反芻思考(ぐるぐる思考)とは?心理士が教える原因と止め方
仕事や学校、家庭での何気ない失敗を引きずり、ひとり反省会をすることはないでしょうか。例えば帰宅後のリラックスタイムや就寝前に「なぜあんなミスをしてしまったのだろう?」と考えてしまうと、ストレスになって落ち着けませんよね。このように、ネガティブなことをぐるぐると考えてしまうことを、「反芻思考(読み方:はんすうしこう)」と呼びます。本記事では、反芻思考(ぐるぐる思考)を取り上げ、このような思考から抜け出し、気持ちを切り替える方法を紹介します。ぐるぐる思考をしがちな人は、ぜひ参考にしてくださいね。
反芻思考とは
反芻思考とは、ネガティブな気分や状況に陥った原因や、意味についてぐるぐると考え続けることです。
例えば次のように自問自答を繰り返し、憂うつな気分がなかなか晴れない場合は、反芻思考に陥っているかもしれません。
・「なぜあんなミスをしてしまったのだろう?」
・「あの人に嫌われていないかな?」
・「なぜこんなに気分が落ち込んでいるんだろう?」
「これ以上考えたくない」と思ってもなかなか止められないのが特徴です。
反芻思考が起こる原因
反芻思考が起こる原因のひとつとして、人間が進化する過程で獲得した「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる脳の機能が影響しているといわれています。
デフォルトモードネットワークとは、ぼんやりしているときでも、いろいろなことを考えてしまう脳の仕組み。狩猟で生活の糧を得ていた大昔に、人間の身を守るために育まれた危機管理能力のひとつと考えられています。
このネットワークは脳で使われるエネルギーのうち60%〜70%を消費しています。つまり、私たちの脳は、何もしていない時にも大きなエネルギーを消費しているのです。そこに強いストレスがかかると、脳疲労を引き起こすといわれています。
脳疲労になると、情報処理能力や認知機能が低下して、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少します。これらの神経伝達物質が減少すると、うつ病になるといわれています。そのため、デフォルトモードネットワークとの関係が深い反芻思考を放置すると、うつ病を発症するリスクがあるのです。(※1)
反芻思考の種類
反芻思考には「リフレクション」と「ブルーディング」の2種類があり、気分の落ち込みにつながるのは後者といわれています。
リフレクション
リフレクションは、「失敗の原因はなんだったのだろう?」と考えるものです。出来事そのものを後悔するだけではなく、原因分析まで行います。
原因を特定し対策を講じることで、次に同じことを繰り返さないようにできる点がメリットです。そのため、反芻思考のなかでも人間にとって有益な思考といえます。
ブルーディング
ブルーディングとは、ネガティブな気分や状況に対し、運や自分自身の性質、取り巻く環境のせいにしようとする思考です。
例えば、「自分の能力がないせいだ」「もっと周囲の理解があれば」と自分自身や取り巻く環境に対する不満を募らせます。
ブルーディングはうつ病や不安障害などの精神疾患の発症に関係するといわれているため、人間に悪影響を及ぼす反芻思考といえます。
反芻思考になりやすい人の特徴
反芻思考になりやすい人は、次のような特徴を持つ傾向にあります。
・女性である
・真面目で完璧主義な人
・発達障害のある人
自分に当てはめて考えてみて、反芻思考の傾向にないかどうかチェックしてみてください。
女性である
アメリカのイェール大学のスーザン・ノーレン・ホークセマ教授によると、男性よりも女性の方が反芻思考になりやすいと言われています(※2)。 教授は、女性の方が男性よりも2倍うつ病にかかりやすいのはこの反芻思考のせいであると考えました。
真面目で完璧主義な人
真面目で完璧主義な人は、全てが整った状態ではないと気が済まないため、常に高い目標を設定して頑張ろうとします。
少しでもミスや誤りがあると気が収まらないため、反芻思考を繰り返すことでストレスを抱えるてしまうのです。自分のとってきた行動の結果や周囲への影響を考え、心配や反省を繰り返します。
