(4)認知症の周辺症状である「易怒性」が爆発   父の初めての「不穏」に対峙する

(4)認知症の周辺症状である「易怒性」が爆発   父の初めての「不穏」に対峙する
Saya
Saya
2025-08-23

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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初日、民泊にチェックイン後の父は、同級生の家を尋ねたり、夕食をわたしたちにご馳走すると言ったり、よい調子に見えました。翌日はいとこの車で、父の妹であるおば夫婦の家に。おばも10分ごとに同じことを聞くほど進行したアルツハイマーでしたが、前年にわたしが訪れたときも、「兄はわたしに優しくてね、わたしたちきょうだいのなかではだけど、すごく優秀でね」と繰り返していたくらいで、他人の顔がわからなくなっても、大好きな父のことはわかるようで、トンチンカンながら、ふたりで会話をしています。もうひとりのいとこも夫婦で来てくれたので、全員でそばを食べに行くなど、予想外に楽しい時間になりました。

いとこたちが口にしていたのは、「歳を取ったら、みんなこうなるんだ」ということ。東京との違いとして、家族にそれほどの悲壮感はなく、「うちの父親がひどい状態のときは殴りたいときもあったよ」などと言うものの、誰もがあるがままに認知症の老人を受け入れているように感じました。「このあたりでは認知症の年寄りがひとりで暮らしている家も多いんだよ」と言われたとおり、その後、訪れた父の実家では父の兄嫁だったおばがひとりで暮らしていました。夕方になると、別のいとこたちも合流することに。どうも刺激が少ない田舎のこと、めったにない父の訪れをみんなが楽しみにしてくれていたようなのです。

ただ夕方が近づくにつれ、父は相当疲れているように見えたので、わたしとしては早く切り上げたかったのですが、いとこに押し切られてしまって。案の定、この日の深夜、エネルギーが枯渇した父は、認知症の周辺症状である「易怒(ルビいど)性(怒りのこと)」が出てしまいました。夕食時にアルコールが入ったり、冗談を言われたことをバカにされたように感じたりもあったのでしょう。夫といとこが出かけたのち、見たこともないような、母への言葉による攻撃が始まったのですね。医療用語だそうなのですが、「不穏(穏やかでない)」状態の父に、わたしが対峙した初めての経験でした。

野口さとこ

それまでに、わたしが会ったことがある認知症患者は、先ほどの父の妹くらい。もともと可愛らしい人で、幼児のように、何度も同じことを聞くだけだったので、それほどひどい印象はなかったのです。でも、男性では攻撃性が高まることも多いと聞いていたとおり、父には周辺症状として、妄想や言葉による攻撃があったのでした。占星術的に言うと、父は太陽や水星がふたご座にある生まれで、もともとコミュニケーションが上手なタイプ。トランジットの木星がふたご座に入ったタイミングでもあり、少しの刺激で、簡単に興奮してしまうようでした。

たった30分前までは、長い結婚生活を振り返り、「お母さんも俺もよくやってきたよ」と母をねぎらっていたのに、そんなことは忘れたように、母のことを悪しざまに言う。しかも疲れを知らないのかと思うレベルで、1時間でも2時間でも言い続ける。認知症患者に慣れているいとこが帰ってきてから、興奮した父を受け止め、眠るまで付き合ってくれたので助かったのですが、病気がそうさせているとは言え、「明日からどうしよう……」「両親ふたりだけで暮らせるのかな」と暗澹たる気持ちで眠りにつきました。

→【記事の続き】(5)旅の最終地点、戦場ヶ原では天国のような体験も   帰りの新宿駅で、まさかの誤嚥性肺炎!こちらから

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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