セックスで「イク」感覚がイマイチわからない…?どういう感覚なの?【女医・富永喜代が教える!大人の性とからだ相談室】
体の健康についてはさまざまな情報があふれているのに、「性のお悩み」だけは正解が見つけづらい…。家族や友人には相談しにくく、誰に聞けばいいのかわからない――そんなもやもやを抱えていませんか? この連載では、これまでに24万人の痛みや悩みに寄り添ってきた“性の名医”・富永喜代先生が、「大人の性とからだ」のお悩みに丁寧にアドバイス。セックスやセルフプレジャー、カラダや心のことを一緒に考えながら、自分らしいセクシャルウェルネスを育むヒントをお届けします。
Q.今回のお悩み
パートナーとのセックスで「イク」感覚がイマイチわからない?イクってどういう感覚なの?

富永喜代先生の回答
女性のオルガズムは、周囲の環境や心の状態を含めた総合的な条件を脳が気持ちいいと判断することで起こります。そしてオルガズムに達すると、骨盤底筋がリズミカルに0.8秒の間隔で収縮と弛緩を行う反応が現れます。
女性は総合判断でセックスを評価
ーーー女性のオルガズムは、医学的にどのような仕組みで起こるのでしょうか?
実は、オルガズムの定義は今もまだ揺れています。性科学者の言葉によって何をオルガズムとするのかも異なっている。特に女性の場合は男性と違って、男性のように射精して、ペニスの先から精子が出るといった分かりやすい指標がないので、見た目では判断しづらいです。
ところで、女性がオルガズムを感じているのはクリトリスではなく、脳が判別しているということは知っていますか?
ーーー女性器の部位が反応していると思っていました。
女性の場合、いわゆる「イク」状態は主に脳によって判別されるんです。例えばクリトリスを優しく愛撫される相手が恋人だったら気持ちよく感じますが、その相手が痴漢だったらどうですか?「テクニックが優れた痴漢」ではダメですよね。つまり、何か絶対的な条件を満たせばオルガズムに到達するわけではなく、脳による総合的な判断で決まるということ。
よりリアルな例を挙げましょう。もし、あなたが長らく憧れていた相手がいたとします。顔もタイプで性格もスマート。勇気を振り絞って告白したら成功して、いよいよ今晩セックスできるかもと期待している場面を想像してみてください。夜になり、いざ彼の部屋に連れて行かれました。しかし、そこがものすごく不衛生で散らかっている部屋だったらどうでしょう。イヤな匂いが充満していて机の上には缶ビールにタバコの吸い殻が放置されていて、足の踏み場もない空間。おまけに洗っていない枕とシーツがあって、さあここでやろうと言われたらどうですか?いくら相手のことを好きで、直前まで気持ちが盛り上がっていても、その瞬間に一気に気分が下がりますよね。
他には、好きな相手と初めてセックスをすることになったとします。でも相手がものすごく下手で、いきなりグイグイと突っ込んできて痛かったら、どう感じますか?
ーーー終始、身体が強張ってしまいますね。
さらにはこういう場合もあります。相手はすごく好きな人だけど、翌朝の仕事で大事なプレゼンが控えていて緊張している時。もしくは、子育て中の母親で、子供が熱を出して隣の部屋で苦しんでいる時。そんな状況でイケますか?セックスをしていても上の空ですよね。
つまり、女性のオルガズムというのは身体的な感度やテクニックの良し悪しだけで決まるものではないということ。心の状態や周囲の環境などの総合的な条件を踏まえて、脳が気持ちよく感じられるか、そしてオルガズムに達していい状態だと判断できるかで結果が変わってくるんです。
オルガズムのカギは副交感神経
女性がオルガズムに至るために最も重要なのは外陰部への刺激ではなく、副交感神経が優位な状態を作ることです。例えば、恐怖や緊張を感じて気持ちが落ち着かなかったり、自分がオルガズムに達した経験がないことを気にして頭の中が心配で埋め尽くされていたり、このような状態では交感神経が優位になっています。これだといくら上手に刺激を与えても、性的な興奮に繋がらず、オルガズムに達しません。そのため、女性がオルガズムに達するためには、前提として不安を解消できる状況を作ることが必須条件。
そして、女性が外陰部への刺激によりオルガズムに達すると、骨盤底筋がリズミカルに0.8秒の間隔で収縮と弛緩を行う反応が見られます*。これはオルガズムに至ったという証拠であるとも言えます。
*1960年代に性に関する研究結果を発表したウィリアム・マスターズ博士とバージニア・ジョンソン女史によって報告された。
セクシャルな刺激は脳で判断される
少し専門的な説明になりますが、まず、身体への刺激(撫でる、舐める、挿入するなど)は全身に張り巡らされた末梢神経によってキャッチされ、その刺激は感覚神経によって脊髄、そして脳へと伝達されてます。もし脳がこれを気持ちいい、セクシャルな刺激だと判断したら、今度はこの反射によって脳の側坐核・前頭前野・視床下部が連続的に活性化し、ドーパミン 、 オキシトシン、 セロトニンなどの神経伝達物質の分泌が変化していく。
つまり、同じように触られても、脳の判断によってそれが性的な快感とされるかそうでないかが決まる。仮に触られた相手が痴漢だったら、脳はその刺激を性的なものと判断しませんよね。
女性が性的に興奮した時に起こる脳の変化
では、さらに掘り下げて、女性の身体が外陰部刺激を得た時に体内で起こる変化について、3つのステップに分けてお話します。
①情動の判定を行う
まずクリトリスに外的な刺激が与えられたとしましょう。するとその刺激は陰部神経という末梢神経を伝って、脊髄の仙髄へと向かいます。そして脊髄を登って脳の中の大脳辺縁系に伝わり、特に扁桃体と呼ばれる場所で情動の判定(感覚器官から得た情報に対して脳が分類を行うこと)が行われます。
そして、性の中枢地点である島皮質*(性的な刺激を伝える役割を持つC線維を刺激すると活性化する場所)がその刺激を気持ちいいものと判断すれば、側坐核が働いてドーパミンが放出。気分が盛り上がっていきます。
②理性をオフにする
続いて、理性や自己意識を司る場所である前頭前野の活動を抑制させる必要があります。このステップは、性的な行為に対する理性のリミットを外すことを意味します。
③副交感神経が優位に
そして、小脳が活性化します。この流れは視床下部や脳幹に伝わり、やがて副交感神経が優位な状態が作られます。すると、オキシトシンやセロトニンが放出されて深い余韻が得られるのです。ちなみに、漫画やアニメなどで足がピクピクしている場面をイメージできますか?あれは小脳の過剰活動によるものなんですよ。
*大脳辺縁系→島皮質の流れには複数のルートがあり、ここで説明されているのはメインルートとされているものです。
ご回答いただいたのは...富永喜代先生
富永ペインクリニック院長。医学博士。愛媛県松山市にて富永ペインクリニックを開院。性の悩み専門の性交痛外来を開設し、全国から1万人以上がオンライン診断を受ける。YouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、中高年の性事情に特化した内容で登録者数29万人、総再生回数は7400万回超。SNS総フォロワー数45万人。セクシャルウェルネス世界トップ企業ラブハニーグループの日本初『Pleasure Journey』に登壇。コラボしたウーマナイザー機能搭載『モンアミフィンガー富永喜代モデル』も好評発売中。著書に『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など、著者累計100万部超。
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