発達障害のある人
ADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉症スプレクトラム、アスペルガー症候群)などの発達障害のある人は、反芻思考に陥りやすいといわれています。
ADHDは不注意や多動性、衝動性が見られる点が特徴です。物忘れをしやすかったり、好きなこと以外に集中しにくかったりします。失敗を責められたときなどに、ぐるぐる思考を繰り返してストレスを抱えることがあります。
ASDはこだわりが強く感情の起伏が激しいことが特徴で、周囲の人とうまくコミュニケーションがとれずにトラブルを抱えることがあります。こだわりが強く完璧主義なため、過去の失敗を忘れられずに、反芻思考から抜け出せなくなります。
反芻思考がもたらす悪影響
気分が落ち込んでいるときに反芻思考をすると、落ち込みの原因となった出来事だけでなく、過去のネカティブな経験も思い出されやすくなります。
例えば、恋人との喧嘩で気分が落ち込んだときを例に考えてみましょう。反芻思考が無ければ喧嘩の原因となった出来事だけに怒りの感情が湧きます。しかし怒りの感情は一時的なもので、時間が立つとイライラは収まりストレスが続くことはありません。
一方で反芻思考に陥ると、喧嘩の原因だけではなく、「あの時もこの時もそうだった…」と過去のことを際限なく思い出すのです。時間がたっても喧嘩したときのことをぐるぐると考え、長時間ネガティブな感情を抱くことになります。
このような反芻思考を繰り返しても、過ぎ去った出来事は変えようがなく、精神的に悪影響を及ぼします。
反芻思考と病気との関連性
反芻思考で気分が落ち込んだ状態を放置すると、さまざまな精神疾患になるケースもあるため注意が必要です。以前はうつ病になった場合に、同じことを考える傾向が強くなることから、反芻思考とうつ病の関連が指摘されていました。
しかし現在は、うつ病に限らず、不安障害、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害などのさまざまな疾患で反芻思考が観察されることがわかりました(※3)。そのため、反芻思考が確認される場合は、さまざまな精神疾患の可能性を考える必要があります。
ここでは反芻思考に関係のある疾患について解説します。
うつ病
うつ病とは、気分が落ち込み、物事への興味や関心が薄れ、やる気が出なくなる精神疾患です。この病気では、思考力が低下し、同じことを繰り返し考え続けることがあります。思考力が低下しているため、どれだけ考えても結論が出せず、同じことを繰り返し考えてしまうのです。
その結果、反芻思考が生じ、さらにネガティブになることで悪循環に陥りやすくなる傾向にあります。
不安障害
不安障害とは、過度に不安になることで日常生活に支障をきたす精神疾患です。とくに、「全般性不安障害」と呼ばれるタイプでは、日常の些細な出来事に対して過度に心配する傾向があります。その結果、準備に多くの時間を要したり、眠れなくなったりするなど、生活に支障が生じやすくなるのが特徴です。
また、将来について「本当に大丈夫だろうか」「何か問題が起きるのではないか」といった過剰な心配が続き、そうした考えから抜け出せなくなることがあります。このように、過度な不安が原因で反芻思考に陥っている場合、不安障害である可能性も考えられるでしょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、命の危険を感じるような事故や災害、暴力、虐待などの強いストレスを伴う出来事(トラウマ体験)がきっかけで発症する精神疾患です。
PTSDをはじめとするトラウマが原因の精神疾患でも、反芻思考が見られることがあります。過去のつらい出来事を繰り返し思い出し、「あの時○○するべきだったのではないか」「自分に責任があったのではないか」と自分を責め続けるケースが少なくありません。
辛い体験を繰り返し思い出して自分を責めたり、トラウマに関するものを避ける行動をとったりしている場合、PTSDである可能性が考えられます。
強迫性障害
