怖くなるのは心が弱いからではない【精神科医が教える】社交不安症の仕組み
仕事に追い立てられ、気力が尽きかけている現代の私たちへ。「日本一優しい」と評判の精神科医、広岡清伸(ひろおか・きよのぶ)さんの著書『ごめんなさい、もうこれ以上頑張れません 生きづらい社会で傷ついた人が、再び「自分」を取り戻すまで』(アスコム)より内容を一部抜粋して紹介します。
怖くなるのは心が弱いからではない
(人前に出ると…吐き気がして、声がでない。電車も怖く、視線にさらされるのが耐えられないと悩む多田さんとの診察室での会話)
わたしはゆっくりと話す速度を落として、まず社交不安症の仕組みから、多田さんに説明しました。
広岡:多田さんが怖くなるのは異常ではありません。脅威を感じたとき、人には2つのシグナルが現れます。1つは、不安・恐怖という感情のシグナルです。もう1つは、動悸・発汗・声の出にくさといった体のシグナルです。このシグナルは誰にでもある反応で、命を守るための仕組みです。
多田:……わかる気がします。
広岡:この2つのシグナルは連動して強まり、やがて「見下された」「嫌われた」という解釈が強化され、回避する行動を選びやすくします。
多田:回避行動とは?
広岡:行動は人にもよりますが、人と話すことを避けるようになったり、人がいる場所に寄り付かないようになったり、外食できなくなったり……ですね。
多田:……、わたしですね。
広岡:回避する行動が続くと、「やはり自分はできない」という結論が固定化され、悪循環から抜け出せなくなります。
わたしはここまでの説明を多田さんが理解しやすいように、白い紙に悪循環の見取り図を描きました。
1 「見られる―評価される」という予測→
2 不安・恐怖(感情のシグナル)→
3 動悸・発汗・声の出にくさなど(体のシグナル)→
4 「見下される/嫌われる」認知→
5 回避行動→
6 「やはり自分はできない」という結論強化→
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人は誰しも、他者からどう見られるかに敏感です。わたしはこのはたらきを「相対的プライド」と呼びます。他者評価に適応するための力で、社会で生きるうえで半ば本能的に備わったものです。社交不安症では、この相対的プライドが過敏に作動し、2つのシグナルを過度に呼び起こしてしまいます。そこで、わたしが治療の中核に据えるのが「絶対的プライド」です。絶対的プライドとは、症状やコンプレックスを含めた〝丸ごとの自分〞に存在価値と意味があると信じることで、比較(相対)だけに翻弄されない、存在の土台です。
これを臨床の場でくり返し言葉にし、体験と結び直すことで、他者評価への過度の揺れが減り、過剰な2つのシグナルが弱まります。その結果、回避よりも小さな挑戦を選べるようになります。この「相対→絶対」の軸を育てる実践こそが、わたしの精神療法の独自性でもあります。
この本の著者…広岡清伸(ひろおか・きよのぶ)
精神科専門医、指導医、精神保健指定医。広岡クリニック理事長。富山県高岡市出身、早稲田大学中退、日本大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院研修医、堀ノ内病院、関東労災病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。今まで診察してきた患者は1万人を超える。著書に、『広岡式こころの病の治し方』(日経BP社)、『心の病になった人とその家族が最初に読む本』(アスコム)などがある。
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