「鏡の前でしっくりこないのはなぜ?」ファッションコンサルタント安井百合子が考える、診断結果より大切なこと

「鏡の前でしっくりこないのはなぜ?」ファッションコンサルタント安井百合子が考える、診断結果より大切なこと
Photo by Poko

インスタグラムで流れてくる、パンチの効いたリール動画。英語まじりの日本語で、フォロワーの悩みにバシッと、でもどこか温かく切り込む女性がいる。「あなたは本当にそう思ってるの?」——心の奥に眠る本音を引きずり出すような言葉の強さ。その裏には、正解を押しつけるのではなく「あなたはどう生きたいの?」と問いかけ続ける、静かで情熱的な哲学がある。ファッションコンサルタント安井百合子さんに聞く、装いを通して自分を取り戻すための話。

広告

骨格診断、パーソナルカラー、顔タイプ診断。ファッションの「正解」がかつてないほど細かく言語化されるようになったいま、それでもどこか満たされない感覚を抱えている人は少なくないのではないでしょうか。
診断結果どおりに服を選んでいるのに、鏡の前でしっくりこない。「似合う」はずの服を着ているのに、なぜか自分じゃないような気がする。

その違和感の正体を、はっきりと言葉にしてくれた人がいます。

ファッションコンサルタントの安井百合子さん。骨格や体型を「正解」に近づけるのではなく、その人の内面にある本音を、服で表現することを追求するスタイリスト。半年から一年という長い時間をかけてクライアントに伴走し、「あなたはどう生きたいの?」という問いから始めるスタイリングが、いま多くの人の心を動かしています。

診断の「正解」が、私の生き方を否定した

ーーー骨格診断やパーソナルカラーを知っても、どこかモヤモヤが残る。その原因はどこにあるのでしょうか。

私自身、顔タイプ診断では「エレガント」に分類されます。サテンのような艶のある素材や、大柄な幾何学模様が似合うとされる一方で、コットンやリネンは苦手。「着ると疲れた主婦っぽく見える」と言われることもあります。

でも、私はコットンやリネン素材が大好きなんです。冬でも寒中水泳するくらいのアウトドア派で、自然素材は私のライフスタイルそのもの。それなのに、診断によって「似合わない」と決めつけられたとき、感じたのは違和感どころか怒りに近い感覚でした。「その私にコットン麻が似合わないなんて、あなた何様なの?」って(笑)。好きな服が似合わないわけないんです。だって、それが私の生き方なんだから。

例えば私と同じ顔タイプ「エレガント」には、モデルの長谷川潤さんも当てはまるのだそう。でも、彼女のSNSを見てもわかるように、彼女だって、普段はタンクトップにショートパンツですっぴん。それが似合わないなんて、誰が言えますか?ここに、診断の限界があると思っています。

「好き」の中にしか「似合う」はない——だから診断はやらないと決めた

ーーー百合子さんのアプローチは、いわゆる骨格診断やカラー診断をベースにしたスタイリングとは根本的に違いますよね。

私の大前提は、「好き」の中にしか「似合う」はないということ。自分らしさとは、外見から導かれる「似合う」ではなく、内面が正直に、正確に、外見に魅力として表れている状態のことだと思っています。

だから、診断系はやらないと決めました。

人には一面じゃなくて、かっこいいところも、可愛いところも、色っぽいところも、がさつでワイルドなところもある。でも、カラータイプや骨格に当てはめた瞬間、その豊かさが一つの型に閉じ込められてしまう。骨格診断やパーソナルカラーは、自分を知るためのヒントにはなります。でも、それが「守るべきルール」になった瞬間、ファッションは途端に息苦しくなる。診断結果は、あなたの魅力のごく一部を切り取ったものにすぎません。

ファッションを料理にたとえるなら、骨格診断や似合わせは「どんなお皿に盛り付けるか」を考える工程。 私のアプローチは、「今日は何を食べたい? ホクホク系かな、うま味系かな」と問いかけるところから始まります。

どんな気分で、どんな一日を過ごしたいのか。今日の自分はどんな自分でいたいのか。そうした内側の感覚を置き去りにしたまま、いくら「似合う」を重ねても、心が満たされないのは当然です。

ーーー百合子さんは、半年から一年という時間をかけてクライアントに伴走すると伺いました。そのアプローチの本質はどこにあるのでしょうか。

私がクライアントとまずやることは、内面の魅力を発掘すること。ワイルドなところ、母性的なやさしさ、恋愛で培った色気——。そうした内側の要素を、「じゃあどう外に表現しようか」と一緒に考えていく。

たとえば自分のワイルドな面を表現したい日は、腕を見せて、カーキやアーシーなトーンにメンズライクなアイテムを掛け合わせる。やさしい母性を出したい日は、あえて細く見せようとはしない、ふわりとしたレースやニットを選ぶ。

自分の中にあるたくさんの面を、ダイヤモンドのカットのように日によって見せ方を変えていく。それが私の考えるファッションです。

3歳でクマのアップリケを外した

ーーー百合子さんは海外留学経験もあるとのこと。ファッションへの感覚は、いつ頃から芽生えていたのでしょうか。

3歳の頃から、着る服は自分で選んでいました。4人兄弟の3番目で、服はお下がりが基本。ある日、赤いキュロットパンツについているクマのアップリケが気になって、母の裁縫箱からリッパーを持ち出して、必死に外そうとしたんです。「これさえなければシンプルな赤いキュロットスカートになるのに」って、3歳の私はそう思っていました(笑)。キャラクターものが嫌いで、とにかく自分で選びたかった。母がそれを遮らず「どうぞ」と任せてくれたことが、振り返ると本当に大きかったと思います。

その感覚が大きく広がったのは、中学3年生の夏にアメリカ・ニューヨークを訪れたとき。年齢や体型を気にせず、それぞれが自由に装いを楽しむ姿を肌で感じて、「もっと世界を見たい」と留学を決意しました。「似合うかどうか」よりも、「どう在りたいか」。その問いを、服を通して自分に投げかけ続けてきた原点がここにあります。

「着痩せ」や「トレンド」は、あくまで選択肢のひとつ。自分の気持ちを後押しするために使うものであって、自分を矯正するための道具ではありません。

「これでいいのかな」と迷うとき、人はつい外に答えを求めます。でも、ファッションにおいて一番大切なのは、自分の声を置き去りにしないこと。

正解を探すのをやめたとき、服は「評価の対象」ではなく、「味方」になる。自分を隠したり、直すためのものではなく、自分を理解し、受け入れるための表現になってくれるはずです。

中編に続きます

Profile|安井百合子

Yuriko Yasui Photo by Poko
Photo by Poko

ファッションコンサルタント・トータルブランディングアドバイザー
診断や着痩せではなく、その人の内面から装いを導き出す伴走型コンサルティングを、ファッション・ヘアメイク・マインドのトータルで実践。3歳から自分で服を選び、20代でファッショントレードショー事業に携わる中で体得した「何を売るかではなく、どう魅せるか」の哲学が原点にある。SNSフォロワー23万人。 起業家向けブランディングスクール『Upgrade ME』主宰/伴走型個別コンサル『BEYOU!プログラム』/オンラインサロン『BEYOU!』主宰。YouTube「ゆりこの 私を着る、常識を脱ぐ。」2026年4月30日、初の著書『コンプレックスを飼いならして「好き」を着こなす センスのトリセツ』が発売に。現在予約受付中。

広告

インタビュー・文/岩本彩
撮影/Poko

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

Yuriko Yasui Photo by Poko