「細いね」「色白だね」褒めてるのにダメなの?から始めよう。前川裕奈×ウィルソン麻菜と考える、誰もが当事者になるルッキズム
体型や容姿について何気なく口にした言葉が、誰かを傷つけているとしたらーー。「ルッキズム(外見至上主義)」とは、人の価値を外見や容姿だけで評価したり、差別したりすること。『つまり、それがルッキズム【23の事例と解説】』の著者・前川裕奈さんとウィルソン麻菜さんは、加害者も被害者も生まない、優しい問いの立て方を本に込めました。その制作の裏側と作り手の思いを伺いました。
日常に潜む「ルッキズムの呪い」を解くために。10代のリアルな葛藤に寄り添う一冊
前川さんの著書『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』への反響を経て、「次世代にルッキズムの呪いを引き継ぎたくない」「まさに今、ルッキズムの渦中にいる10代へ届けたい」という著者二人の強い思いから始まった本作。ある架空の学校を舞台に、10代のリアルな葛藤を描いたマンガと、著者二人が実体験を交えて執筆した解説コラムなどで構成されている。好きな人に好かれたくて無理なダイエットをしてしまう、外見が良いとされる姉と並ぶと周囲から比べられる、身長が低いことを同級生からいじられる――。そんな日常に潜む23の「ルッキズム事案」を取り上げ、そのモヤモヤの正体を、前川さんとウィルソンさんのコラムが丁寧に紐解いていく。
この「誰もが共感できるリアルな物語」をマンガとしてビジュアル化し、読者へ直感的に届けるという重要な役割を担ったのが、『彼女はNOの翼を持っている』(双葉社)などで知られるツルリンゴスターさんだ。
「ルッキズムを絵で表現すること自体、賛否が分かれかねない難しさがあります。ツルリンゴスターさんにお願いしたのは、彼女の作品から、ルッキズムなどの社会的なテーマに対する感度の高さや繊細さを感じていたからです」(前川さん)
作中で「学校一の美女」とされる柚子ちゃんのキャラクターデザインが、ショートカットの姿で上がってきたとき、著者二人は思わずハッとしたという。
「ショートカットで上がってきたとき、自分たちの中にも『美少女=髪が長い』っていうイメージがあったんだと気づかされたんです。『学校一の美女』設定の柚子ちゃんを、背が高くて細くてロングヘアで……って描いたら、画一化された美の定義を再生産してしまう。ツルリンゴスターさんが別の視点からデザインしてくださってありがたかったです」(ウィルソンさん)
漫画的な美男美女ではなく、近くにいそうな親しみやすいキャラクターを目指す。その姿勢こそが、無意識のうちに既存の美の基準を肯定し、ルッキズムを再生産してしまうことを防ぐための、作り手としての誠実な選択だった。
また、ルッキズムというテーマは男女関係なく、全ての人に関係しているにもかかわらず、なんとなく「女性の問題」と思われがちだ。しかし二人は、男性にとってもルッキズムは他人事ではなく、社会の目に晒され傷つく存在でもあるという軸を持ち込んだ。「誰もが(ルッキズムを)してます!されてます!」――そのメッセージは、表紙にも男性キャラクターを目立たせていることからも伝わってくる。
「女の子のキャラクターだけだと、女性の問題みたいに伝わるリスクがあるなと思いました。だから、男性キャラクターも目立つようにして、『女性だけの話じゃないんだよ』いうことを表現してもらいました」(ウィルソンさん)
本作ではその言葉通り、これまで「冗談」や「コミュニケーション」の一環として片付けられ、問題視されにくかった男性への外見いじり(容姿のいじり)にも、しっかりとスポットを当てている。例えば、作中で描かれる「男性の身長いじり」もその一つだ。
「褒め言葉だから良くない?」の罠
男性キャラクターのエピソードと並んで、二人が「絶対に入れよう」と決めていたのが、本作の22ページ目に登場する「褒め言葉でのルッキズム」だそう。
外見を褒めることで相手を傷つけてしまうこと。色白美人だね」「背が高くてモデルみたい」「胸が大きくて羨ましい」「美人だと得だよね!」……発する本人は「ただ褒めているだけ」「相手が喜ぶと思って」「良かれと思って」で言っていたとしても、言われた方が嬉しいとは限らない。褒め言葉が、相手のコンプレックスに触れていることもあるし、重荷になることもあると考えてみよう――その視点が込められているのがこのテーマである。
「褒め言葉こそ、悪意がないからこその難しさがあります。言われた側が『そういうことは言われたくない』と拒否感を示しても、『贅沢な悩みだ』と一蹴されたり、マウントだと誤解されたりしてしまう。悪気のない言葉を否定したことで、さらに周囲から責められ、二重に傷つく人が多いんです」(前川さん)
外見を褒めるポジティブな言葉だったとしても、言及されることが苦手な人がいるという事実は見過ごされがちだ。だからこそ本の中の早い段階で読者に手渡したかった――そこに著者としての強い意志がある。
