産婦人科医が解説!正しく理解しよう「HPV(子宮頸がん)ワクチン」の副反応と誤ったイメージ

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積極的勧奨が再開となったHPVワクチン。それでもまだ副反応に関して不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。HPVワクチンの効果や副反応について、産婦人科医の稲葉可奈子先生に伺いました。

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毎年約3,000人が亡くなっている子宮頸がん。子宮頸がんの患者の多くは20~40代の女性です。その子宮頸がんを予防する効果があるのがHPVワクチンです。

HPVワクチンは2013年から定期接種となっていたものの、副反応と疑われた症状が報告され、積極的な勧奨は控えられていました。その後、安全性について特段の懸念が認められないことが認められ、2021年11月26日に積極的な勧奨が再開されました(※)。

※参照:厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html

とはいえ、痙攣や歩行困難など副反応と疑われた症状の報道を見て、怖いイメージを抱いている人は少なくないと思います。

HPVワクチンの効果や2013年以降に報道された副反応と疑われる症状に関する調査と、現在考えられている副反応などについて、産婦人科医の稲葉可奈子先生に伺いました。

性交渉を経験する前に接種することが望ましい

——HPVワクチンの種類と効果について教えていただけますか。

HPVワクチンとはHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐワクチンです。HPVは200種類以上あり、ワクチンで全てのHPVを防げるわけではないのですが、2価・4価・9価のワクチンで子宮頸がんの原因の多くを占めるHPVの感染を予防できます。今現在、日本で主に接種されているのは4価です。

ワクチンの「価」とは予防できるHPVの種類のことで、2価では子宮頸がんの原因として最もリスクの高い16、18を、4価では2価で対応している2種類に加え、尖圭コンジローマの原因である6、11型の感染を防ぎます。9価では、4価の4種類に加え、子宮頸がんの原因となる可能性のある5種類のHPVを予防します。

効果としては、4価のワクチンを16歳までに接種することで88%子宮頸がんリスクを下げられると言われています。9価のワクチンは新しいため、まだ予防効果の数値は出ていないのですが、4価よりもより有効であると予想されています。

予防接種
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——何歳までに接種することが望ましいのでしょうか。

HPVワクチンは接種することによって治療効果があるものではなく、感染を予防するものですので、性交渉を経験する前に接種しておくことが望ましいです。

現在、日本では小6~高1の女子が定期予防接種の対象となっており、4価のワクチンを無料で接種できます。3回打ち終えるまでに半年かかりますので、打てるときに早めに接種することをおすすめしています。高2以上ですと、自費での接種(4価:計約5万円、9価:計約10万円)となりますので、機会を逃さないでいただきたいです。

ただし、既に性交渉の経験があっても、高2以上でも有効です。有効性が最も高い年齢は過ぎてしまっているので、高2以上の場合はなるべく早く接種することをおすすめしています

なお、国が積極的な接種勧奨を控えていた期間に機会を逃した1997~2005年度生まれ(キャッチアップ接種世代)の女性も2022年4月から3年間、無料で接種の機会が設けられています。キャッチアップ接種世代の方で、過去に1回もしくは2回だけ打ち、途中で接種をやめてしまった方は、以前と同じ種類を残っている回数分打つ形になります。

——先日「9価の定期接種が了承された」という報道がありましたが、9価の定期接種が始まるのを待つか、4価を打ってしまってもいいのでしょうか。

前提として、先ほども申し上げたように、4価のワクチンは非常に有効です。確かに9価のワクチンの定期接種は「了承」されたのですが、実際に定期接種で打てるようになるまでには、もう少し時間がかかると思われます。ですので、まずキャッチアップ接種世代の方は、本来推奨される年齢を過ぎてしまっていることもあるので、4価のワクチンをなるべく早く接種することをおすすめします。

次に2022年4月に高校1年生になる方たちも、おそらく9価の定期接種開始は難しいと思いますので、時間に余裕のあるときに4価のワクチンを打っておくことがおすすめです。

中学生や小学6年生の方も4価の接種でも充分だと思いますが、「できれば9価を打ちたい」という方はいらっしゃると思います。ですので、高校1年生になったときに9価が定期接種になっていなければ、4価の接種で検討してみてください。3回打つのに半年かかりますので、なるべく1回目を夏休みまでに打つことをおすすめしています。

——高2以上でも有効とのことですが、何歳までなら打ったほうがいいでしょうか。

アメリカのCDCでは26歳までは接種を推奨しているのですが、年齢よりもライフスタイルが重要と考えています。HPVワクチンは接種後に新たにHPVに感染することを防ぐ効果があるものですので、例えば既にご結婚されていて、新たにパートナーができるご予定がないのであれば、あまり接種する意義はないと考えます。一方、26歳以上でもまだ独身で、これから新しいパートナーが何人かできる可能性があるなどの場合は、接種する意味は充分にあります。

