4)感謝して受け取るのは、幸せだけではない。よりよく生きたい気持ちを手放してこそ、見える世界|僧侶・中川学さんに聞く
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
中川さんのお話で、とくに印象的だったのは、「ナムアミダブツと言って、感謝して受け取るのは幸せだけではない」という言葉。わたしは、昔から、人が幸せになる生き方に興味があり、その秘密がライフスタイルにある気がして、生活分野の雑誌の編集者に。今のメインは星占いですが、占星術と出合う前から、「精神性と物質を統合したい」などと話して、心の世界にも興味をもっていました。どちらかひとつを取る、切り分けるのではなく、そのふたつが融合したところに真実がある気がしていたのです。
でも、若い頃はどこかに「不幸は遠ざけたい」という気持ちはあったのではないかと思います。そして、認知症や介護についても、わからないからこそ、長いことシャドウにもなっていました。でも、いざ父が認知症になってみると、そこには不思議に豊かなものもありました。その経験がなかったほうがよかったとは、まったく思わないのです。
今のわたしは、まだまだ「よりよく生きたい」というように考えてしまいがちだし、そのために学びたいし、できることは何でもしようという前向きさもあります。でも、その一方で、「不幸すら、ナムアミダブツと言って、感謝して受け取る」という中川さんの姿勢に、とても心惹かれるものがあったのも確か。これから、50代、60代、70代と歳を重ねるなかで、自然と、ナムアミダブツの心が大きくなっていけばいい。そんなふうに思いながら、瑞泉寺をあとにしました。
中川さんは、「仏教なら、自分の力で悟るもんだ、仕事や人間関係なら、努力するもんだという発想に現代人は行きがちなんですが、他力もセットで考えることが大事だと思います」ともおっしゃっておいででした。それは介護にも通じるもの。ひとりですべてを背負おうとしたら潰れてしまうし、いろんな力を借りないと成立しない。そこには、宇宙や自然の力、阿弥陀さまの力もあると思います。でも、最後には自分が対峙するのだという姿勢も欠かせません。自力と他力のバランス……それは人間が生きることと、この宇宙で、地球で生かされていることのバランスと言ってもいいかもしれません。
「大切な人が亡くなってから、わかることのほうが多くて、亡くなってからも亡くなった人と一緒に生きていく。Sayaさんのお父さんとも、これからが本当のお付き合いですよ」という中川さんの言葉を胸に、これからも自分なりのペースでがんばっていきたいと思うことでした。
お話を伺ったのは…中川学さん
1966年生まれ。京都在住。浄土宗西山禅林寺派の僧侶にしてイラストレーター。Adobei llustaretorを使い幅広いスタンスでイラストレーションを描き、近年は絵本制作にも力を入れている。『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社)、『絵本 化鳥)(国書刊行会)、『えほん遠野物語 やまびと』(汐文社)、『八雲えほん 因果ばなし』(岩崎書店)、『のこったのこった』(絵本 館)、『幸せに長生きするための今週のメニュー』(ミシマ社)、『おいなりさん』『そのとき門はひらかれた 法然上人ものがたり』「だいぶつさま」シリーズ(アリス館)など多数。この夏、絵と文で京都の聖地を紹介する本『京都いま浄土』(ミシマ社)を出版予定。TIS会員。
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