「自分が何を感じているのか分からない」なぜか生きづらい〈エモーショナル・ネグレクト〉という見えない傷について

「自分が何を感じているのか分からない」なぜか生きづらい〈エモーショナル・ネグレクト〉という見えない傷について
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石上友梨
石上友梨
2026-06-17

なぜか自分の感情に自信が持てない、何を感じているのか自分でも分からない。そんな感覚を抱えている人がいます。エモーショナル・ネグレクトは、何かをされた傷ではなく、何もされなかった傷です。

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エモーショナル・ネグレクトとは何か

エモーショナル・ネグレクトとは、子どもの感情的な欲求が満たされないまま育つことを指します。怒鳴られたり叩かれたりといった、はっきりした出来事があるわけではありません。悲しんでいるときに気持ちを聞いてもらえなかった、不安を口にしても受け流された、感情を表に出すと場の空気が変わった。そうした小さな積み重ねのなかで、子どもは「自分の感情は重要ではない」と学んでいきます。

親に悪意があったとは限りません。むしろ多くの場合は無自覚で、親自身も同じように育ってきたというケースが少なくありません。オランダの研究チームが世界各国のデータをまとめた2013年のメタ分析では、子ども時代に情緒的ネグレクトを経験したと自己報告した人は18.4%にのぼりました。

目に見えないから気づきにくい

このネグレクトの特徴は、「起きたこと」ではなく「起きなかったこと」だという点にあります。傷つけられた記憶は残りますが、気持ちを大切にされなかった記憶は残りにくい。何かが欠けていたという感覚はあっても、それが何なのかを言葉にできないまま大人になる人が多くいます。

そのため、自分の生育環境を「むしろ恵まれていた」と評価し、「こんなことで傷ついたと言ってはいけない」と打ち消してしまうことも珍しくありません。傷の存在そのものに気づきにくい構造があります。

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大人になってから出てくるサイン

子ども時代に感情を扱ってもらう経験が乏しいと、その影響は大人になってからも表れます。代表的なものとして、自分が何を感じているのか分からない、感情を言葉にしにくいという状態があります。

理由のわからない空虚感や、自分の中に何かが欠けているという感覚を抱える人もいます。人に頼ることへの強い抵抗もよく見られ、これは「求めても応えてもらえない」という子ども時代の経験から、頼らないことを選んできた延長線上にあります。自分の欲求より他者の欲求を優先し、相手の世話役にまわることで自分の存在価値を感じようとする傾向が出ることもあります。

さらに、自分を過度に厳しく責めるくせや、感情が表に出そうになったときの戸惑い、人と深く関わる場面での居心地の悪さなども挙げられます。親密になりかけると壁を作ったり、対立の気配を感じた途端に関係を切りたくなったりすることもあります。

スキーマ療法の視点から考える

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スキーマ療法とは、認知行動療法をベースに、様々な理論や心理療法を統合した心理療法です。スキーマとは、子どもの頃の経験を通してできあがる、自分や他人や世界についての信念や価値観のことです。一度できると、大人になってからも物事の受け取り方や感じ方の土台として働き続けます。なかでも、感情的な欲求が満たされないまま育つと、「自分の気持ちは誰にも分かってもらえない」「自分は大切に扱ってもらえない」という思い込みが残ることがあります。この思い込みを持つ人は、人に何かを求めること自体を諦めていたり、求めても無駄だと感じていたりします。

スキーマ療法では、まず自分のなかにあるスキーマと、その奥にある満たされなかった欲求に気づくことから始めます。当時の自分が本当は何を必要としていたのかを認め、子どもの頃に得られなかったものを、大人になった自分が自分自身に手渡していく。感情を「正しく持ち直す」のではなく、あったものをあったと認める。その一歩から、自分の感情に少しずつ輪郭が戻っていきます。

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