悠未ひろさんと考える、40歳からの食とライフスタイル|キーワードは"頑張らない"?管理栄養士対談
宝塚歌劇団・宙組の男役スターとして活躍し、2013年に卒業して早8年。変わらぬ自然体の美しさで、ミュージカルやコンサートのステージなど、ますます活躍の場を広げている悠未ひろさん。心も体も目まぐるしく変化する40代を快適に過ごすためのヒントとは?「頑張らない」をモットーに笑顔と健康でいられる食を提案している管理栄養士の石松佑梨さんとお話ししました。
20代はどんなにハードでも「若さ」で乗り切ることができた
悠未さん(以下、敬称略):はじめまして。よろしくお願いします。
石松さん(以下、敬称略):こちらこそ、よろしくお願いします。お目にかかれることをとても楽しみにしていました。じつは私、宝塚時代の舞台を何度も拝見しておりまして……。はじめまして、という感じがしないんです。
悠未:そうなんですね。嬉しい! ありがとうございます。
石松:キラキラと輝いていて、本当に素敵でした。もう卒業されてから9年くらいでしょうか? あの頃と変わらないベストなプロポーションを維持されていて、今も素敵です。
悠未:いえいえ、体の変化はいろいろありまして…。今日はそのあたりのことを伺いたいと思っているんです。
石松:ぜひ! ところで、宝塚歌劇団って公演数がとても多いですよね。しかも、歌って踊ってもの凄くハード。けっこうしっかりと体調管理をされていたのですか?
悠未:それが、あまり意識はしていなかったんです。おっしゃる通り、舞台はもちろんハードでしたし、そのためのお稽古や基礎レッスンもあったので、家に帰ると気絶するように寝てしまうほど、毎日クタクタでした。運動量はもしかしたらアスリート並みだったかもしれません。でも、自分は理論的に考えてトレーニングする、という感じではなかったんですよね。それに栄養のことにも無頓着でした。動いているのでお腹もすくし、昔から食べることが大好きなので、とにかく食べたいものを食べたいだけ食べている感じでしたね。運動量も多いので、体重を気にすることもありませんでしたし。でも今になって少し知識がついてくると、もっと気をつければよかったのかな、なんて思ったりします。
石松:人間の体って不思議で、必要なものが欲しくなるんですよね。だから、栄養を考えなくてもバランスがとれていたはずです。そうでなければ、あんなに素敵なパフォーマンスができる体にはならないし、そもそもそんなハードな生活をしていたら倒れてしまいますから。
悠未:確かに! ちょっと安心しました。

石松:ただ、若いうちはそれでも大丈夫なのですが、30歳手前、27、28歳くらいになると、やはり少しずつ変化してくるんですよね。具体的には自律神経が乱れてきます。その結果代謝が落ちたり、血流が悪くなってきたりして、さまざまな不具合が起こりやすくなるんです。何か感じられましたか?
悠未:その頃はまだ、あまり変化を感じることはなかったかもしれません。宝塚歌劇団では入団して7年目(今は6年目)に、正式にタレントとして歌劇団と契約を結ぶんですね。27、28歳というとちょうどその頃かな? 新人公演で初の主役をやらせていただいたりして、おおげさにいえば「何よりも好きなことだから、命をかけて成功させたい」と無我夢中だったので、感じる暇がなかったのかもしれません。
石松:ちょっと話がそれますが、主役ってすごく緊張しそうです。
悠未:それはもう! 主役に限らず舞台に上がるのはとても緊張しますし、それは経験を積んでも変わりません。ただ違うのは、コントロールできるようになるんです。興奮していて緊張している自分を冷静に見ている自分、なんていうか小さな自分をいつも肩にのせているイメージです。だから、想定外のこともたくさん起こるのですが、緊張していても、パフォーマンスは思ったようにできるようになってきます。
石松:もう1人の自分を持つ。それって、人生のいろいろな場面で役立ちそうですね。充実した日々と、そうやってコントロールされていた経験の中で、自然と自律神経のバランスが整えられていたのかもしれませんね。

40歳手前、卒業後に燃え尽きて
悠未:その分、ガクッときたのが宝塚卒業後です。最後まで全力で走り続けることだけしか考えてなかったので、本当に燃え尽きてしまって…。なかなか前向きになれないところに、肉体的な衰えを感じたり、体型が変わってきたりするとそれがストレスになってさらに後ろ向きに。それまではどんなにハードでもストレスを感じたことがなかったので、完全に悪循環に陥っていましたね。
石松:卒業後、すぐにミュージカルの舞台などで活躍されているイメージだったので、驚きました。でも、あれだけハードな生活だったわけですから、体も心もその変化に慣れるのは凄く大変なこと。次のステップへ向けての必要な時間だったのかもしれませね。
悠未:はい。今になってみるとそう思います。それに、プレ更年期でもあったのかな?と。
石松:もちろん、それもあると思います。歳を重ねていくと、自律神経の乱れはさらに大きくなっていくんですね。それが更年期障害の原因でもあります。今はいかがですか?
悠未:少しずつ自分の体にうまく向き合えるようになってきたと思います。そうそう、宝塚時代はとにかくたくさん汗をかいていたんですね。舞台の衣装も絞れるくらい! 卒業後、けっこう辛かったのが汗をかかなくなったことで、体が詰まった感じがして不快でした。なんとか汗をかこうといろいろやってみたのですが、汗をかいたところで不快な感じはとれなかったんです。特にホットヨガ。つい誰よりも高く伸ばそう!私のほうができる!とか頑張ってしまって、「自分と向き合う」というヨガの精神とはまるで逆方向に(笑)。これじゃダメですよね。
石松:でも、なんだかわかります。
悠未:宝塚時代はストイックに男役を突き詰めていたので、例えば、スカートを履くことやマニキュアをすることですとか、自分の中での縛りから自由になるのにかなり時間がかかりました。でも自分のペースで変化に慣れていくうちに、今、自分が何をしたいのか、ということに意識が向くようになり、今の自分を受け入れることもできるようになりました。変なストレスを感じなくなったら、汗をかかなくてもスッキリ。汗はただ、物理的にかけばいいというものでもなかったんですよね。

