『違国日記』で感じるエンタメの現在地 | 連載 vol.27
社会起業家・前川裕奈さんのオタクな一面が詰まった連載。漫画から、社会を生きぬくための大事なヒントを見つけられることもある。大好きな漫画やアニメを通して「社会課題」を考えると、世の中はどう見える? (※連載当初は主にルッキズム問題を紐解いていたが、vol.11以降は他の社会課題にもアプローチ。)
深夜2時、「寝れないし、なんか新しいアニメ観るか」と思った。ちょうどオススメもされていたし周りの話題にもついていけるように『違国日記』を......というのは建前で、完全に出演声優を見た瞬間に再生ボタンを力強く押していた。この作品、耳から恋に落ちさせようとしてないか?CV沢城みゆきさんとCV諏訪部順一さんの掛け合いがあるなんて観ないわけにいかない。
......と、オタク心は一旦ここまでにしておいて。動機はなんにしろ、この『違国日記』という作品に、すごく心を動かされた。作品そのものが最高なのはもちろんなのだが、日本のエンタメの変化と進化を感じられて嬉しくなったのだ。
主人公は、人づきあいが苦手で孤独を好む小説家の槙生と、人懐っこく素直な性格の15歳、朝。朝が両親を亡くしたことから、叔母である槙生が彼女を引き取り、性格も価値観もまるで違う二人が戸惑いながらも、ぎこちない共同生活が始まっていく。きっと表立って見えているメインテーマは、「分かり合えない」ことが多い者同士だとしても、それを良しとすること。お互いの感じる感情が違うものでも、その感情は本人にとっては確かにあるもので、大切なものであるというところにあるのかなと私は受け取った。槙生も何度も「感情」が自分だけのものであるかを教えてくれる。
「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」
「私が何に傷つくかは私が決めることだ、あなたが決めることじゃない」
私たちは、自分の感じ方が世間や身近な人と異なった時「私が変なのかな」と思いがちかもしれない。けれど、喜怒哀楽全て含め、自分の感情は否定しなくていいという尊いメッセージが込められている。それは「普通」なら悲しいと思うことに対して悲しいと思わなかったことも、「普通」なら傷つかないことに傷つきやすかったとしても。
ただ、この作品の良いところはメインテーマの他の描写にも散りばめられている気がする。 いくつもの「生きづらさ」が、意味づけされないまま、そこに自然にある。たとえば、人との距離感に敏感だったり、強い言葉や圧のある喋り方に対して、槙生はパニックのような反応をする。「そういう話し方をやめてほしい」と言うものの、作中ではそれ以上でもそれ以下でもない。槙生がなぜそう反応するのかは説明されない。ただ、「そういう人」として存在している。
また、恋愛描写(と名称すらつけたくないのだけど)においても曖昧だ。槙生は、元彼の笠町とは「付き合っている」と言い切れない関係の中で、「キスをしたい」と欲望を言葉にすることもある。けれど、それは単なる体の関係というわけではなく、信頼や支え合いのある関係だ。確実にお互いを大切に思い合っている、そしてお互いの大切なものを大事に思っている尊さがあった。世の中的な「普通」に当てはめれば、少し説明しづらい関係かもしれない。でも、笠町は「そういう関係があっても良いじゃないか」と優しく寄り添ってくれる。当人同士が良いのであれば、大人になればそういった名称のつかない関係もあるのではないか。そこに対して、何か評価があるわけでもなく、作中ではそのままそれが存在している。
さらに、セクシュアリティのような繊細なテーマも、 明言されることなく、でも確かにそこにある(と、私は解釈した)。朝の友人のえみりは、おそらく同性愛者である。朝がたびたび「異性」との恋バナをはじめようとするたびに、嫌悪感を示す。けれど、それを明言することも、ストーリーで言及することもなく、違和感や葛藤だけが、静かに置かれている。
こうした様々な要素が、 ひとつひとつあからさまな意味を与えられないまま、たくさん混在している。私はそこに、この作品の一番の魅力を感じた。以前のコラム(※)でも少し触れたけれど、最近、「意味を与えすぎないエンタメ」が少しずつ増えてきている気がする。というのも、これまでは、何かのテーマを際立たせるために、あえて分かりやすくそれを軸として描くことが多かった。でも『違国日記』は違う。説明しない。ラベルを貼らない。結論を急がない。それでも、いや、だからこそ、そこにある感情が、妙にリアルに伝わってくる気がした。
そして私は、こういう作品が増えてきていること自体に、希望を感じている。エンタメの形が変わってきているということは、きっとそれを受け取る側も、少しずつ変わってきているということだから。分かり合えなくてもいい、悩んでいるままでもいい、説明できなくてもいい、名前がつかなくてもいい。それでも人は、誰かと関係を築いていくことができる。むしろ、その方が自然なこともあるのかもしれない。......そして、第6話で槙生と笠町が公園に立ち寄るシーン、やっぱり耳から恋した。(低音声フェチたちよ、『違国日記』を今すぐ見るのだ!)
(※):『カードキャプターさくら』が描く愛の在り方 、『僕のヒーローアカデミア』から学べる理想とリアル
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