紫外線対策をしすぎるとビタミンD不足に?「夏なのに足りない」現代人の意外なリスク|専門家が解説
日焼け止めを塗り、日傘を差し、陽ざしを避けて歩く――肌を守るその習慣は、間違いなく正しい。ただ、太陽の光にはもうひとつ、大切な仕事があるのをご存じですか。それは、体内でビタミンDをつくること。猛暑の外出控えや紫外線対策、食生活の変化――そんな夏の日常が、実はビタミンD不足につながっているかもしれません。大阪公立大学大学院生活科学研究科教授・桒原晶子先生の講演から、現代人とビタミンDの意外な関係をひも解きます。
ビタミンDは「食べる」だけでなく、紫外線を浴びることでつくられる
ビタミンDと聞くと、食事から摂る栄養素というイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、ビタミンDにはほかのビタミンとは少し異なる特徴があります。
一般的にビタミンは、体に必要な量はわずかでありながら、体内では十分につくることができないため、食事などから摂取する必要があります。一方、ビタミンDは食事から摂るだけでなく、皮膚に紫外線が当たることによって体内でもつくられます。
皮膚でつくられたビタミンDと食事から摂取したビタミンDは、肝臓で「25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)」へと変換されます。この血液中の25(OH)D濃度が、体内のビタミンDの栄養状態を知るための代表的な指標として使われています。
ここでポイントになるのが、ビタミンDの状態は「今日、魚をたくさん食べた」「今日、たくさん日に当たった」からといって、一日で大きく変化するものではないということ。
ビタミンDは脂肪組織などにも蓄えられ、徐々に放出されます。そのため血中の25(OH)D濃度は、日々の食事や日光を浴びる生活習慣の“積み重ね”を反映しているのです。
「夏だからビタミンDは足りている」とは限らない
では、日差しの強い夏なら、ビタミンD不足を心配する必要はないのでしょうか。
桒原先生が指摘したのが、現代人を取り巻く生活環境の変化です。
皮膚でつくられるビタミンDの量は、季節や緯度、時間帯、大気の状態、肌の色、肌を露出している面積、そしてどれだけ日光を浴びているかなど、さまざまな条件に左右されます。
特に近年の日本の夏は猛暑が続き、日中の外出を控えたり、できるだけ屋内で過ごしたりする人も少なくありません。外出するときにも、日傘や帽子、長袖などで紫外線を避けることが増えています。
つまり、「紫外線が強い季節」と「自分が実際に紫外線を浴びていること」は、必ずしもイコールではないのです。
さらに、都市化によって屋内で働く人が増えたことも、日光を浴びる機会の減少につながっていると考えられています。
海外の調査でも、近年、血中25(OH)D濃度が低下する傾向が報告されています。桒原先生が紹介した韓国の大規模調査では、特に20代、30代といった若い世代で低下傾向が目立っていました。
「夏だから大丈夫」ではなく、一日の大半を屋内で過ごし、外に出ても紫外線をできる限り避けている現代のライフスタイルそのものが、ビタミンDの状態に影響する可能性があるのです。
日焼け止めを塗るとビタミンDがつくれなくなる?
