ボディメイクトレーナー・佐々木ルミさんが「自分の体は自分しか大事にできない」と気づくまで
モデル・ボディメイクトレーナーとして活躍する佐々木ルミさん。「適度な運動で健康的な毎日を送るウエルネスエイジング」を提唱し、ボディメイク、食、美容といったさまざまな面から女性たちの健康をサポートしています。そんな佐々木さんに、ダイエットをこじらせた30代のどん底人生から、トレーニングに出会い、トレーナーとして人生が変わるまでのお話を聞きました。
やりたいことができないから、1年でモデルをやめた
――学生時代はバレーボール選手として、その後モデルとしてもご活躍されてきた佐々木さん。ボディメイクトレーナーになるまでのことについて聞かせてください。
中高生の頃はバレーボール漬けの日々を過ごしていました。国体での優勝経験もあります。バレーボールは好きだったけど、髪は短くないといけないし、同年代の子たちが出かけて遊んでいる時もずっと学校と体育館の往復のような生活でした。バレーをやめたらやりたいことを思いっきりできるかな、と期待は大きかったですね。そのころから、モデルになりたいという夢を持ち、高校卒業後はモデルの道へと進みました。
ところが、モデルになると今度は、痩せていなくちゃいけない、髪は伸ばさなくちゃいけないということに縛られるようになりました。最初は「モデルというお仕事はこういうものなんだ」と頑張っていたんですが、ある日、抑圧された気持ちが爆発してしまい、事務所に内緒で金髪にしちゃったんです。今考えるととんでもないことをしでかしたと思うのですが、現場に行ったら、金髪の私を見てクライアントの人が驚いて、帰されたこともあります。自分がやりたいことができないのならと、モデルの仕事は1年で辞めました。
――常に抑圧された状況の中で生活されていたということですね。モデルのお仕事を辞めて、何をされたんですか?
高校生のときに経験できなかったことを片っぱしから経験しました。アルバイトをしたり、友達と遊びに行ったり。その生活の中で、モデルのスカウトを何度か受けたので、もう一度挑戦してみようと思いモデルに戻ることにしたんです。
幸運にも復帰後はロンドンコレクションやニューヨークコレクションに参加できて、東京でも一流のお仕事をたくさんやらせてもらいました。そのまま、20代後半までは順調に第一線でモデルとして活動させてもらいました。
先が見えない不安で過食が増えた20代後半
――20代後半で、モデルのお仕事に変化が起きたんですか?
今とは時代が違ったんですよね。当時は、モデルは20代でキャリアが終わるとされていた時代です。今のように30代をターゲットにした雑誌もあまりなかったし、30代、40代で活躍されているモデルさんと言ったら、山口小夜子さんレベルの方だけでした。多くのモデルは、30代になるタイミングで結婚するか出産を機に引退するか、もしくは女優やタレントに転身していくような人が多かったと思います。
――佐々木さんは、30代を迎えるタイミングでモデルというお仕事を続けることとどう向き合っていたのでしょうか。
女優の道を考えたこともあったんですが、それ以前にモデルとして仕事が少なくなってきたこや、プライベートでの出来事がストレスになって、そのころから過食が増えていきました。先行きが不安なこと、自分がやりたい仕事ができないということを、食べることで埋めるようになってしまったんです。そうすると、当然ながら太っていくんですよね。
私、バレーボールをやめてからは運動という運動もしていなかったし、食事や健康にも全く気をつかってなかったんです。今思うと、若かったからなんとかなっていたけど、不健康すぎる生活をしていたなと思います。
――過食になって、体型が崩れていくとモデルのお仕事に支障がでますよね?
そうなんです。事務所に入っているので、たまにオーディションの仕事が入るんです。そうすると「やばい! 痩せないと!」となり、一週間何も食べずに、近所のスポーツジムに行って3時間歩いたりして体重を戻すんです。絶対にやってはいけない方法なんですが、あの頃は精神状態も普通じゃなかったし、バレーボールで身についた根性がそこで発揮されてしまって……。何も食べないから、当然スルスルと痩せていくんです。それで、オーディションには合格するんですが、実際そのお仕事のタイミングではまた体重が戻っちゃう。そんなことが何度か続き、事務所には所属したままでしたが、30代になってモデルの仕事からしばらく離れました。
――モデルというお仕事を続けることに向き合ったことで、自分を追い込んでしまったということですか?
