「直したい部分」はすぐ言えるのに、なぜ?ファッションコンサルタント安井百合子が問う、コンプレックスの正体

「直したい部分」はすぐ言えるのに、なぜ?ファッションコンサルタント安井百合子が問う、コンプレックスの正体
Photo by Poko

インスタグラムで流れてくる、パンチの効いたリール動画。英語まじりの日本語で、フォロワーの悩みにバシッと、でもどこか温かく切り込む女性がいる。「あなたは本当にそう思ってるの?」——心の奥に眠る本音を引きずり出すような言葉の強さ。その裏には、正解を押しつけるのではなく「あなたはどう生きたいの?」と問いかけ続ける、静かで情熱的な哲学がある。ファッションコンサルタント安井百合子さんに聞く、装いを通して自分を取り戻すための話。

広告

自分の「直したい部分」なら、すぐに言葉にできる。でも、自分のチャームポイントを聞かれると、言葉に詰まってしまう——。

ファッションコンサルタントの安井百合子さんのもとを訪れるクライアントの多くが、そうだといいます。コンプレックスについては饒舌なのに、自分の魅力となると途端に口ごもる。まるで昨日もそのことについて考えていたかのように、「気になる部分」はスラスラと出てくるのに。でも、と百合子さんは問いかけます。「そのコンプレックス、生まれたときから気にしていましたか?」

コンプレックスは「事実」ではない

ーーー百合子さんのもとには、どんな悩みを持った方が集まるのでしょうか。

最初は、いわゆるプラスサイズの方がもっと集まるかと思っていました。でも実際には一割にも満たない。体型に関わらず、何かしらのコンプレックスを抱えている人が来るんです。

そのコンプレックスの多くは、生まれつき備わっていたものではありません。誰かに指摘された経験、周囲との比較、時代の流行——。外側からの影響によって「これは欠点なんだ」と認識してしまった結果です。

私の中では、コンプレックスは「記憶」なんです。記憶というラベルでしかない。

何かの出来事や、誰かの言葉がきっかけで、「私のここは標準じゃないんだ」と感じた瞬間がある。そこから鏡を見るたびに思い出す。その繰り返しが、ラベルをどんどん強く貼りつけていく。

私自身がそうでした。10代の頃、安室ちゃんブームでギャルブランドが全盛だったとき、エゴイストもマウジーもセシルマクビーも——サイズが小さくて入らなかった。中1で160センチ、骨太。「私って規格外なんだ」と思った瞬間から、コンプレックスが一気に根づきました。明るく振る舞いながらも、食べたものを吐いてしまう時期もあった。

ところが、アメリカに行ったら周りから「細いほう」と言われたんです。ちょうどビヨンセが出てきた頃で、自分の持っているものを誇る文化を目の当たりにして。それまで抱えてきた劣等感が、水に溶けるようにして消えていきました。

同じ身体なんです。変わったのは環境と、周囲の価値観だけ。

だからこそ、コンプレックスは「事実」ではなく「経験の積み重ね」から生まれるもの。ラベルである以上、必ず貼り替えることができます。

「リアルサイズ」という視点——スーパーモデルは「舞台用の身体」

ーーーパリコレのスーパーモデルやK-POPアイドルのような体型に、理想を重ねてしまう人も多いと思います。

彼女たちは確かに美しく服を着こなします。でも、あの体型は「特別で、職業として求められる身体」。デザイナーの作品を成立させるための存在であって、「あの体型が正解」「あれが標準」という意味ではありません。

それを無理に日常の基準にしてしまうと、「細いほど良い」「華奢であるほど女性的」「L以上は規格外」という、誰かを傷つける物差しが生まれてしまいます。

最近、かつて「プラスサイズモデル」と呼ばれていた人たちを「リアルサイズモデル」と表現する流れが広がっています。呼び方が変わるだけ、と思うかもしれません。でもこれは、「欠点を補う身体」から「現実に存在する身体」へ——意識を切り替える大きな一歩です。

私たちが見ている「理想の体型」の多くは、ごく限られた職業のための身体。そこに自分を合わせて追い込む必要は、どこにもありません。

Yuriko Yasui Photo by Poko
Photo by Poko

サイズを気にして引き下がるより、声を届けてほしい

ーーー日本のファッション企業では、店頭にS〜Lサイズがメインに並んでいます。サイズ展開について、もどかしさを感じることはありますか。

実は今、オンラインでプラスサイズのアイテムはとても売れています。売上は好調なんです。でもそれは「ファッションに興味がないから店に行かない」のではなく、店頭でサイズを尋ねることをためらって、結果としてオンラインを選んでいる人が多いから。みんな、ひっそりオンラインで買っているんです。

「このサイズありますか?」と尋ねることは、何も恥ずかしいことではありません。在庫がないときに気まずい思いをする必要もない。本来、それは店側の責任であって、お客様が自分を小さくする理由にはなりません。

私はアパレルの展示会業界にいたので裏側を知っていますが、ファッション業界はトレンドを読む力はあっても、マーケティングが苦手という印象です。「このサイズありますか?」「ないです」というやりとりが積み重なれば、店長会議で「この需要が増えています」という声が上がり、商社は必ず動きます。ファッション以外のビジネスでは当たり前のことなのに、ファッションに関してだけは「規格外の自分が恥ずかしい」というマインドが、その声を封じてしまっている。

買う・買わないは別として、たくさんの服に触れ、試着し、問い合わせる。欲しいサイズを「声にする」という行為そのものが、日本のファッションを少しずつ変えていくきっかけになります。

「Sサイズに自分を合わせていく」のではなく、「自分のサイズで、世界を広げていく」。

それはきっと、コンプレックスを「誇れる個性」へ変えていく最初の一歩です。

後編に続きます。

Profile|安井百合子

ファッションコンサルタント・トータルブランディングアドバイザー
診断や着痩せではなく、その人の内面から装いを導き出す伴走型コンサルティングを、ファッション・ヘアメイク・マインドのトータルで実践。3歳から自分で服を選び、20代でファッショントレードショー事業に携わる中で体得した「何を売るかではなく、どう魅せるか」の哲学が原点にある。SNSフォロワー23万人。 起業家向けブランディングスクール『Upgrade ME』主宰/伴走型個別コンサル『BEYOU!プログラム』/オンラインサロン『BEYOU!』主宰。YouTube「ゆりこの 私を着る、常識を脱ぐ。」2026年4月30日、初の著書『コンプレックスを飼いならして「好き」を着こなす センスのトリセツ』が発売に。現在予約受付中。

広告

取材・文/岩本彩
撮影/Poko

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

Yuriko Yasui Photo by Poko