強迫性障害とは、「家の鍵を閉忘れたのではないか...」「自分の行動や言ったことが原因で、傷ついた人がいるのではないか...」などと思い悩み、過度なこだわりや不安に苦しむ精神疾患です。このようなこだわりに基づく不安は「強迫観念」と呼ばれ、強迫観念にとらわれることで同じことを繰り返し考え続けてしまいます。
以上で説明したような精神疾患に罹患しているかどうかを個人で判断することは難しいでしょう。そのため反芻思考を止めようといろいろと試しても症状が改善されずに悩んでいる場合、まずは心療内科や精神科などの医療機関に相談することをおすすめします。
反芻思考の対処法
反芻思考は、特定の考えや感情に囚われると、ストレスや不安を増幅させることがあります。ここでは、反芻思考を軽減し、心を整えるための具体的な対処法をご紹介します。
運動を楽しむ
適度な運動は、反芻思考を減少させる効果があります(※4)。例えば、ウォーキングやジョギング、ヨガなど、自分が楽しめる運動を日常生活に取り入れると、気分転換になるため、ネガティブな思考から意識を逸らすことができます。
自然の中で過ごす
自然環境で過ごすことは、心のリフレッシュに役立ちます。公園を散歩したり、森林浴を楽しむと幸福感を得られるため、反芻思考によるストレスや気分の落ち込みの影響を軽減できるでしょう。
ある研究によると、週120分以上の自然との接触が、健康や高い幸福度と有意に関連することがわかりました。年齢や性別、健康状態に関係なく、1度に長時間で自然と接触しても、複数回に分けて短時間の接触をしても、同様の効果が得られたとのことです(※5)。
見方を変える
過去の出来事を思い悩んでも、過去自体を変えることはできません。しかし、過去の出来事に対する捉え方を変えることは可能です。過去の自分はその時点で最善を尽くしたと認め、自己否定をやめることから始めましょう。
他にも、「自分にできることは何か?」と行動に目を向けることで、前向きな考え方に切り替えやすくなり、反芻思考を抑えられます。
「考えないようにしよう」と思わない
「このことを考えたくない」と意識すると、反芻思考は強まる傾向があります。無理に考えを抑え込むのではなく、意識的に気持ちを別のことに向けるようにしましょう。
たとえば趣味に没頭したり、何も考えずに体を動かしたりすることで、意識せずとも反芻思考から離れられます。
思考をアウトプットする
頭の中で繰り返されるネガティブな思考を紙に書き出すと、客観的に自分の考えを整理できます。他にも信頼している人に話すのも効果的です。
厚生労働省が労働者に向けて調査した結果によると、ストレスになる出来事について相談する相手として最も多かった人が家族や友人で、次いで上司や同僚でした(※6)。
仕事について悩んで反芻思考が止まらない場合、まずは、これらの中に相談相手がいないかどうか確認してみるとよいでしょう。他にも産業医や保健師、地域のかかりつけ医など、専門家に頼る方法もあります。
悩みを抱えたときに備え、思考をアプトプットできる相談相手を見つけておくと、反芻思考の悩みにすぐに対処できます。
変えられないことを見極める
変えられない事実を見極め、それを受け入れられるようになると、反芻思考から抜け出すことができます。変えられないことを見極めるには、前項のアウトプットが役に立ちます。自分が直面している問題や課題をリストアップして、変えられないことと変えられることを区別してみましょう。
変えられないことを見極めたら、まずは変えられることについては解決できるように行動します。変えられないことについては、受け入れることで心の平静を保てます。
うまくいったことを思い出す
反芻思考に囚われがちなときは、過去の成功体験や、自分が達成したことを思い返してみましょう。「自分にもできる」という自己肯定感が高まるため、前向きな気持ちが湧き上がり、気分が和らぎます。
3ステップで実践!反芻思考の止め方
先ほど紹介した対処法を試しても、反芻思考があまり解決しないこともあります。しかし反芻思考は自分をネガティブな気持ちにさせてしまうものなので、できればすぐに止めたいと思いますよね。
そこでアメリカのプリンストン大学のアイリーン・ケネディ・ムーア博士が考案した方法を試してはいかがでしょうか?反芻思考の止め方について、次の3ステップに分けて紹介されているので、ぜひ参考にしてください(※7)。
