中高年のセックスの実態とは?60代から“最高のセックス”をするために必要なこと【専門医に聞く】
性交痛外来などがある「富永ペインクリニック」院長の富永喜代先生の著書『女医が導く 60歳からのセックス』(扶桑社)では、中高年が性を楽しむためのノウハウが書かれています。前編では中高年のセックスの実態や、中高年女性の性交痛について伺いました。後編では、中高年女性のデリケートゾーンの悩みや、「良いセックス」をするためのコミュニケーションについてお話しいただきました。
デリケートゾーンのケアは必要
——中高年女性のデリケートゾーンの悩みについてはいかがでしょうか。
富永ペインクリニック調べ(※1)では、自分の腟の臭いが気になる女性は62%であるのに対し、パートナーの腟の臭いが気になる男性は39%でした。
更年期の女性は不潔にしているわけではないものの、女性ホルモンのエストロゲンが減少することによって、デーデルライン桿菌という腟の善玉菌が減っていきます。善玉菌が作り出していた酸性バリア機能が低下することで、腟は常在菌に攻め込まれ、腟が臭うようになってしまうんです。そういった知識を知らず、自分が不潔なのだと思い込み、腟の中を石鹸で洗ってしまったり、温水洗浄便座で腟奥深くまで洗い流すなど、間違ったケアをしてしまう人は少なくありません。理想はデリケートゾーン用のソープで外陰部を洗うことです。決して腟内を洗うのではありません。
一方で、調査からもわかるように、自分から臭いがすることに気づいていない人もいます。自分の臭いだからわかりにくいのですよね。その点、身だしなみとしてもデリケートゾーンのケアは必要という、性のアップデートが必要です。
——女性器について、小さい頃に「触ってはいけない」と言われた人も多く、デリケートゾーンのケアに抵抗感のある中高年女性は少なくないと思います。心理的な抵抗感を軽減させるためには、どう捉えればよろしいでしょうか?
デリケートゾーンケア、フェムケアとも言いますが、何のためにすることかをまず考えていただきたいです。臭いの点からしますと、毎日おしっこやうんちをしているような場所で、何十年もきちんと洗わないところがあっても平気でしょうか?おしっこに関して、トイレットペーパーで拭くものの、毎回全部が拭きとりきれるわけではありませんよね。
腟は体腔から体外に開口している臓器です。体内にばい菌の侵入を許してはいけないので、子宮入口近くの腟奥から下に向かって腟分泌液が出るような仕組みになっているんです。中高年になると腟分泌液が減るので、腟の自浄作用が低下し、下からばい菌に入り込まれて、臭いが気になるようになります。
加えて、陰部の毛根にはアポクリン腺というねっとりした汗をかく汗腺があります。これは脇にも多く分布している汗腺なので、陰部はワキガと同じようにきつい臭いを発することがあるのです。
身体の中でも脇は丁寧に洗いますよね。なぜかといったら、あの独特の匂いが残るのが嫌だから。脇毛の奥からおしっこが出ているようなイメージでいたら、デリケートゾーンをケアする必要があることはイメージしやすいのではないでしょうか。
また更年期以降、女性ホルモンの低下によって骨盤底筋の緩みが進みます。すると子宮脱や膀胱脱、尿漏れといったことも起きます。セックスの有無に限らず、デリケートゾーンのケアはみんなに必要なことです。
コンプレックスを植え付けようとする男性に注意
——貴著では、パートナーのデリケートゾーンが全く臭いがしないにもかかわらず、わざと「お前のあそこ臭いな」などと言って相手にコンプレックスを植え付ける、セックスとDVについての言及がありました。本でご紹介されていた以外に、典型的なパターンのような言葉はありますか?