私はよく、冗談半分本気半分で「30代は私の暗黒時代」と話しています。その頃の写真もあまりないんですよね。残したくないという気持ちもあるし、外見に自信のない自分をあまり見たくなかった。今考えると、当時の私は、体型や見た目のことに縛られすぎて、身動きが取れていない状態でした。過食した直後に2〜3kg増えることが、私にとっては10kg増えたくらいの感覚で、思いっきり自己嫌悪に陥ってしまう。友達と約束をしていても、前日に過食しちゃうと「こんな太っている姿を見せられない」という気持ちになってドタキャンしたりしていました。友達にも申し訳なかったのですが、私にはそれが精一杯でした。本当によくない日々を過ごしていたし、あの頃の私は全く人生を楽しんでなかったですね。
痩せたいと思うことをやめ、健康になることを考えた
――まさに、どん底という状況から抜け出すきっかけになったのはなんだったんですか?
どん底でいることに、ほとほと疲れたんです(笑)。私はこの先、40代・50代になってもこんなことをしているのかと考えたら、心底ゾッとしました。少しいい時期とかもあるんですけど、根本的なものが改善されていないから、ちょっとしたきっかけで過食にはまり、またどん底に戻っちゃうんですよね。精神的にはボロボロな状態だったんですが、実はこの頃に、健康を意識し始めました。このままではダメだという気持ちがあったので、健康にいいと言われることをかたっぱしからいろいろ試したこともあります。なかなか合うものがなかったんですが、最終的に「これだ!」と思ったのがトレーニングだったんですね。トレーニングをしてから、自分の心が変わり出したのを覚えています。それまでずっと体型や見た目に縛られていたので、痩せたいと思うことや、自分の見た目や体型が原因で生活がつまらなくなるようなことはやめようと思ったんです。
――痩せたいと思うことをやめて、最初にしたことはなんですか?
カロリーを考えず、よく食べるようになりました。体型のことなど考えずに「お腹が減ったら好きなものを食べて、お腹がいっぱいになったら食べない」という、子供の頃の感覚を思い出したかったんです。痩せたいと思っていたときは、友達と食事に行っても豆腐や野菜など低カロリーなものしか食べてなかったので、よく食べて、元気そうな最近の私を見て、友人たちが「変わったね」と言います。昔は、食べ物はカロリーにしか見えてなかったんですね。今は食べのもは自分を作ってくれる栄養に見えます(笑)。
――健康になりたいという気持ちが大きな繁華をもたらしてくれたんですね。トレーニングをはじめて、食事をしっかり摂るようになったことで最初に感じた変化はどんなものでしたか?
とにかく元気になりました。運動をすると血流など良くなって体の調子も良くなるし、セロトニンやドーパミンなど幸福感を高めてくれるホルモンも分泌されるから、気分も爽快で、心身ともにすっきりするんです。モデル時代は、とにかくラクをして痩せようと思っていたから運動をすることなんて考えもしなかったんです。だから、トレーニングをはじめたばかりのころはスクワットもできなかったんですよ(笑)。それが、継続することで、以前できなかったことができるようになると自信につながるし、もっと変わりたい!と思えました。そうやって、マインドも体に引っ張られて元気になっていきました。
――良いことづくめですね。トレーニングをはじめてどのくらいでそこまで変化しましたか?
最初の2,3年は、それまで何年も続けてきた悪い癖がいったりきたりしていました。その経験から、心と体は、どちらかではなく両方が健康になるということが大事なんだと理解しました。
健康を意識すれば自ずと体は変わる
――ご自身でトレーニングをするだけではなく、トレーナーになろうと思ったのはなぜですか?
どん底にいた頃は、真っ暗闇にいる感じで、どこに進んでいいのかが本当にわからなかったんです。それが、トレーニングをはじめて自信を取り戻していく中で、トンネルの先に光が見えて、「これだ!」と思えた。ダイエットで苦しんでいる女性は、想像以上に多いです。そして、それによって心身を崩している女性も多い。そんな女性を一人でも減らしたいと思いました。克服の仕方はそれぞれなんだけど、その1つに体を鍛えるという選択肢があるということを伝えたいと思ったんです。
――ダイエットで悩んでいる人が多いというお話が出ましたが、多くの女性たちが「痩せているか」「太っているか」の2択で自分を判断してしまうことについてどう感じていますか?