子宮頸がん検診とHPVワクチンどちらも必要

——HPVはコンドームをしていても感染する可能性はあるとのことですが、性器の挿入に限らず、指や物が粘膜と接触することでも感染の恐れはあるのでしょうか。

尖圭コンジローマの原因になるタイプは皮膚の表面にいるため、接触だけでも感染する可能性はあります。また中咽頭がんはオーラルセックスで感染したHPVが原因になることもあります。

——HPVワクチンに抵抗があって「検査を受けていればいい」と考えている人もいますが、検査だけでは不十分なのでしょうか。

HPVワクチンと子宮頸がんの検診、どちらも大切なことです。子宮頸がん検診は「異常がないか」を診ることが目的ですが、HPVワクチンは異常が起きるのを未然に防ぐものです。

子宮頸がんにはがんの手前の状態である「異形成」がありまして、軽度であっても定期的な通院が必要でしたり、「進行しているかもしれない」という不安を抱え続けたりと、心身ともに負担があります。HPVワクチンでは異形成の予防もできますので、やはり検診だけでなくHPVワクチンを接種するのも大事です。

反対に「HPVワクチンを接種したら子宮頸がん検診を受けなくていいのか」と聞かれることがあるのですが、HPVワクチンを接種しても子宮頸がん検診は必要です。子宮頸がんの原因となるHPVは複数種類がありまして、子宮頸がんの原因として多くを占めるHPVは4価のワクチンで予防できるのですが、残りのハイリスクタイプのHPVで子宮頸がんになるリスクは残っています。9価のワクチンでも100%予防できるわけではないので同様です。

また、数年間、性交渉をしていない方でも、検診は受け続けるようにしてください。かつての性交渉でHPVに感染している場合、長期間潜伏してから異常が出てくることもあるためです。

一度でも性交渉の経験があれば、子宮頸がんになるリスクは誰にでもあります。ですので、子宮頸がんになった=性交渉の回数が多いという意味ではないので、罹患した方にそのような偏見の目を向けてはいけません。だれでもなりうる可能性がある病気なのです。

言いかえれば一般的に普通と考えられる頻度で性交渉をしている人でも、感染する可能性はありますので、「自分はたくさん性交渉しているわけじゃないから大丈夫」とは思わないでください。

HPV自体は普通に生活していて約8割の人が一生に一度は感染すると言われているくらい社会に蔓延しているもので、かかること自体は特別なことでもありません。ただ、その中で運悪く細胞に異常をきたすことがあると、子宮頸がんになるわけでして、誰にとっても可能性のある話です。

子宮頸がん
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——ちなみに性交渉の経験のない人は子宮頸がん検診を受けなくてもいいのでしょうか。

自治体の検診の頻度は2年に1回ですが、性交渉の経験のない人には「絶対に2年ごとに受けてください」とはお伝えしていません。子宮頸がん検診は20歳以上から勧められていますが、「パートナーができたら」というニュアンスでお伝えすることもあります。

「30歳以上でも性交渉の経験がないので受けなくてもいいですか」という質問に対しては、HPVが子宮頸がんのほとんどの原因ではあるものの、それ以外が原因となるのも確率が0でないこと、また卵巣などのチェックも考えますと、2年ごとでなくてもいいのですが、ときどき検診に来ていただきたいです。

性交渉の有無にかかわらず、かかりつけの産婦人科があると、子宮頸がん検診だけでなく生理痛や更年期症状の相談なども気軽にできますよ。

——海外では男性のHPVワクチン接種も一般的だと聞いたことがありますが、男性が接種することにはどのような効果があるのでしょうか。

まず男性自身を中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマから守る効果が期待できますし、自分が感染することで、将来のパートナーにうつしてしまうリスクを回避できます。

また社会全体で見たときに、HPVは男性と女性がうつし合っているウイルスですので、男性も女性も接種率が上がることで、社会全体でのHPV感染率が低下していきます。これを集団免疫と呼びます。

ですので男性が接種する意義は大いにあるのですが、現状、男子は定期接種の対象に入っていません。接種する場合、産婦人科や小児科、内科などにて自費で負担することになります。

——日本の現状でも男子も打ったほうがいいでしょうか。

もちろん打てるなら打つことをおすすめします。ただ、5万円(4価の場合)は誰もが簡単に出せる金額ではありません。男子も早く定期接種の対象になることを願っています。なお、接種する場合の推奨年齢は女子と同じく小6~高1です。初めての性交渉より前に打つのが一番有効です。

