月1回以上セックスしている60代は2割。中高年も性を楽しむヒントとは【専門医に聞いた】
「中高年になったらセックスは卒業するもの」「中高年でセックスをするのは恥ずかしい」と考えていませんか。ですが、性交痛外来を開設する「富永ペインクリニック」院長の富永喜代先生がオンラインコミュニティでとった各世代アンケートでは「60代で最高のセックスを経験した」という人が最多となったとのことです。富永先生の著書『女医が導く 60歳からのセックス』(扶桑社)では、中高年がセックスを楽しむためのヒントが書かれています。詳しくお話を伺いました。
中高年でも性を楽しんでいい
——中高年の性というと、タブー視する空気感や、“衰え”のイメージがあります。なぜ中高年で性に向き合うことが大切なのでしょうか?
昔は寿命そのものが短かったので、更年期から亡くなるまでの期間が短かったのです。しかし、今は人生100年時代。女性は2人に1人が90歳まで生きています。
そこで問いたいのが、平均寿命も健康寿命も長くなりましたが、セックス寿命はどうかということ。「更年期になったらセックスは卒業するもの」「中高年になってセックスするなんてはしたない・いやらしい」……根本的には、自分の親世代の価値観をそのまま引き継いでいる人も珍しくありません。
「もうセックスしないから、デリケートゾーンケアはいらない」と考える人もいますし、そもそも「触ったらダメ」と教えられてきていて、デリケートゾーンケアをどうしたらいいかわからない人も少なくありません。
一方で、離婚した後に、また結婚する人や、コロナ禍を経て、セックスを再開している人、SNSを活用して、結婚はしないけれども、性を謳歌している人もいます。なので、自分自身が自分らしく生きる選択肢があることが極めて重要です。
——中高年のセックスの実態とはどのようなものでしょうか?
結論から申し上げると、性の二極化が起きています。
「更年期になったらセックスは卒業」というイメージがありますよね。確かに60代だと更年期も終わっています。【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020を見ると、60代だと男性の62.2%、女性の69.4%が1年以上セックスをしていません。
ですが、セックスレスではないという定義に当てはまる「月1回以上セックスをしている人」に注目すると、60代男性の20.7%、60代女性の22%、つまり5人に1人は月1回以上セックスしているんです。
多数決で考えたら、6割~7割がしていないなら「しないのが普通」と言っても間違いでない気もしますよね。でも60代になっても5人に1人は月に1回以上している、『セックスレスじゃない』となるといかがでしょうか?
ちなみに月1回以上セックスする人について、50代だと男性は30.8%、女性は20.3%、40代だと男性は42.3%、女性は35.6%です。
日本では中高年に対し「その年でまだセックスしているの?」という社会的な抑圧があります。もちろん、したくなければしなくていいですし、セックスするのもしないのもあなたの自由です。一度しない時期があっても、またセックスを始めるという人もいます。
人生が長くなっているので、色々な選択肢のある時代がきている。だから中高年で性に関して現役であることについて、決して自分の性を卑下する必要はありません。「中高年になったら普通は(!)セックスしない」と考えている方には、更年期以降の人生が長くなった今の日本の現状を知っていただきたいです。そして、前世代的な自分の性の価値観を他者に押し付けないで欲しいですね。
6割の女性が性交痛を感じている
——中高年女性の性交痛について、教えていただけますか?
富永ペインクリニックで男性263名、女性88名に対して調査(※1)をしました。「大人の性交痛や腟萎縮について知っているか」聞いたところ、男性で知っていたのは18%、女性は31%で、男性も女性も知らない人が圧倒的に多かったんです。
「いつまでもセックスできると思っていたか」についても尋ねたところ、男性の26%、女性の35%が「思っていた」と回答。男性は勃起しなくなると思っていたものの、女性はできると思っている人は少なくないんですね。でもいざ中高年になって、いきなりセックスしようとすれば、腟が狭くなっていて、痛くて入らない。加齢に伴うエストロゲンの低下によって、濡れにくくもなっていますので、愛情云々の問題ではなく、加齢とともに性器は劣化していくんですね。性器の基本的な加齢変化を知らないから、セックスができる体を維持するには、努力が必要だということを知らない人は少なくないですね。
40代になって、久しぶりに良い人と出会ったけれども入らなかった人、子育てが一段落してセックスを再開する人や、コロナ禍で在宅が増えて一緒にいる時間が増えた人が、久しぶりにセックスしてみたら、すごく痛かった、などの話を性交痛外来ではよく伺います。性交痛外来には「しばらくしてなくても、ずっとできるものだと思ってました。先生、また痛みなくできるようにして下さい。」という切実な悩みで来院する方は多いです。
性交痛については、【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020では、6割近くの女性が性交痛を感じていますし、先ほどと同じ富永ペインクリニックの調べ(※1)でも、女性の6割が性交痛を感じていました。対して男性で性交痛を感じているのは2割だけです。
——性交痛を改善したい場合に、できることはありますか?