マニュアルはない。相手との「関係性と文脈」を諦めないコミュニケーション
では「外見を褒めるのは一切NG」なのか。答えはそう単純ではない。相手がどう感じるかは聞いてみないとわからないし、関係性や文脈で受け取り方は変わる。
本書が示すのは一律のマニュアルではなく、ひとつの優しい提案。関係性がまだ不明瞭な相手には、内面や行動、センスといった「見た目以外の部分」で「あなたって素敵」を伝えてみる。白黒つけず、グラデーションの中で向き合う。
この「コミュニケーションを諦めない」という結論は、二人の制作プロセスそのものでもあった。
「相手の意見は尊重したいけど、自分が違うと思ったことを飲み込んだら、絶対モヤモヤが残ってしまう。小さなことからお互いの意見を出し合って、すり合わせていく。そういうやり取りを重ねた結果、この本ができたんです」(前川さん)
「裕奈さんとはコラムの内容だけじゃなくて、例えば『この動画を見て、どう思った?』みたいな話もたくさんしました。私はこう思う、いや、私はそれは違うと思う、みたいなコミュニケーションを、この本を制作している間に何度も繰り返しました。私と裕奈さんは一緒に仕事をすることも多く、同じ趣味を持つ友達でもあり、お互いを理解し合えているはず。それでもこんなに違いがあるのだから、あまり関係のない相手を理解するのは、とても大変なはずです。それでも諦めずにコミュニケーションしていくしかないよね、という結論に至りました」(ウィルソンさん)
大人と違う「当たり前」を生きる令和の10代
今回の本を制作するにあたって、100人以上の若者へのヒアリングを行った二人。本書の中にある「みんなのモヤモヤ」というQ&Aコーナーでは、10代の若者たちから寄せられた質問なども取り上げた。
10代へのヒアリングを通じて見えてきたのは、大人とは違う「当たり前」だった。
「写真を撮ろうって話になったら、撮る、加工する、SNSに載せる、コメントがつく――そこまでがセットの社会を当たり前として生きているんです。自分が学生だった頃との違いに衝撃を受けました」(ウィルソンさん)
特に印象に残ったのが、コロナ禍のマスク生活で中学時代を送った高校生の言葉だと話すのは前川さん。
「『大人の3年間のマスク生活と、私たちのマスク生活は違うんです』って言われて。大人にとっては一つの習慣でしかなかったけど、彼女たちにとってはマスクあっての生活が当たり前だった。急に『マスク取って』って言われるのは、長袖で生活してきた子が『明日からキャミソールで来てね』って言われるくらい恥ずかしい感覚なんですよ、って言われて、すごくハッとしたんです」(前川さん)
10代の当たり前と大人の当たり前のあいだには、想像以上に深い乖離がある。だからこそ、お互いどうするのがいいかを探っていくしかないのだろう。
ただ、希望もあった。
「自分が今なんでモヤモヤしているのか、分析したり客観視しようとする力に圧倒されました。私が10代の頃にはなかった感覚で、すごく希望だなと思ったんです。発信や言語化に慣れているから、相手に伝えてすり合わせていく土壌が、もうあるんだと思いました」(ウィルソンさん)
ボロボロになるまで読んで、次の人へ。この本を「お守り」や「反省」として手渡す方法
読者に本が届いた先の二人の願いは、こんな言葉に表れる。
「ルッキズムに悩んでいて、この本がお守りになる人にはそのまま持っていて欲しい。この本が多くの人の手に渡って、ボロボロになるぐらいまで読まれて欲しいです」(前川さん)
「読んだ人が、本そのものや気づいたことなどを次の人に渡してほしいですね。それがまた考えるきっかけになると思うから」(ウィルソンさん)
とはいえ、表紙に「ルッキズム」と書かれた本だからこそ、渡すこと自体に意味が出てしまう難しさがあるという考え方もある。その点についてはどうだろうか?前川さんはこのように答えてくれた。
「『私はこの本を読んでモヤモヤが晴れたよ』『気になっていたことが解決した』みたいな感じで渡すのがいいんじゃないかな。逆に、『自分も過去にこれやっちゃってたかも、って反省したから』っていう渡し方もある。自分の体験を添えて渡せたら、気軽に手渡せると思うんです」(前川さん)
教員や企業研修など、大人の現場でもぜひ活用してほしい、と二人は話してくれた。
一人で抱えるのではなく、誰かに手渡し、また次の誰かへ。そうして手渡された一冊が、ルッキズムに苦しむ人をなくしていく種になる。正解のない時代を生きる私たちが、「こうあるべき」から解放されて、自分らしく生きる道標を見つけられるよう、本書はこれからも優しく背中を押す指南書であり続けるはずだ。

著者:前川裕奈・ウィルソン麻菜
出版社:講談社
定価:1870円(税込)
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