(2)貸し切りの民泊、乗り換えのない特急。 ない知恵を絞っての旅の準備を急ピッチで
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
父を田舎に連れていくと言っても、わたしは運転ができませんし、夫も、長時間の運転は得意ではありません。父の実家も代が変わっており、父の妹夫婦も揃って認知症に。子どもの頃、父の車で帰省したように、実家から車で行き、親戚の家に泊まれるならラクなのですが、公共交通機関を使い、宿を探すほうがいいだろうという話になりました。
偶然ですが、前年の春、東京から日帰りで、父の田舎のあたりに行く機会があったので、近年の外国人観光客の増加で、公共交通機関に関してはかなり便利になっていることはわかっていました。そのときは新幹線と在来線を乗り継いだのですが、今回は、年寄りふたりを連れていること、荷物も多いことを考えて、多少時間はかかっても、乗り換えのない特急で行くことにしました。

ただ子どもの頃に訪れていたと言っても、親の言うままに動いているに過ぎないので、案外、地理感覚がないんですよね。親戚以外の家に泊まったことがないので、最寄り駅にホテルがあるかどうかもわからない。田舎あるあるですが、ホテルのブッキングサイトで検索すると、1軒しかない駅前のビジネスホテルはほぼ満室で、希望の部屋数が取れない。それで、たまたま見つけた一軒家を貸し切るタイプの民泊を予約しました。観光地ではないのでガイドブックもないうえ、家もまばらなエリアではカーナビも役立ちそうにないことから、親戚まわりの1日はいとこに道案内を兼ねて、運転を頼みました。
両親と連絡を取りつつ、これらの手配をなんとか終えたところで、父に頼まれたのはお土産の準備。年寄りにしてみると、よさそうなものを選ぶことも、当日、荷物になることも億劫なのですね。こうしたことも、時間を一緒に過ごしてみないとわからない。数年前なら苦もなくできたことのハードルが格段に高くなるのだと学びになりました。「3千円か4千円くらいで、できるだけ大きく見えるお菓子を選んでくれ」ということで、大丸京都店へ。確か、「笹屋伊織」さんだったかと思いますが、そこそこに見栄えのよいものを見繕うと、スーツケースの片側半分がお土産で埋まるくらいの有様でした。
ここまで準備はしていても、直前の心境はかなりブルー。自分がよく知っている場所ならまだしも、あまり知らない土地で、ワガママな認知症の父をアテンドするというのはかなりのチャレンジに思えていました。ただ、川崎で生まれたものの、5歳で疎開。その後、20代初めに東京へ転勤になるまで、父が過ごした大切な心の故郷です。実の妹はもちろん、同級生など会いたい人もいるようです。わからなくなる前に連れていってあげたいという気持ちだけで、なんとか動いていました。
→【記事の続き】(3)民泊の生活スペースが2階!母はむっつり。 父は楽しげでも、前途多難な予感……! はこちらから
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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