今後セックスをしたいと思うのでしたら、セックスできる体を作っておくことが必要ですね。そのためにポイントとなるのが、セルフプレジャーです。おすすめが、ユーザー女性の98%が「オーガズムを感じた」と回答した「ウーマナイザー」というクリトリス吸引型のアイテムです。セルフプレジャーでオルガズムを得ている人の方が、得ていない人よりも、実際にセックスしたときにオルガズムに達しやすい、とも言われています。
ただ、クリトリス吸引型では腟は大きくならないですよね。irohaの「みかづき」のように、バイブレーター機能のあるアイテムを使って、ちょっとずつ繰り返し挿入の練習をする方法があります。
セックスを望むのであれば、セルフプレジャーをしてオルガズムに達することのできる体をつくったり、自分自身の快楽を追求し自信を取り戻しておくことも重要ですね。なお、セルフプレジャーはセックスの準備だけでなく、自分で快楽を追求したり、不眠やストレス解消、不安を和らげるという作用もあります。
セックスを楽しむためには、ローション(潤滑剤)を使う方法もあります。ローション(潤滑剤)については「濡れなくなった証拠のようで恥ずかしい」とおっしゃる方もいるのですが、無理をしていれば、摩擦が痛くて、緊張して、余計に体に力が入ってしまい、セックスをしたくなくなってくる。楽しいはずの時間が無駄になってしまうのですよね。
また、更年期から始まる腟萎縮の要因は、女性ホルモン“エストロゲン”の減少です。デリケートゾーンの潤いを取り戻し、腟周囲性器の若返りや性交痛の緩和のため、エストロゲンの主要活性物質であるエストラジオールを配合した「デリケートモアモイストゴールドラベル」を潤滑剤に使用することも、性交痛外来ではおすすめしています。
——本書では、中高年男性のセックスにおいて、「才能」や「愛」よりも「知識」が重要であることが書かれています。
先ほどもお話ししたとおり、女性の6割が性交痛を感じています。特に20代の女性に関しては性交痛を感じているのは7割以上です。若い女性のセックスの相手の男性は基本的には若い。若い男性の方が経験が少なく、相手の意見を聞く余裕や、テクニックが少ない傾向にあります。腟の中をガシガシ触るとか、クリトリスを強く押すとか、十分に濡れていないのに挿入するとか、基本事項がわかっていない人が多い。相手がどうしたら気持ちよくなれるかよりも、自分の性欲を優先してしまいがちです。
【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020では、セックスの悩みごとについて聞いていますが、男性は早漏や遅漏で悩んでいる人が多いです。言い換えれば、すでに“快感は得られている”ものの、“時間”について悩んでいます。
対して女性はオルガズムに達することができないとか、快感が得られないとかが非常に多い。20代の女性はオルガズムに達することができないことと、快感が得られないことだけで、5割を超えます。つまり女性は楽しくないことに付き合わされている状況です。
女性から「イッたフリをします」という話を聞くことは珍しくないですよね。それは楽しくないから早く切り上げてほしいということです。だからお互いに気持ちの良いセックスをするために、どこが気持ちいいのか、コミュニケーションを取っていくことは欠かせません。
※1:日本ペインクリニック学会第57回にて発表
※後編に続きます。
【プロフィール】
富永喜代(とみなが・きよ)
富永ペインクリニック院長。医学博士。愛媛県松山市にて富永ペインクリニックを開院。性の悩み専門の性交痛外来を開設し、全国から8000人以上がオンライン診断を受ける。YouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、中高年の性事情に特化した内容で登録者数26万人、総再生回数は6000万回超。
著書に『こりトレ』(文藝春秋)、『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)、『女医が教える 死ぬまで「性」を愉しみ尽くす本』(永岡書店)など、著者累計98万部。
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