摂食障害を文化人類学の視点で考えると…人類学者・磯野真穂さんに聞く「太ること・痩せること」の意味

 摂食障害を文化人類学の視点で考えると…人類学者・磯野真穂さんに聞く「太ること・痩せること」の意味
吉野なお
吉野なお
2022-12-10
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――「みんなと生きる」の「みんな」が、SNS上で極端なダイエットをしている者同士になると、いかに食事量を減らすかいうことを共有して、そんな状態をリアル生活で周りの人に心配されても「私のダイエットを邪魔しようとしている」と思うかもしれません。

磯野:苦しさで結びついてしまう…「私今日こんなに過食しました」とか辛さや酷さで争っちゃうのが結束の重点になっていくのは怖いなと感じます。ダイエットって終わりがない。人間って意外と「辛さ自慢」が好きで、それを通じた仲間意識ができることもあります。でも、「辛さの強度」が結びつきのポイントになってしまうと、辛さを手放すことが難しくなることがある。こうなると本末転倒です。

――ダイエットのきっかけが、人に受け入れてもらいたい、社会の中で自分の立ち位置をよくしたい、と言って始まっていくことも多いですが、やっているうちに誰に受け入れて欲しいか、が抜けていきますよね。

磯野:おっしゃる通りです。「あなたはあなたでいい」は私は違うと思っていて。「あなた」は誰かと生きないと、あなたになれないんです。いわゆる、世の中一般みたいな、あなたのよく知らない多くの人に素敵と言われたいなら、皆が羨む体型を目指すこともありでしょう。でも、それは本当にあなたが目指していることですか?どういう人と一緒にいたいか、どういう人といると心安らぐか、それを見失わない方がいいと思います。SNS上の数字、つまり「褒められた数」というのは、一時的な刺激にしかなりません。

――SNSは快感になりやすいですね。

磯野:実はTikTokって、それなりに誰でも等しくバズるようになっている、と聞いたことがあります。そうすればユーザーは使ってくれますよね。最近のSNSは、運営側が見せたいものを、ユーザーに見せることができるプログラムになっていることが多く、自分で情報を操作しているつもりが、見えないところで逆に操作されていることもあります。そういうものにはある程度注意を払っていないと、わかりやすいものに足を取られてしまいますね。それが今の社会の難しさだと思います。例えば「短期間で痩せた」という体の変化の投稿には、ドラマがあるように思えるので、反響が大きく自分も人生が変わったような気がします。でも実はその後、体調を崩している人もいます。「あなたは何にでもなれる」というような希望のメッセージがよくありますが、その方向性を間違えると、終わりなきダイエットに陥ってしまうことがあるでしょう。

*インタビュー中編「糖質制限も過食も"禁じられているから"手を出したくなる?」に続きます!

お話を聞いたのは…磯野真穂さん
人類学者(専門領域は、文化人類学と医療人類学)。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、アスレチックトレーナーの資格を取るべく、オレゴン州立大学スポーツ科学部に学士編入するも、自然科学の人間へのアプローチに違和感を感じ、同大学にて文化人類学に専攻を変更。シンガポールと日本で摂食障害のフィールドワークを行い、応用人類学修士号、早稲田大学にて博士(文学)を取得。その後、早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。著書に『なぜふつうに食べられないのか: 拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『ダイエット幻想 やせること、愛されること』(筑摩書房)他。

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吉野なお

吉野なお

プラスサイズモデル・エッセイスト。雑誌『ラ・ファーファ(発行:文友舎)』などでモデル活動をしながら、摂食障害の経験をもとに講演活動やワークショップのほか、ZOOMでの個人セッションも行っている。mosh.jp/withnao/



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