死亡率・生活習慣病に影響?健康な長寿者の食生活に学ぶ【発酵性食物繊維】の摂り方とおすすめ食材

 死亡率・生活習慣病に影響?健康な長寿者の食生活に学ぶ【発酵性食物繊維】の摂り方とおすすめ食材
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人生100年時代を健康で過ごすには、食生活を見直し免疫力を落とさないことが大切です。近年研究が進む“発酵性”の食物繊維は、人生100年時代に摂りたい最も重要な食品素材として注目されています。『発酵性食物繊維コンソーシアム』のメンバーである大妻女子大学教授、日本食物繊維学会理事長の青江誠一郎先生と、京都府立医科大学教授の内藤裕二先生に発酵性食物繊維について解説していただきました。

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穀物由来の発酵性食物繊維は死亡率、生活習慣病に影響

「2019年12月に、厚生労働省より『日本人の食事摂取基準』の2020年度版が公表され、2020年4月より運用が開始されました。その中で、食物繊維の摂取量が総死亡率、心筋梗塞、脳卒中、循環器系の疾患等の生活習慣病の発症率と関連があることが明確に示されことは画期的であり、次々とあきらかになる食物繊維の健康効果を如実に反映したものと言えます。しかし、食物繊維の1日の成人の理想的な摂取量は24g※1でありながら、実際の摂取量は18g※2前後と6gほど差があることが課題となっています。戦後間もない1955年には食物繊維を22.5g摂取していましたが、現在は2割ほど減少し18.4gとなっています。大きく減っているのは、野菜ではなく穀物繊維由来の食物繊維です。海外研究※3を含め、穀物由来の食物繊維と疾病の関係が続々と明らかにされており、世界で穀物由来の食物繊維が注目されています」(青江先生)

※1)厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2020年版」
※2)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」
※3)Aune D et al: BMJ 2016;353:i2716

死亡リスク減
Aune D et al: BMJ 2016;353:i2716

ゆっくり発酵する食物繊維、“アラビノキシラン”パワー

「腸内で発酵しやすい食物繊維を発酵性食物繊維といいます。穀物には多くの発酵性食物繊維が含まれ、その代表的なものがアラビノキシランとβグルカンです。アラビノキシランは全粒小麦・小麦ブラン、玄米・米ヌカ、ライ麦などに、βグルカンはオーツ(えん麦)、大麦などに多く含まれます。アラビノキシランは、大腸を通過するうちに発酵を受けやすい形に変化します。大腸の奥にはビフィズス菌、酪酸菌などが存在し、そこで発酵により有用菌の活動を活性化します。酪酸菌とはその名のとおり酪酸を産生する有用菌です。酪酸は、有用菌が棲みやすい環境をつくり、腸の粘膜を保護、炎症を抑制、アレルギー抑制、がん化細胞の増殖抑制など全身の健康に影響することがわかっています」(青江先生)

大腸の奥に有用菌
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1日プラス2g以上の摂取で食生活を改善

「食物繊維の分類として水溶性、不溶性という分類が知られていますが、これは物理化学的性質上の分類で、世界的には発酵性・非発酵性による分類が主流です。発酵性食物繊維は、健康効果が続々と発表されています。最近の研究では、妊娠中の母親の腸内において、酪酸を含む短鎖脂肪酸(発酵による産物)が多いと、子どもの代謝機能を整え将来メタボリックシンドロームになりにくいことがわかりました※4。発酵性食物繊維は、1日プラス2g以上の摂取を目指しましょう。玄米や小麦ブランおよび小麦全粒粉、大麦やオーツ麦などの穀物を食事の1品として意識的に取り入れることで、食生活の改善ができます」(青江先生)

※4)Kimura, I et al: Science,Vol. 367, Issue 6481DOI: 10.1126/science.aaw8429 

健康な長寿者は、腸内細菌に多様性があり酪酸産生菌の割合が高い

「男性の長寿の世界記録は、故 木村次郎右衛門さん(2013年逝去)で116歳でした。木村さんが住んでいたのは京都府の京丹後市で、100歳以上の高齢者の人数が全国平均の約3倍という長寿者が多い地域です。我々はここに着目し研究を続けたところ、京丹後市の高齢者はインフルエンザの罹患率、大腸ガン罹患率が低く、最近の調査では80~90歳代の血管年齢が極めて若いことがわかりました」(内藤先生)

そこで内藤先生の研究チームは、京丹後市と京都在住高齢者の腸内細菌叢を比較しました。

「京都市内と比較して、京丹後市では腸内細菌に多様性があり、ロゼブリア菌、コプロコッカス菌、ラクノスピラ菌などクロストジウム・クラスターXIVaグループに属する酪酸産生菌が多いことがわかりました」※1(内藤先生)

※1)Naito Y et al.J Clin Biochem Nutr 2019, 65: 125-131. 

酪酸産生菌は新型コロナウイルス、インフルエンザ感染症を抑制

「最近の研究では、酪酸産生菌の働きがT細胞、マクロファージ、樹状細胞、さらにはB細胞など免疫細胞に影響することがわかってきました。B細胞は腸管免疫で極めて重要な働きを示すIgA産生細胞にも影響します。さらに動物実験ですが、酪酸はインフルエンザウイルスをやっつけるTリンパ球を増加させることが報告されました。酪酸を含む短鎖脂肪酸は、骨髄に影響し免疫機能を強化しインフルエンザによる病態を改善することもわかってきました」(内藤先生) 

健康な長寿者は発酵性食物繊維の多い食事を毎日摂取

「我々は京丹後市と京都市の高齢者にアンケートをとって食事内容を比較しました。その結果、ヨーグルトは共に4割くらいの方が毎日食べていましたが、発酵性食物繊維に大きな違いがありました。京丹後市では、4人に1人は全粒穀類食品を毎日、3人に1人は芋類をほぼ毎日(週に5~6日)食べていました。京都市と比較すると大変高い割合です。また、京丹後市の郷土料理を調べたところ、全粒穀類、野菜、海藻など発酵性食物繊維が多いこともわかりました」(内藤先生)

ヨーグルト
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免疫力アップに必要な “発酵”ベスト3とは?

“発酵”はこれからの人生100年時代を、健康に生き抜くために重要なキーワードであることがわかりました。

「いかに酪酸産生菌を含む有用菌を増やして、腸内に定着させるかが重要です。そのためには、まず、アラビノキシランを代表とする発酵性食物繊維を積極的に摂ることが第一です。次に、発酵を起こす有用菌を食品からプロバイオティクスとして摂るのも有効でしょう。有用菌がお腹の中に少ない人にとっては、発酵食品を摂って、発酵における様々な代謝物、ペプチド、アミノ酸を含む発酵食品をプラスするのもいいでしょう」(内藤先生)

“発酵”ベスト3

1. 発酵性食物繊維…玄米や小麦ブラン、小麦全粒粉、大麦やオーツ麦などの穀物など
2. 発酵菌(酪酸菌、乳酸菌)…ぬか漬け、ヨーグルトなど
3. 発酵食品…チーズやヨーグルト、納豆、味噌など

教えてくれたのは…

・青江誠一郎先生
日本食物繊維学会 理事長/編集委員 大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞。著書多数、食物繊維研究の国内第一人者。

・内藤裕二先生
京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座 教授。消化器病学の専門家として最先端の研究を行う傍ら、臨床の場で40年以上にわたり 5万人以上を診察した経験。長寿腸内菌として知られるようになった「酪酸菌」研究の第一人者。

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text by Chiaki Okochi

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

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