理学療法士が解説!パフォーマンスを発揮する「身体操作」とそのメリット3選
筋力に依存せず、瞬時にパワーを最大化する!SNS総フォロワー数30万人のスポーツトレーナー/理学療法士・中野崇が、トップアスリート・プロ選手が今、最も注目する「身体操作トレーニング」を解説。書籍『最強の身体操作 プロが実践する連動スキルの磨き方』(かんき出版)より内容を一部抜粋して、プロ向けのトレーニングを実践しやすく紹介します。
「身体操作」がもたらすメリットは計り知れない
メリット1 省エネで大きな出力が可能となる
身体操作を高める最大のメリットは、余分な筋力を使わずに大きなパワーを発揮できることです。言い換えれば、「エネルギーを効率よく蓄え、解放することで、より少ない力で最大限のパワーを引き出せる」ということです。スポーツにおいて、エネルギー効率の向上はパフォーマンスを左右する重要な要素であることは言うまでもありません。省エネで動ければ、試合終盤でもパフォーマンスが落ちにくいことを意味します。試合の後半になると、動作が緩慢になったり、ミスが増えたりする傾向がありますが、身体操作が優れた選手はムダなエネルギーを消費せずに動けるため、最後まで動きのキレを維持することができます。
メリット2 対人競技で相手から読まれにくくなる
スポーツは、対人競技と非対人競技に分類できます。対人競技とは、サッカーや野球など、ボールやボディコンタクトを使って相手のパフォーマンス発揮を邪魔できる、あるいは発揮されるのが特徴です。 非対人競技とは、フィギュアスケートや体操競技など、対戦相手から〝絶対に〞邪魔されないことが保証されている競技です。この違いはかなり大きいです。たとえば対人競技におけるジャンプ動作では、到達する高さや跳躍速度だけでなく、意思決定から実際にジャンプするまでの予備動作の大小などがパフォーマンスの良し悪しに影響します。
一方、非対人競技にこれらは当てはまりません。おもに高さやフォームを競うことになります。筋力への依存度を大きくして深く沈み込むなど、たとえ予備動作が大きくなっても動作そのものがデメリットにはなりにくいと言えます。つまり、対人競技では「相手に動きを読まれないこと」が大きなアドバンテージになるのです。動きが読まれやすい選手には、いくつかの共通点があります。
その代表的なものが、先ほどもお伝えした「予備動作の大きさ」です。そのおもな原因となっているのが、筋力への依存度が高い動作パターンです。たとえばボールを投げるとき、その場に直立したまま投げようとすると、誰でも上半身を大きく動かしてから腕を振るはずです。重心を前方移動するように踏み出すことで得られる反力や運動エネルギーが利用できないため、筋力に依存するしかないからです。つまり、エネルギーリターンが使えない状態=筋力依存度が高まる=予備動作が大きくなるという構図になります。
これは極端な例ですが、実際の競技動作においてもこの構図は当てはまります。特にトップレベルになると、わずかな予備動作の違いによって相手の反応が変わるため、パフォーマンスの優劣に大きく影響します。身体操作が向上し、動きの協力者が増えて筋力への依存度が少なくなると、予備動作以外にも、フォームによる予測と実際のボールのギャップを武器にすることができます。トップレベルのピッチャーは、この原理を利用してバッターを制圧します。先ほどもお伝えしたように、プロのバッターは150キロを出せるようなフォームからボールがきても対応することができます。ピッチャーの動作による予測と、実際の球速が合致するからです。しかし、同じ150キロでも、高い身体操作を駆使し、力感なく軽く投げるようなフォームから繰り出されるボールは、予測と実際のギャップが大きく、うまく対応できなくなってしまうのです。対人競技において、最も厄介な相手は「予測ができない選手」です。身体操作を向上させることで、予備動作を減らし、相手に読まれにくいパフォーマンスを獲得することができます。
メリット3ケガをしにくくなる
ケガをしないことは、競技人生を左右する重要な要素です。どれほど優れた能力を持っていても、ケガを繰り返していては、当然ながら本来のパフォーマンスを発揮することができません。多くの選手が「柔軟性や筋力を高めることでケガを防げる」と考えがちですが、それだけでは根本的な解決にはなりません。「動きのクセ(パターン)が変わらなければ、ケガの構造も変わらない」このことを常に頭に入れておく必要があります。
たとえば、サッカーではひざの前十字靭帯(ACL)損傷がよくみられます。これはタックルを受けた際の外力によるものだけでなく、方向転換や着地動作の際に、股関節や足部(そくぶ・足首から指先まで)の機能が十分に発揮されず、ひざが不安定な状態で強い負荷を受けることで発生するケースが多いです。ケガのリスクは単なる接触の有無ではなく、動作パターンの問題によって大きく左右されるということです。ハムストリングの肉離れもサッカーに多いケガのひとつですが、スプリントや急な方向転換の際に受傷します。特に、上半身の角度(重心位置)や背骨・骨盤・股関節の連動、そして地面から受ける反力といったエネルギーリターンを十分に得られない場合に起こります。ハムストリングへの依存度が高くなる動作パターンでは筋肉の負担が過剰になり、やがて肉離れを引き起こします。
私たちは入れた力に対してそれに見合ったパワーが出せていない(力がうまく伝わっていない)と感じたとき、どうしても「もっと力を入れよう」としてしまいがちです。しかしそれは、結果としてさらに筋力への依存度を増やしてしまうことになります。靭帯損傷や肉離れに限らず、このような構図は多くのケガの発生に影響します。
本書を手に取ってくださったみなさんに目指してほしいのは、長期的に安定して高いパフォーマンスを発揮し続けられることです。短期的に高いパフォーマンスを発揮できても、ケガによって崩れてしまうケースはプロ・アマ問わず多発しています。ケガに悩んだり、何度も繰り返してしまったりしている人は、ぜひ身体操作の向上に取り組んでみてください。
この本の著者…中野崇
スポーツトレーナー。フィジカルコーチ。理学療法士。株式会社JARTA international代表取締役。1980年生まれ。大阪教育大学教育学部障害児教育学科(バイオメカニクス研究室)卒業。2013年にJARTAを設立し、国内外のプロアスリートへの身体操作トレーニング指導およびスポーツトレーナーの育成に携わる。イタリアのトレーナー協会であるAPF(Accademia Preparatori Fisici)で日本人として初めてSOCIO ONORATO(名誉会員)となる。イタリアプロラグビーFiamme oroコーチを務める。また、東京2020パラリンピック競技大会ではブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチとして選手を支えた。YouTubeをはじめとするSNSでは、プロ選手たちがパフォーマンスを高めるために使ってきたノウハウを一般の人でも実践できる形で紹介・発信している。著書に『最強の身体能力 プロが実践する脱力スキルの鍛え方』『最強の回復能力 プロが実践するリカバリースキルの高め方』(以上、かんき出版)、『ハイ・パフォーマンス理論 競技場に立つ前に知っておきたい「からだ」のこと』(晶文社)、『40代からの脱力トレーニング』(大和書房)がある。
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