「受け入れる」と「上書きする」は別物|ファッションコンサルタント安井百合子が考える、ボディポジティブの本質

「受け入れる」と「上書きする」は別物|ファッションコンサルタント安井百合子が考える、ボディポジティブの本質
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インスタグラムで流れてくる、パンチの効いたリール動画。英語まじりの日本語で、フォロワーの悩みにバシッと、でもどこか温かく切り込む女性がいる。「あなたは本当にそう思ってるの?」——心の奥に眠る本音を引きずり出すような言葉の強さ。その裏には、正解を押しつけるのではなく「あなたはどう生きたいの?」と問いかけ続ける、静かで情熱的な哲学がある。ファッションコンサルタント安井百合子さんに聞く、装いを通して自分を取り戻すための話。

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体型や顔立ちに悩むとき、私たちはつい「直す」「隠す」「上書きする」という方向に意識を向けてしまいます。整形、ダイエット、着痩せ——。コンプレックスを「なかったこと」にしようとする手段は、いまやいくらでも手の届くところにある。

けれど、ファッションコンサルタントの安井百合子さんはこう問いかけます。

「受け入れる」と「上書きする」は、まったくの別物だ、と。

ボディポジティブという言葉が広がるいま、その本当の意味を考えたことはあるでしょうか。自分の身体を好きになること。それは、嫌いな部分を別のもので塗りつぶすこととは、根本的に違うはずです。

整形でコンプレックスは消えない——ラベルは「強く貼り直される」だけ

ーーー百合子さんは、コンプレックスとの向き合い方について「受け入れること」と「上書きすること」はまったく違うと話されていましたね。

コンプレックスを「なかったことにしよう」として、その上から別の価値を貼り付ける人がいます。でもそれは、「受け入れられた状態」とは違う。

たとえば、「一重まぶたが嫌だから整形で二重にする」という選択。美容医療そのものを否定したいわけではありません。ただ、その根底にある気持ちが「この顔はダメだから直さなきゃ」という自己否定のままだと、コンプレックスは消えないまま残り続けます。

実際にこういうことが起きるんです。二重になった自分を見て安心する一方で、周囲の一重の人に対して優越感を抱いてしまう。「よかった、自分は変えたから」と。

それは、心の中のラベルが剥がれたのではなく、むしろ強く貼り直されてしまった状態。「一重は可愛くない」というラベルは、整形の前も後も、ずっと生きている。

豊胸もそうです。胸が大きくなってよかったと思う一方で、胸の小さい人を見たときに「まあ、よかった」と感じてしまう。「胸が小さくても全然美しい」と心から思える状態には、到達できていない。

外見を変えることと、コンプレックスを解消することは、イコールではないんです。

「子どもが同じ特徴を持って生まれてきたら」

ーーーその「ラベルが剥がれていない状態」を見極める基準のようなものはありますか。

ひとつ、とてもシンプルな問いがあります。

もし将来、自分の子どもが同じ特徴を持って生まれてきたら。その時、あなたは心から「そのままで素敵だよ」と言えるかどうか。

一重を二重にした人が、一重の子どもを見て「いつでも整形に連れていってあげるからね」と思うなら、それはその子にも「あなたの目は可愛くない」というNGのラベルを貼ることになる。コンプレックスの連鎖が、次の世代に受け継がれてしまう。

実は、うちの娘が3歳のとき、同じことが起きました。メルちゃん人形やプリキュアの大きな目を見て、「私の目の上にはママみたいな線がない」と言ったんです。一重であることを気にし始めた。3歳で、ですよ。

そのとき、いろんな顔を見せました。冨永愛さん、すみれさん、吉高由里子さん、黒木華さん、ルーシー・リューさん。「いろんな顔があるんだよ」「あなたみたいな顔でも、ママにはできないメイクがあるんだよ」と。繰り返し、繰り返し話しました。

今はもう、自分の顔が嫌いとは言わなくなりました。子ども用のメイクセットで、自分なりに可愛くなる研究をしています。嫌いな自分を変えるのではなく、自分の顔をどう楽しむかに意識が向いている。それが、ラベルが貼り替わった状態だと思うんです。

Yuriko Yasui Photo by Poko
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友達でいたい理由は、外見じゃないはず

