「ピルを飲む女はいやらしい」日本だけが取り残される、女性の健康を守る選択肢|産婦人科医に訊く

「ピルを飲む女はいやらしい」日本だけが取り残される、女性の健康を守る選択肢|産婦人科医に訊く
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低用量ピルやHPVワクチンなど、女性の健康を守る選択肢は確実に広がっています。しかし日本では、誤解や偏見によってその恩恵を受けられていない女性が少なくありません。『わたしたちを阻むもの 女性が抱える生きづらさの根源』(青月社)の著者・対馬ルリ子さんは、産婦人科医として長年この課題と向き合ってきました。後編では、世界に遅れをとる日本の現状と、女性が自分の体を守るために今日からできることについて伺います。

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低用量ピルへの誤解

——低用量ピルについて、未だに偏見や誤ったイメージを持っている方は少なくないと思います。産婦人科医としてどのように感じていますか?

前提として、低用量ピルにはホルモンバランスを整える効果があり、月経痛やPMS(月経前症候群)を和らげることができます。

私が大学で研修しているときに低用量ピルの治験の機会があって、私も試してみたら、すごく調子が良くなったんです。私自身、月経やPMSがそこまで大きな弊害にはなっていませんでしたが、それでも月経の量が減ったり、生理(消退出血)の周期をコントロールできるようになったり、イライラしなくなり精神的にも安定したりと本当にやってみてよかったです。

でも日本で低用量ピルが認可されたのは1999年。これは国連加盟国の中でも最も遅いものでした。男性ばかりの議論の場では、「性の道徳が乱れる」「ピルを解禁すると性感染症が蔓延する」といった根拠のない意見が飛び交っていたと聞きます。

——依然として「低用量ピルを飲んでいる=性にだらしない」といったイメージは残っていますよね。

低用量ピルを上手に使うことで心身ともに調子を整えられますし、望まないタイミングでの妊娠を避け、いつ産むかを自分で決められます。女性が自分の人生やキャリアを構築していくのに、有効な手段の一つです。

連続服用で生理(消退出血)の回数を減らすピルもありますし、ミレーナ(子宮内に装着する避妊具)のように飲まなくていい方法もあります。海外では避妊インプラントや避妊パッチもあります。

色々と調子を整える方法はあるのに、日本の女性だけテクノロジーの恩恵を受けずに原始的な方法をとっているのはもったいないと思うんです。色々と試したうえで、ナチュラルライフを選択するならば、個人の自由ですが、最初から何も試さずに我慢だけするのはもったいないです。

低用量ピルは女性の人生にとって役立つという感覚を私は持っています。「ピルを飲む女なんていやらしい」などというイメージに萎縮するような生き方は、もう終わりにしようと提案しています。

世界に遅れをとっている日本のHPVワクチン接種

——続いてHPVワクチンについてお伺いします。子宮がん検診を受ければいいと思っている方もいらっしゃると思います。検査だけでは不十分という点についてご説明いただけますか。

HPV(ヒトパピローマウイルス)とは、よくいるウイルスで、女性の8割は一生の間にどこかで感染していると言われていますし、性交渉の経験のある人は、誰でも感染している可能性があるものです。子宮頸がんはHPVに持続的に感染して、数年から10年の間に発症します。

うちのクリニックで行っている検査では、子宮頚部の細胞の結果と、HPVに感染しているかの両方を見られるのですが、子宮頸がん検診で引っかかった人は、20代後半が大体8%で一番多いのですが、HPVを保有している人は20代後半で3〜4割います。

——HPVを保有している人全員ががんになるわけではないものの、がんになるリスクを持っているということでしょうか。

そうですね。特にハイリスク型のHPVですと、がんになる確率が上がってしまいます。なので最初からハイリスク型のHPVに感染しないことが大切で、そのために初めて性交渉をする前にHPVワクチンを接種しておくことが望ましいです。9価ワクチンですと、90%程度の予防効果が期待できます。

世界では女の子だけでなく男の子にも接種を呼びかけており、世界全体では70~80%の接種率です。オーストラリアは特に進んでおり、2028年に子宮頸がんの患者はゼロになるという予測もあります。

日本では2013年から9年もの間、HPVワクチンの積極的接種の勧奨が停止されていたため、世界に遅れをとった状況となっています。メディアでも副反応の問題が大きく取り上げられましたが、日本でも「名古屋スタディ」によって、副反応として言われていた24項目の症状の発現状況について、ワクチンの接種と症状の発現には有意差がない、と結論が出されています。

なお、HPVは肛門がんや陰茎がん、中咽頭がん、尖圭コンジローマにも関係しています。男子への接種が進むことでそれらも減少していくと言われています。

婦人科のかかりつけ医を見つけて

——ホルモンは目に見えないものなので、生理や更年期の不調などについて、「気持ちの問題」「甘え」などと、女性自身も自分に厳しくしてしまうことがあると思います。どう考えていけばいいでしょうか。

まず、女性が健康管理をするときに大事なのは、ホルモンや体の仕組みについて知識を得ることです。知識を得たら、医師と相談しながら合いそうなものをやってみる。試してみないと合うかわからないこともあるので、やってみることは重要です。

そして、やってみて良かったかどうかを、かかりつけ医と一緒に検証しながら次に進む。それが学びになるので本当のヘルスリテラシーだと思っています。知識があるだけでは何も変わりません。知識をどう生活に活かせるかが「健康力」です。

ぜひ婦人科のかかりつけ医を見つけてください。3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年、10年……と定期的な相談や検診を積み重ねていく。まるで美容院や占い師のように人生に伴走してもらい、自分の体質や、自分の困りごとにアドバイスをもらって改善していった方が、自信を持って取り組めると思います。10代から始められると理想的ですが、更年期からでも遅くはありません。

 

『わたしたちを阻むもの 女性が抱える生きづらさの根源』(青月社)
『わたしたちを阻むもの 女性が抱える生きづらさの根源』(青月社)

【プロフィール】
対馬ルリ子

産婦人科医師、医学博士。
弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年にウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現:対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座)を開業。
以来、女性のための総合医療を実践している。
2020年には医療と福祉、政治と経済が協力して困窮する女性を助けるしくみ、一般財団法人 日本女性財団を結成。
現在も、女性の生き抜く力を支援する制度創生のために、医師、政治家、経営者たちと連携して政策提言をしている。

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