妊娠したら物忘れが増えた?それは「気のせい」なんかじゃない。マミーブレインという脳の変化について心理師が解説
妊娠してから、物忘れが増えた、頭が働かない気がする。マミーブレインと呼ばれるこの現象は、気のせいではありません。今回はマミーブレインについて紹介します。
マミーブレインとは何か
妊娠中から産後にかけて、記憶力や集中力が低下したように感じる現象を「マミーブレイン」と呼びます。「妊娠したら頭が悪くなった」と自分を責める人もいますが、長らく「気のせい」とされてきたこの現象は、近年の神経科学の研究によって、脳の構造変化として実際に確認されています。物忘れが増えた、マルチタスクが難しくなった、言葉がすぐに出てこない、大事な約束を忘れてしまった。こうした経験は、多くの妊婦や産後の女性が報告しています。自分だけがおかしくなったのではと感じている人も、珍しくありません。
脳で何が起きているのか
バルセロナ自治大学の研究チームが2017年に発表した研究では、妊娠中に脳の灰白質の体積が減少することが初めて確認されました。灰白質とは、思考や記憶、感情処理などに関わる脳の領域です。ただしこの変化は、能力の低下を意味するものではありません。不要な神経回路を整理し、必要な機能を強化する「刈り込み」のプロセスとして理解されています。思春期に脳が大きく再編成されるのと似た現象です。
また、この変化はホルモンの変動と密接に関係しています。妊娠中に急増するエストロゲンやプロゲステロンが、脳の再編成に深く関与していると考えられています。ホルモンが脳の構造そのものを変えていくというのは、妊娠が全身に及ぼす変化の大きさを改めて示しています。
変化のポジティブな側面
脳の再編成は、特定の能力を低下させる一方で、別の能力を高める方向にも働きます。共感性や赤ちゃんのサインへの敏感さなど、育児に役立つ能力への適応が進む可能性が示されています。これらは赤ちゃんのニーズを敏感に感じ取り、守るために必要な能力です。マミーブレインは、母親としての役割に適応するための、脳の合理的な変化だと言えます。「頭が働かない」という感覚の裏側で、脳は新しい役割のために静かに準備をしている。そう捉えると、同じ変化がまったく違って見えてきます。
マミーブレインと付き合う
自覚症状としては、多くの人は産後しばらくすると日常生活での困り感は軽減していきます。一方で、研究では、脳の構造変化そのものは産後6年後も持続しているという研究もあり、「元に戻る」というより「変化が定着する」という表現が正確かもしれません。以前のような記憶力や集中力を取り戻そうと焦るより、今の脳の状態に合わせた生活を組み立てていく方が現実的です。
大切なのは、以前と同じパフォーマンスを求めて自分を追い詰めないことです。妊娠前と同じように動けないのは、努力が足りないからではなく、脳が大規模な再編成の最中にあるからです。メモや手帳、スマートフォンのリマインダーなど、外部ツールをためらわず使うことは、変化に抗うのではなく、うまく付き合う方法のひとつです。周囲に「最近忘れっぽくて…」と伝えておくことも、パートナーがいれば情報共有をして一緒に対処することも、プレッシャーを減らす助けになります。物忘れが増えたとき、それを自分の怠慢ではなく、脳が新しい役割のために動いているプロセスとして受け取る。その視点が、自分を責めずに妊娠期間を過ごすきっかけになります。
参考論文:
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