社会がそうさせていると私は感じています。日本人って、当たり前のように体型を指摘しますよね。例えば久しぶりに会った人に「痩せたね」「太ったね」とか。そのことに対して、これまでは疑問を持たなかったり、不思議に思わないような環境の中でプログラミングされてしまっているように思うんです。「細い=美しい」という感覚になっているけど、そうでなないですよね。
私自身、ファッション業界の中で以前は当たり前だった、モデル=細い=美しいという世界で表現をしてきましたが、モデルは、表現をする人、つまり自分の体でアートを表現していて、ある意味アスリートのようなものだと思います。一般の方が、それと同じことをする必要はないですよね。
これまで太っている人は、「あなたはそのままじゃダメなんですよ」というプレッシャーを受けながら育ってきている気がします。だから、「そのままでいいよ」と言ってくれる人がいれば、気がラクになるんじゃないかなと。そういう意味では、ぽっちゃりしていることがネガティブに囚われないような社会に変化しているのはいいことだと思います。この流れで、ダイエットから摂食障害になったり、自分を認めてあげないような精神状態になる人が減るといいなと思います。
――佐々木さんは、「ボディメイクは、女性であることを謳歌しながら自信を持ち続け、豊かな人生を歩むための手段」とメッセージを持っていますが、自信を持つ=自己肯定感ということで言えば、佐々木さんご自身は今、自己肯定感が高い状態にありますか?
バレーボールで国体優勝をしたときも、モデル時代に世界的なアーティストやクリエイターと仕事をしていたときも、私の中では自己肯定感が高い時期だったと思うんです。自分が努力していることで結果を得られているという自信はその当時もあったから。今は、更年期真っただ中で、体型的にはベストな自分ではないんだけど、それを受け入れて、その上で自己肯定できています。自己を肯定する基準がいい意味で変わってきたかなと思います。
――佐々木さんのボディメイク指導の特徴を教えてください。
「痩せたい!」とか「スタイルがよくなりたい」とかあると思うんですが、そこだけを求めると、実はあまりいい結果に繋がらないんです。大切なことは、理想とする自分になったらどうなりたいかということ。カウンセリングで「何をしたい? どうなりたい?」と聞くと、「人生を楽しみたい」「自信を持ちたい」「服を着こなしたい」などと返ってきます。
きれいになって人生を楽しむためには、まずは健康じゃないといけないので、体の機能をとにかく整えることが大切だと伝えます。
私のところに来る方は、30代半ば以上の方が多くて、その時点で姿勢がゆがんでいたり、猫背になっていたり、体が硬くなっていたりする方が多いので、まずは筋肉をほぐして骨格を整え、ニュートラルな状態にしてからトレーニングをはじめます。ストレッチだけで60分終わってしまうこともあるくらいです。
いきなりきついことをさせることもないし、厳しい食事指導もありません。人それぞれ摂りやすい食事というのがあるので、カウンセリングしてベースから整えていきます。体を変えていく際は、ほんの少しの「無理」が「負担」になって、続けられない原因にもなるので。
肩書きなし!「佐々木ルミ」として生きる
――佐々木さんにとって、ボディメイクのゴールとは?
我慢をしなくても、自分が自分で心地良くいられて、自分の好きな体型を維持していけることです。私は、80%は食事に気を遣っていますが、残りの20%は食べたいものを食べるようにしています。「どのくらいで痩せられますか?」とよく聞かれますが、状況にもよりますし、その人の元々の体型にもよります。「あなた次第」なんですよね。でも、体型維持は短期ではなく長いスパンで向き合っていくものだと思うので、うまく取り入れた生活をしていくこと。そう考えると、「ボディメイクのゴール」はないかもしれませんね。
――佐々木さんにとって「からだ」とは何ですか?
「Body Is My Temple」という言葉がありますが、まさにそれだと思います。精神的なことを考えたら、体って自分の魂の入れ物ですよね。今世で与えられた体なので、大事にしないといけない。どうしてもないがしろにしちゃうけど、自分の体は自分しか大事にできないないので、一番大切にしないといけないものですよね。
――最後に、10代の頃、モデルのお仕事での抑圧で金髪にされたというお話がありましたが、今また金髪にした理由を聞いてもいいですか?
モデルの仕事では、求められているものに応えるため、どうしても髪型などに制約があるんですよね。でもこれからは、「私」を求めてもらえるようになろう、という心境の変化です。肩書きなし、「佐々木ルミ」として生きていけば、髪の色が何色でも、「佐々木ルミです!」と名乗れるから(笑)。
プロフィール:佐々木ルミ
インターナショナルなファッションモデルとしてショー・雑誌・CMなど幅広く活躍後、ボディメイクトレーナーとしても活動を開始。機能的な美ボディを作るメソッドに定評があり、トレーニングでマインドもハッピーに変わった自身の経験から、健康的で綺麗に年齢を重ねる「ウェルネスエイジング」を提唱している。恵比寿・広尾エリアで活動中。著書に『キレイをかなえるデトックスウォーター』(宝島社)、『イルミネートボディ・ダイエット』(サンマーク出版)がある。
オフィシャルサイト「Illuminate Body」
Instagram:@illuminatebody
着用ウェア:aloyoga/ブレステイキング自由が丘
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
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