HPVワクチンの副反応で一番多いのは接種部位の痛み・腫れ

——2013年頃にHPVワクチンの副反応の疑いとして報道されていた、重篤な症状は心配しなくていいのでしょうか。

結論から申し上げますと、報道されたような痙攣や歩行困難などの症状は、HPVワクチンが原因とは言えませんでした。日本でも名古屋スタディという調査が行われたり、世界中でも同様の研究が行われ、HPVワクチンを打った人と打ってない人を大規模グループで比較した際に、どちらのグループでも同じくらいの頻度で症状が見られました。もしHPVワクチンが原因であれば、HPVワクチン接種グループのみで明らかに発生頻度が増えるはずですので、HPVワクチンが原因で起きた症状とは言えません。

では、報道で見た症状は何なのだろう?と疑問を抱かれると思うのですが、「機能性身体症状」と言いまして、小児科の先生にお伺いすると、HPVワクチンが世に登場するよりもずっと前から、特に思春期の子どもに突然そういった症状が出ることはあるとのことです。機能性身体症状が出る理由はわかることもあれば、わからないこともあります。

時系列で見ると、HPVワクチン接種後にそういった症状が出た子どもたちが、接種後数ヶ月経過していても「もしかしたらHPVワクチンが原因かもしれない」という形で取り上げられてしまいました。

ワクチンに限らずあらゆるお薬を使った後に起きるすべての健康問題を「有害事象」と呼ぶのですが、そこに因果関係のあるものだけ副反応とされます。因果関係を調べるためには先ほどお話したように大規模な調査研究を行い判断します。「原因が何か」ということは突き止めたくなるものですが、副反応と有害事象の違いを正しく認識しておくことが重要です。

HPV
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——現在、HPVワクチンの副反応として考えられている症状にはどのようなものがありますか。

接種部位の痛みや腫れが一番よく見られる症状です。HPVワクチンは筋肉注射で、最近でいいますと、新型コロナウイルス感染症のワクチンで筋肉注射を経験された方が多いと思います。

ただ、同じ筋肉注射でも薬剤の性質によって痛みが異なります。新型コロナウイルス感染症のワクチンは、打った瞬間はほぼ痛みがありませんが、翌日痛みが出たり発熱したりするのが特徴です。

HPVワクチンは打ったときの痛みはやや強めで、イメージとしてはインフルエンザの予防接種より痛い感覚です。ただ、打った後からだんだん痛みは引いていき、翌日にはあまり気にならない程度となる方が多いです。

HPVワクチンの副反応とは別で、そもそも注射や採血が苦手な方は刺される刺激で気分が悪くなったり気を失ったりしてしまうことがあります。ですので、接種する前に注射が苦手でないかお聞きして、苦手な方には最初からベッドに横になって打つことをこちらから提案しています。

——報道のイメージもあり、ごく稀な副反応が気になってしまう方もいると思いますが、どのように考えればよろしいでしょうか。

どんなお薬やワクチンでもあることですので、取り立ててHPVワクチンだけ警戒するものではないです。HPVワクチンに関していえば、本当にごく僅かの確率の副反応と、打たないことでの子宮頸がんを罹患するリスクを考えたら、圧倒的に接種するメリットが上回るとWHO含め、世界の専門機関が判断しています。そして繰り返しになりますが、報道された症状はHPVワクチンによる副反応ではない、ということも大事な情報です。またHPVワクチンに限らず、日本で承認されている医薬品による健康被害と認定された場合には補償もされます。

——稲葉先生は「みんパピ!みんなで知ろうHPV プロジェクト」の代表も務めていらっしゃいますが、啓発活動への思いをお伺いします。

とにかく1人でも多くの人にHPVワクチンについて正確な情報を知っていただきたいです。現状、HPVワクチンに関して「聞いたことがある」程度、もしくは「以前副反応が報道されていた危ないワクチン」というイメージが根強いと思います。

ですが、今現在では、国内外で副反応に関する調査が行われ安全性が確認されていますし、国が積極的勧奨を再開しています。私たちは「絶対に打ってください」と言っているのではなく、2013年頃のイメージのまま「なんとなく怖いから接種しないでおこう」となるのではなく、正しい情報を知ったうえで接種するかしないか判断をしていただきたいという思いでいます。

現状、諸外国に比べ、日本のHPVワクチン接種率は著しく低い状態ですが、定期接種の対象となっておりますので、家庭の経済状況に左右されず接種のできるワクチンです。情報が行き届いていないことによる、健康格差に繋がっている状態を打開していきたい、「ちゃんと」知らないがために予防の機会を逃してしまうことのないように、という思いで啓発を行っています。

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【プロフィール】

稲葉可奈子(いなば・かなこ)

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、現在は関東中央病院産婦人科医長、双子含む四児の母。老若男女問わず生き生きと活躍できる日本を目指して、病気の予防や性教育など生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS、メディア、企業研修などを通して効果的に発信することに努めている。
Twitter:@kana_in_a_bar

●みんパピ!のHP
https://minpapi.jp/
 

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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