬をもらったら捨てられて無理やりお酒を飲まされたりと、壮絶なエピソードが続きますが、実家を出ようと思ったときのことをお話しいただけますか。

「家を継ぐ」という概念のある家で、高校卒業後に進学も就職も反対されて家にいたのですが、ある日「結婚しないなら養子をとって育てろ」と言われ、反論したら母親から首を絞められ、救急搬送されて。意識が戻った後で母親が「人工受精はどうなの?」と言ってきたときに、この家にいるのは危ない、こいつらは人間じゃないと思いました。

必要なものを友人宅へ送り、逃げ出す当日はキャリーケースだけで出られるようにして、置手紙をして実家を出ました。

漫画
『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)より

親を捨てて、想像以上の解放感を得た

——実際に親を捨ててからの生活で、想像とのギャップを感じたことはありますか。

全く想像していなかった解放感で「この解放感のために生きてきた!」と表現してもいいくらいでした。こんなに楽なのかと、こんなに息苦しくないのかと、嬉しくて床を転がるような感覚です。

なかなか実家を抜け出せない方は、複雑な理由が絡み合っているとは思うのですが、親が子どもに共依存(相手に必要とされることに価値を見い出す)している部分はあると思います。親は子どもを育てる義務があり、成人になったら送り出せることが健全であって、自立を邪魔して逃がさないようにするのが毒親の特徴の一つでもあると思います。

——実家を出る前は不安だったものの「出てみたら意外と大丈夫だった」と感じたことはありますか。

金銭面でも生活面でも、漠然とした不安はありつつも、物件を契約して、そこに引っ越してしまえば、生活が始まってなんとかなりました。

知らないことが増えるほど世界は恐怖に満ちていくと思います。言い換えれば、知ればしるほど仕組みがわかって不安もなくなるわけでして。知ることを邪魔するのが毒親だと思います。知ってしまうと親は必要とされなくなり「自分たちの子ども」でなくなってしまいますからね。

毒親を許すか・許さないかは本人が決めること

——世間には「親は大切にすべき」「家族の絆」といった規範がありますが、そのような考えから解放されたのはどのタイミングでしたか。

高校生のときです。日常的に親から身体的な虐待を受けている子もいて、親に従っている子もいる一方で、学校を退学して親を捨てた子もいました。色々な選択をする子を見て「親を大事にすべき」という考えはやめた方がいいと気づきました。

絆って、家畜を木につないでおくための綱が由来になっていて、呪縛や束縛の意味で使われていたのが今や良い言葉のように使われていることも違和感があって、上下関係があって、繋いでいるほうに利益が出るのが「絆」。それが家庭に持ち込まれるのは変だと思ったことも高校生のときでした。

——毒親育ちには「親も大変だったのだから許してあげたら?」という言葉が向けられることも珍しくないですが、どう言い返していますか。

シンプルに「許さねぇよ」としか返さないですね。許す・許さないを決めるのは毒親育ちをした本人であって、他人が決めることではありません。

例えば「誰かにナイフで刺された」という行為でしたら「相手も大変だったのだから、刺されたあなたも許したらどう?」なんて理屈は通らないですよね。

——年末年始やお盆など「家族で過ごすべき」という空気の強い時期がありますが、「帰りたくないけれども、帰らなきゃ」と悩んでいる方にメッセージをいただきたいです。

「帰らなきゃ」と義務のように感じている時点で帰らなくていいと思います。実家に帰ることで「嫌だな」という感情以上の何かしらのメリットがあるなら検討してもいいと思うのですが、何のメリットもないのに交通費と時間を使って帰る理由はない。自分の感情がよくわからない場合も、今まで泊まっていたところを日帰りにしてみる、といった方法もあります。帰省は義務ではないですからね。

親から鬼電がかかってきても「そっちはそっちで過ごして」と断ってもいいでしょうし。親が子どもに依存してくる、つまり親が自立できていない・子離れできていないのに、子どもが面倒を見たり情けをかける必要はありません。

誰の目も気にせず好きなものを食べ、クリスマスケーキをホールで食べたあと遊びに出かけてもいいし、家でゆっくりしてもいい。友人たちと集まって新年パーティーをしてもいい。自分だけで過ごす年末年始は最高です。

少し派生しますが、介護に関してもプロに任せた方が絶対にいいと思いますが「家族で対応しなきゃいけない」と思う人が多いことも問題だと思います。良好な関係だった家族でも問題が起きるくらいですからね。介護も子どもがする義務はないので、積極的に福祉に繋がることを検討した方がいいと思います。

※後編に続きます。

『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)
『そんな親、捨てていいよ。~毒親サバイバーの脱出記録~』(KADOKAWA)



【プロフィール】

尾添椿(おぞえ・つばき)
イラストレーター、漫画家。東京都出身。両親と絶縁したことを漫画にしてSNSに公開したことをきっかけにエッセイ漫画を描きはじめる。『生きるために毒親から逃げました。』(イースト・プレス社)として書籍化される。

●X(旧Twitter):@ozoekkk
 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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