ーーー友人や身近な人が、体型や外見の悩みを打ち明けてきたとき、私たちはどんな言葉をかけられるでしょうか。

友達でいたいと思う理由は、外見が最大の理由ではないはずです。その人の内面に惹かれているから、一緒にいたいと思う。そのことを、きちんと言葉にしてあげてほしいんです。

「そんなことないよ、可愛いよ」と外見を褒めることがフォローになるとは限りません。むしろ大切なのは、「あなたの本当の魅力はそこじゃない」と伝えること。私があなたを好きなのは、あなたの生き方や人となりに惹かれているからだよ、って。

よく「自己肯定感を上げるにはどうしたらいいですか」と聞かれます。でも、自己肯定感って、良心に従って生きてさえいれば、誰でも持てるものだと思うんです。人としてまっとうに生きている、それだけで十分に価値がある。なのに、スペックや数字や外見に自信の根拠を求めてしまう。

外的要因に依存した自信は、とても危うい。加齢とともに身体は変わるし、重力には逆らえない。自信というのは、自分をどう扱うかでしか育たない。だからこそ、外見に依存しないところに魅力の軸を置くことが、一番強固で、健康だと思っています。

ボディポジティブの本当の意味は「今の自分を好きでいられること」

ーーー百合子さんが考える「ボディポジティブ」とは、どういう状態なのでしょうか。

わたし自身、今日はほとんどメイクをしていないんです。朝に洗顔して、オイルを塗っただけ(笑)。42歳、クマもあるし、昨夜22時に食べた餃子の塩分のせいで、ちょっとむくんでる。でも、このすっぴんでも全然いいって思える。それが私にとっての健康な状態です。

これは、ありのままを放置するという意味ではありません。「すっぴんでも自分でいられる」という安心感。手入れはするけれど、手入れしなければ外に出られないとは思わない。その違いは大きいと思っています。

目にたるみができたからボトックスを打つ、ほうれい線が気になるからヒアルロン酸を入れる。美容クリニックに定期的に通わなければ「キレイ」を保てない、不安だと感じている精神状態のほうが、よほど不健康ではないでしょうか。

私は、夏木マリさんのような方を見ると、心から素敵だなと思います。60代ならではのしわや表情の深みがありながら、内側からしなやかな強さが滲み出ている。ちゃんとケアはしている、でも顔にメスは入れていない。年齢を重ねることを、否定していない。

若さを保つことよりも、「今の自分を好きでいられること」。年齢を重ねる過程そのものを楽しめること。

本当の意味での「ボディポジティブ」とは、嫌いな部分を上書きすることではない。今のこの身体と一緒に、どう生きていくかを自分で決めることだと考えます。

だから、コンプレックスを隠すための服。体型をごまかすための着痩せ。「これなら無難」と選ぶ安全圏の装い。それらはすべて、「自分を嫌いなまま」選んでいる服です。

「コンプレックスは記憶のラベルにすぎない」ということ。そのラベルを貼り替えるとは、嫌いな自分を別のものに差し替えることではなく、今の自分をそのまま引き受けて、そこから「じゃあ、どう生きようか」と考え始めること。

自分を受け入れた人が選ぶ服は、自分を隠すための鎧ではなく、自分を表現するための言葉になります。

「自分を嫌いなまま」選ぶ服から、そろそろ卒業しませんか、ということは私はこれからも伝え続けたいです。

Profile|安井百合子

ファッションコンサルタント・トータルブランディングアドバイザー 診断や着痩せではなく、その人の内面から装いを導き出す伴走型コンサルティングを、ファッション・ヘアメイク・マインドのトータルで実践。3歳から自分で服を選び、20代でファッショントレードショー事業に携わる中で体得した「何を売るかではなく、どう魅せるか」の哲学が原点にある。SNSフォロワー23万人。 起業家向けブランディングスクール『Upgrade ME』主宰/伴走型個別コンサル『BEYOU!プログラム』/オンラインサロン『BEYOU!』主宰。YouTube「ゆりこの 私を着る、常識を脱ぐ。」2026年4月30日、初の著書『コンプレックスを飼いならして「好き」を着こなす センスのトリセツ』が発売に。現在予約受付中。

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取材・文/Aya Iwamoto
撮影/Poko

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