(1)初期の認知症の父を旅に連れていく!?いろいろあった珍道中のエピソード

(1)初期の認知症の父を旅に連れていく!?いろいろあった珍道中のエピソード
Saya
Saya
2025-08-23

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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前回は、東京の父が「アルツハイマー型認知症」と診断され、「要介護1」の認定が降りるまでの顛末をお話ししました。2024年2月中旬に深夜の徘徊。3月末に認知症外来を受診。「アルツハイマーに進行する」と、推定ながら、診断が降りたのが2024年4月末のこと。介護保険の認定には自治体の調査員によって、家庭訪問があるのですが、それが5月。6月に認定結果が降りました。

わたしは3人姉妹の長女ですが、京都在住で遠距離。近居には妹ふたりがいますが、一般には「主たる介護者」は同居の母になるでしょう。父も母も80代の、いわゆる「老老介護」のスタートでした。今回は、そんな認知症初期の父を旅に連れていった珍道中について、お話ししてみたいと思います。

4月のある日、「お父さん、アルツだって」と夫に話したところ、「お義母さんとふたりだけでいるからいけないんだよ。もっと刺激が必要なんだ。元気なうちに、お父さんを田舎に連れていこう」と言い出したのです。パンデミック前までの数年間、夏になると、両親と夫と4人で、八ヶ岳の山小屋に滞在するなどしていたのですが、当時の父はかなり頑固になっていて、こちらが好意で動いても、伝わりづらいところがありました。とくに認知症発症からさかのぼること4年前の夏の滞在では、わたしたちには思いもつかないことで怒り出す始末……わたしは当時から「認知症の前段階ではないか」と疑っていました。

でも、ふたご座の父は、もともとかなりの気分屋。歳を取ってからはだいぶ穏やかになってはいましたし、慣れている自宅では普段と変わらないので、その時点では他の家族は認知症説を取り合いません。またパンデミックの3年間、東京との行き来はできるだけ控えていたので、気にはかけつつも、つい、そのままになっていました。おそらく4年前の時点で、すでに軽度認知障害にはなっていたでしょうから、近居でよい関係を築き、認知症薬を飲ませることができていたら、進行はもっとゆるやかになっていたのかもしれません。

野口さとこ

とは言え、パンデミック中の父は、連日、テレビにかじりつき、未知のウイルスへの不安でいっぱいに。わたしからすると、高齢者ふたり暮らしで、そもそも社会から隔離されているも同然の両親は、それほど感染の心配はなかったと思うのですが、ワクチン接種も4回も5回もしていたようなので、めったに姿を現さないわたしが何を言っても、聞くはずもなかったのです。先月の記事でも書いたように、「距離がある」ことの難しさを感じるところです。

そんな事情もあり、夫からの「両親を連れての旅行」というありがたい申し出にも、わたしとしてはかなり後ろ向きだったのですが、あまり何回も、「お父さんに話したか」と夫に言われるので、5月に実家に戻ったときのこと。アルツハイマーと診断され、気落ちする父に、「夫がお父さんの田舎に一緒に行こうって言っているけど、どう思う? 」と尋ねたのですね。「彼はあのあたりは行ったことがないだろう。彼が行きたいんなら、連れていってやろう」としぼんでいた風船がふくらむかのように、俄然、張り切り出したのです。これが2024年5月のこと。6月なら、夫も長期の休みが取れるし、平日なら、今からでもなんとかなるだろうと、急いで準備をすることになりました。でも、そこで父の衰えを目にすることになったのです。

→【記事の続き】(2)貸し切りの民泊、乗り換えのない特急。 ない知恵を絞っての旅の準備を急ピッチでこちらから

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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