「家、家族、お金は必要ない」インドの家なきおじさんに教わったこと

 「家、家族、お金は必要ない」インドの家なきおじさんに教わったこと
Wari Om Yoga Photography
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本当の献身とは何か

その後、彼に水の流れが良い場所を案内してもらい、手に持っていた花カゴの中のロウソクに火をつけて、ガンジス川に流しました。彼は川の水を顔や頭につけて清め一口飲むと、目を閉じて手を合わせ、英語でこうつぶやいたのです。

「今日出会った、日本から来た大事な友達がいつも幸せでありますように。母なるガンジス川よ、彼女がいつも元気で、よい家、よい家族に囲まれてよい仕事が出来ますよう見守ってあげてください」

それを聞いた瞬間、私は自分の情けさと彼への感謝の気持ちでいっぱいになり、涙が溢れました。

彼の生活は、物質的には豊かではありません。しかし、快く自分の神聖な場所、全てを使わせてくれて、大事な物をプレゼントしてくれました。

彼の英語は、決して上手ではありません。しかし一生懸命に私とコミュニケーションをとり、最後には私のために片言の英語で一生懸命祈りを捧げてくれました。

私は、彼をお金目当てではないか…と疑っていた自分を恥じました。見返りを求めず、純粋な気持ちで祈る彼の姿をみて、本当の献身とは何か、見返りを求めないとはどういうことかに気づかされたのです。

泣いている理由を問われ、「会ったばかりの家もないあなたが、私のために祈ってくれるから、ありがたたいし申し訳ないし感動したからです」と答えると、彼はこう言いました。それは、今まで学びを得てきた、どのワークショップよりも心に響く教えでした。

「僕の神様はシヴァ神、シヴァのパワーだ。だから僕には家も家族もお金も必要無いんだよ。ガンジス川のそばで祈れる事ができればそれで幸せだ。でもあなたは違う。あなたはラクシュミーのパワーだ。よい家も、家族も、仕事も必要なんだ。あなたは僕の神様の現れでもあるんだ。僕もあなたも見た目は違うけどみんな友達で家族なんだ」

※ラクシュミー:ヒンドゥー教の女神の一柱で、美と富と豊穣と幸運を司る。

こうして私は、恐らく高い水準の教育を受けてない、家なきおじさんから素晴らしい気付きを得たのです。

彼は「お守りを作ってあげたいから5分だけ待ってくれ」と言い、古びたカバンの中から大き目のルドラクシャ(神聖な実の種でマーラーなどに使う)を一つ出し、赤い糸を出して編み始めました。結局5分ではなく20分以上かかったのですが、それを私に渡しながら「どんな事があってもあなたを見守ってくれるよ」と言いました。

私はお守りの御礼に、黒色の溶岩石で作ったマラーを彼に差し出しました。すると彼は「とっても良いラバーストーンでできたマラだね。シヴァのパワーがあるよ。でも僕は既に持っているから、有難いけど要らないよ」と言って断ったのです。

彼がつけていたマーラーは、小さくて古びていました。例えいらなくても、持っていたら売ることもできたはずです。それなのにも関わらず断ったのは、本当にこの人は必要ないものだったのでしょう。

今思うと、彼が言っていた「日本人の母」とは本当のお母さんではなく、彼のことを見守る、日本出身の優しい方なのかもしれません。

後日談:彼に渡したカレンダーのメッセージ

帰国後にふと思ったのですが、彼に渡したヨガウェアブランドのPRカレンダーに書かれているメッセージが、偶然にもこの時の体験に通じているような気がしました。

Aparigraha-Sthairye Janma-Kathamta-Sambodha(アパリグラハ スタリェ ジャンマ カタムタ サンボダハ)  
ヨガスートラ2章39節

意味: エゴを手放し献身して必要以上の物を得なくなると、人が生まれてきた理由が分かる

彼に出会えたのは偶然でした。でも重なった偶然は必然だったような気もします。本当のヨガの教え・修練とは、マットの外で、いろんな人との出会いや体験の中でこそ得ることができると改めて感じました。

この無欲のサドゥー・シャンカルプリさんは、世間で大事だと思われる物は何一つ持ってないし興味すら持っていませんが、大きなハートを持っています。彼の生き方は素晴らしいですが、私に真似できるものではありません。彼が言ったように私には私の住むべき場所、するべき事があるからです。

しかし、彼に与えられた気付きは、これからの自分の人生や伝えていくことに大きな影響を与えるでしょう。彼の純粋な心が私の心まで開いてくれた、リシケシの最終日の出来事でした。

「家、家族、お金は必要ない」インドの家なきおじさんに教わったこと
ガンジス川沿いで…/Photo by Wari Om

ライター/パク・ヒキ 
福岡YOGABREEZEディレクター。NY発ジヴァムクティヨガのアドバンスティーチャー、瞑想指導者、E-RYT500。2008年師匠のジヴァムクティヨガの創始者、シャロン・ギャノンとデイビッドライフ氏に出会いヨガとは「する」ものではなく、マットの上と外の両方で自分と内面と外面、自分自身と周りとが「調和する生き方を経験する」事だという事を学ぶ。現在はYOGABREEZEを拠点に、国内外のヨガカンファレンスやイベントでヨガ講師として活躍している。

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