「お前のビラビラはデカい」「あそこが黒いのは、セックスして、その摩擦が多かった証拠。だからお前はヤリマン」など、女性にあえてコンプレックスを持たせようとする男性がいます。
でも男性のペニスと違って、小陰唇の大きさや色を簡単に他人と比較できません。自分の小陰唇が他人と比べてどうかなんて、ほとんどの人がわからないですよね。それに身長と同じで、生まれつきで変えられない特徴でもあります。
自分の女性器の色や形を気にしている女性は珍しくないですが、人と比べられないので、男性から言われるその一言が真実味を帯び、信じ込んでしまい、コンプレックスを植えつけられてしまう。自分にテクニックがないことを隠すために、相手を卑下する言い回しを使うことで、相手を自分の支配下に置こうとする男性がいるんです。
でも、いちばん大切なことは、ありのままの自分の身体を大事にしてほしいですよね。ましてや「セックスのときに及んで、そんなことを言ってくる男性はこっちから願い下げ」という気持ちがあると、女性は不必要なコンプレックスを植え付けられずに済みます。そういう人がいることを知っておくことで、自分の心を守れますので、覚えておいてくださいね。
言わなければ、伝わらない
——日本には「察して文化」があるように、日常的な話でも言わないことがあるうえ、セックスについて話し合うのはハードルが高いように感じます。特に「女性は性に控えめの方がよい」という価値観もあって、言い出しづらいのかもしれません。
日頃の家庭での生活を思い出してほしいのですが、家事をしてほしいときに、言う前から察して動いてくれる人の方が少なく、言って初めて動く人は珍しくないですよね。
パートナーはセックスに関して百戦錬磨でもなければ、「白馬の王子様」でもないですし、プロから“サービス”を受けるのでもありません。特にパートナーが若ければ、相手も手探りですし、余裕がないでしょう。自分の体の気持ちいいことや痛いことを伝えなければ相手はわからないに決まっています。どこが気持ちいいかを伝えずに、「下手くそ」と評価するのでは、男性も気の毒だと思います。
——対等なセックスをするために、どのようなことを意識するといいでしょうか?
パートナーと対等でありたいと思うなら、自分自身の思いを伝える必要があります。でも「言えない」と悩んでいる人もいます。なぜ言えないかというと、相手に嫌われなくないから。自分の意見を言わないということは、「相手の機嫌を損ねたら困る」という懸念を先回りし、常に相手の意見を優先することが刷り込まれている。
もし、相手が自分の伝えていることを封殺してくるのであれば、相手は対等な関係を望んでいないと言っているのと同じです。パートナーの言葉に耳を傾けず、自分だけが気持ちいい独りよがりなセックスを押し付けてくる。そんな人とセックスしていて楽しいでしょうか。セックス中のDVのケースと同じで「こちらから願い下げ」と女性も言えるようになっていくことが大切ですね。
伝えるためには、まずは自分の身体のことを知る必要があります。それには前編でお話ししたようにセルフプレジャーが重要になってきます。「私は左の乳首が気持ちいい」「バックが好き」「浅めでピストンをしてほしい」など、具体的にどうしたら気持ちいいかを伝える。女性が何も伝えなければ、「俺はこれで気持ちいいんだし。彼女は何も言わないからこれでいいんだ」と思い込み、ますますひとりよがりのセックスをしてしまいます。思いを伝えない結果、「すれ違いセックス」、ひいては「セックスレス」になってしまうのではないでしょうか。
「良いセックス」とは、一人ではつくることができません。二人の信頼で成立するものです。セックスに関する互いのことは、他言無用であることを前提としています。なので、信頼できないパートナーやワンナイトでしたら、「こうしてほしい」とは言えないし、言わなくていい。自分だけの性欲とセックスを追求して下さい。
でも「この人と長く一緒にいたい」「愛している人で離したくない」と思える信じられるパートナーであるならば、その思いを伝え、「最高のセックス」を二人でつくっていけるといいですね。
※1:日本ペインクリニック学会第57回にて発表
【プロフィール】
富永喜代(とみなが・きよ)
富永ペインクリニック院長。医学博士。愛媛県松山市にて富永ペインクリニックを開院。性の悩み専門の性交痛外来を開設し、全国から8000人以上がオンライン診断を受ける。YouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、中高年の性事情に特化した内容で登録者数26万人、総再生回数は6000万回超。
著書に『こりトレ』(文藝春秋)、『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)、『女医が教える 死ぬまで「性」を愉しみ尽くす本』(永岡書店)など、著者累計98万部。
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