50代を快適に過ごすには、変化していく自分を受け入れることが大切
石松:そうなんです。お伝えした通り、自律神経が乱れるといろいろ滞ってくるので、巡らせることが大切なんです。ストレスはその巡りを妨げる大きな要因なので、欲求も含めて今ある自分を受け入れることってすごくいいと思います。だから私は「頑張らない」ことを大切にしていますし、みなさんにもそうお伝えしています。自分がやりたいこと、好きなことじゃないと!
悠未:それを伺って安心しました。悪循環に陥っていたころは、食べることにも罪悪感を感じるようになっていたんですが、大好きなだけにそれが悲しくて……。糖質オフとか、いろいろダイエットもやってみたんですが、どれも合わず…。
石松:ですよね。無理して頑張ることって体にも心にもストレスになって逆効果なんですよね。それに体質も体調も人それぞれなので、ダイエット法も食材も、絶対いい!というものはないんです。
悠未:よかった! 今は好きなものを食べて、あれ?ちょっと太ってきたな?と思ったら意識的に運動する、というスタイルです。歩くときは8kmくらい平気で歩きます。町を探索するみたいで楽しいですよ。
石松:すばらしい! 今でもプレ更年期かな?と思われることはありますか?
自分を受け入れることと同じように、自分で考えることも大切
悠未:自分を受け入れることでラクになったとはいえ、代謝も落ちているし、疲れもとれにくいし、若いころにはなかった不調を感じることはもちろんあります。
石松:そんなときはどうされていますか? 何かお薬を飲むことはありますか?
悠未:人工的な薬より、自然派のものをいくつか試してみて、今は「アシュワガンダ」という、アーユルヴェーダでも用いられてきたストレスに効果があるとされるハーブをとり入れています。実際、とても体に合っていると感じています。
石松:それはいいですね。どんないいと言われているものでも合わないことはあります。自分の体の声を聞くってとっても大切です。これから歳を重ねると起こる変化は誰にでもあることですが、その変化は人それぞれで、感じ方もいろいろです。誰かと比べるのではなく、ヨガと同じように自分と向きあって、自分が心地よい状態におくのが1番。辛いときはできないことは無理をせず、誰よりも自分を甘やかしていいと思うんです。
悠未:そうですよね。最近つくづく思うのは、自分軸で考えることの大切さです。誰かがいいと言っている、流行っている、という理由ではなく、自分がこう思うから、好きだから、心地よいからなど、自分で感じたことを軸に選ぶようにしています。それは石松さんがおっしゃる「頑張らない」ことにも通じる考え方ですよね。
石松:まさに! 無理して頑張るって自分にウソをつくことですから。今日お話して、悠未さんがとてもナチュラルに美しい理由がわかったような気がします。ちゃんと自分に向き合い、自分軸でこだわっていらっしゃるからなんですね。
悠未:ナチュラルって言っていただけるのはとても嬉しい! ありがとうございます。こうやっていろいろな気づきを得られることも多いし、歳を重ねるってマイナスなことばかりじゃないですよね。むしろ、どんどん自由になっていける気がします。
悠未ひろさんプロフィール
1976年11月5日、東京都生まれ。十文字学園出身。1997年、宝塚歌劇団に入団。宙組の男役スターとして『逆転裁判3』など数々の舞台で17年間活躍し、『風と共に去りぬ』で2013年に退団。退団後は『MOON SAGA-義経秘伝-第二章』、『NARUTO』大蛇丸役、『花園』、『囚われのパルマ』などの芝居やミュージカルの舞台に出演。長身を活かしたダイナミックなパフォーマンスと、のびやかな歌唱を活かし、舞台にコンサート、ライブにと幅広く活躍。3月25日(金)~27日(日) Grand Maison ORENO(東京・大手町)にて俺のpresents『MUSICAL SHOWBOX Ⅲ』に出演予定。公式ウェブサイト
石松佑梨さんプロフィール
サッカー日本代表選手をはじめ、世界で活躍するトップアスリートたちの専属管理栄養士として従事。のべ2万人以上に提供してきた「頑張らない食トレ」を武器に、近年は企業の健康経営や地域創生も展開する。幼い頃から「おいしい」への執着心が人一倍強く、おいしく健康に食べるための「ずるい栄養学」で、誰もがおいしく食べて健康になれる社会を目指している。著書に『過去最高のコンディションが続く 最強のパーソナルカレー』(かんき出版)がある。ヨガジャーナルオンラインでは、頑張らなくても続けられる「ダイエット朝ごはん」を連載中。
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