そこで気になるのが、「日焼け止めを使わないほうがいいの?」という問題です。
紫外線は皮膚でビタミンDをつくるために必要ですから、理論上、紫外線を遮る日焼け止めはビタミンDの産生に影響する可能性があります。
ただし、だからといって「日焼け止めを塗るとビタミンD欠乏になる」と単純に考えることはできません。
桒原先生が紹介した研究でも、日焼け止めの使用と血中25(OH)D濃度との関連については、はっきりとした関連がみられない研究が多くありました。
その理由のひとつとして考えられるのが、実際の日焼け止めの使い方です。十分な紫外線防御効果を得るためには一定量をムラなく塗る必要がありますが、現実には十分な量を塗れていないことも多く、その場合はある程度の紫外線が皮膚まで届きます。
また講演では、日焼け止めを使用しているかどうかだけでなく、「日陰で過ごしているか」といった行動も重要であることが紹介されました。
大切なのは「ビタミンDのために日焼け止めをやめる」と考えることではありません。紫外線による肌へのダメージを防ぎながら、自分の日光を浴びる機会や食生活まで含めて考えることが重要です。
ビタミンD不足は「骨」だけの問題ではない
ビタミンDの代表的な働きは、腸管からのカルシウム吸収を促し、骨の形成や維持を助けることです。
そのため、ビタミンD不足と聞くと、くる病、骨軟化症、骨粗しょう症など「骨の問題」を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし近年では、筋肉や免疫機能との関係など、ビタミンDのさまざまな働きについて研究が進められています。
さらに桒原先生が強調したのが、ビタミンDは高齢者だけの問題ではなく、「すべてのライフステージに関係する」ということです。
たとえば妊娠期には、胎盤でもビタミンDが活性化され、血管新生や免疫調節などに関わります。妊婦のビタミンD不足と妊娠高血圧症候群、出生体重や胎児発育との関連を示す研究も報告されています。
また、小児ではアトピー性皮膚炎との関連も研究されています。ただし、こうした疾患との関係については研究途上のものもあり、「ビタミンDを摂れば病気を防げる」と考えるのは早計です。
重要なのは、ビタミンDが骨だけでなく、妊娠期から子ども、成人、高齢期まで、さまざまなライフステージの健康との関係が研究されている栄養素だということです。
日本人のビタミンD摂取を支えているのは「魚」
では、ビタミンD不足を防ぐために、食生活では何を意識すればよいのでしょうか。
日本人のビタミンD摂取源として大きな割合を占めているのが魚介類です。講演では、日本人が食事から摂るビタミンDの約8割を魚介類が占めることが紹介されました。次いで、きのこ類なども摂取源となります。
つまり、「魚を食べるか食べないか」によって、その日のビタミンD摂取量が大きく変わりやすいのです。
そしてもうひとつ大切なのが、「一度にたくさん」ではなく「少量をコツコツ」摂ること。
桒原先生が紹介した研究では、累積のビタミンD摂取量が同じでも、月1回まとめて摂る場合、週1回摂る場合、毎日摂る場合を比較すると、毎日摂取したほうが血中濃度を高く維持しやすいことが示されていました。
現在の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人のビタミンDの目安量は男女とも1日9.0μgとされています。
日々の食事の中で、魚介類やきのこ類などを意識して取り入れることが、まずできる対策のひとつです。
食事だけで難しいなら、サプリメントを上手に活用する方法も
とはいえ、毎日の食事だけで十分なビタミンDを摂るのが難しい人もいるでしょう。特に魚をあまり食べない人や、屋内で過ごす時間が長く日光を浴びる機会が少ない人では、食事だけに頼らない方法を考えることも選択肢になります。
桒原先生はビタミンDが欠乏している人を対象に、日光浴を行った場合と経口摂取した場合などを比較した研究も紹介。日光浴でも血中25(OH)D濃度は上昇したものの、経口摂取した群では、より明確な上昇がみられたと説明しました。
日光によるビタミンD産生は、季節や時間、肌の色、服装、屋外で過ごす時間など多くの条件に左右されます。そのため、食事で補いきれない場合には、ビタミンDを含むサプリメントを上手に活用することもひとつの方法です。
ただし、ここでも「たくさん摂ればいい」わけではありません。
桒原先生が繰り返し伝えていたのは、少量を継続して摂ることの大切さです。サプリメントについても、もともとビタミンDが不足している人では有効性が期待できる一方、その効果は摂取量や頻度によっても異なります。
また、ビタミンDには過剰摂取を防ぐための耐容上限量が設定されています。高用量を自己判断でまとめて摂るのではなく、あくまで不足を補うものとして適切に活用することが重要です。
「夏だから大丈夫」と思わず、日々の生活を振り返って
紫外線による肌へのダメージを防ぐことはもちろん大切です。一方で、猛暑による外出控え、屋内中心の生活、紫外線を避ける行動、そして魚を食べる機会の減少など、現代の生活にはビタミンD不足につながりうる要素がいくつもあります。
だからこそ、「日焼け止めを塗るか、塗らないか」という二択で考える必要はありません。
自分は普段どれくらい屋外で過ごしているのか。魚やきのこをどのくらい食べているのか。食事だけでは十分に摂れていない場合には、サプリメントで補う方法もあります。
「夏は日差しが強いから、ビタミンDは十分につくられているはず」と思っていた人ほど、食事や屋外で過ごす時間も含めて、一度自分の生活を振り返ってみてはいかがでしょうか。
お話を伺ったのは……桒原晶子先生

大阪公立大学大学院生活科学研究科教授
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