①自分が反芻思考をしやすいタイミングを知る
②反芻思考から離れ、別の行動をとる
③解決志向を意識する
①自分が反芻思考をしやすいタイミングを知る
まずは自分が反芻思考をしやすいタイミングを把握しましょう。多くの場合、反芻思考が活発化しやすい時間帯や状況は決まっています。そのため、自分がぐるぐる思考をはじめたときのことを振り返ると、反芻思考が起きるタイミングを把握でき、対策を立てるのに役立ちます。
例えば、次のようなタイミングで自分の思考に意識を向けて、反芻思考を起こしていないかどうかチェックしてみましょう。
・入浴中
・食事中
・ベッドでゴロゴロしているとき
・通勤中
・家事の最中
反芻思考をしていることに気づいたら、次にそのぐるぐる思考から離れるようにしてみましょう。
②反芻思考から離れ、別の行動をとる
ぐるぐる思考が生じている時に、考えないようにするのは難しいものです。そこで、考えないようにするのではなく、他のことを考えたり、別の行動をとってみたりすることをおすすめします。例えば、次のような行動をとるとよいでしょう。
・ヨガや筋トレなどの運動をする
・友達とおしゃべりをする
・パズルやゲームで遊ぶ
・映画を観たり、音楽を聞いたりする
運動や趣味など、ぐるぐる思考を忘れて集中できることを探してみてください。
③解決思考を意識する
一旦ぐるぐる思考から離れたら、問題の解決につながる思考(リフレクション)ができるように努めましょう。
リフレクションのコツは「なぜ?どうして」と漠然とした原因を考えるのではなく、より具体的で実現可能な問いかけをすることです。例えば、以下の質問が効果的です。
・解決するために私にできることは何だろう?
・少しでもよくするために何ができるだろう?
・第一歩としてできることは何だろう?
・次回はもっと違ったやり方で何ができるだろう?
・このことから何が学べるだろう?
また、自分ではどうしても問題解決が難しいと感じたら「誰だったら問題解決を手助けしてくれるだろうか?」と考えてみると良いといわれています。
他にも、心理学のアプローチを取り入れてみるのもおすすめです。次項で解説するので、ぜひ実践してみてください。
反芻思考の治療法
反芻思考の代表的な治療法として、次の2つが挙げられます。
・認知行動療法
・マインドフルネス
それぞれについて詳しく解説するので、参考にしてください。
認知行動療法
認知行動療法とは、日常生活上で起きているさまざまな困りごとを整理し、認知や行動に働きかけることで問題解決を目指す心理療法です。
認知行動療法では、漠然と頭に思い浮かぶ反芻思考に名前をつけたり、紙に書き出したりしてぐるぐる思考の改善を目指します。これは専門用語で「外在化」と呼ばれ、思考を客観視するために役立ちます。
または、ABC理論やコラム法を通じて、頭に浮かんでくる嫌な考えやイメージを変えるワークを行うこともあります。
マインドフルネス
マインドフルネスとは、今この瞬間に起きている目の前の出来事や感覚に意識を向ける心の状態を指します。マインドフルネスを実践すると、反芻思考の原因となるデフォルトモードネットワークを止める効果が期待できます。
意識を向ける感覚について具体例を挙げると次のとおりです。
・呼吸の際に鼻を空気が通る感覚
・歩くときに足が接地する際の足裏の感覚
・食事を口に運んだ時の食材の舌触りや臭い
マインドフルネスを実践する際は、はじめに自分の感覚に意識を集中させます。集中している途中で、過去の出来事や将来のイメージなど自分の感覚とは別の思考が生じることがあります。それは、意識が「今、この瞬間」から反れた状態です。
意識が今の状態から反れたら、再び意識を自分の感覚に戻すように努めます。マインドフルネスは反芻思考を止めるトレーニングになるので、ぜひ実践してみてください。
反芻思考が止まらない場合は精神疾患に注意
反芻思考で気分が落ち込んだ状態を放置すると、精神疾患になるケースもあるため注意が必要です。もしくは、すでにうつ病などの精神疾患を患っている場合は、自力で反芻思考を改善することが難しい場合もあります。
反芻思考の止め方をいろいろと試しても改善されない場合は、心療内科や精神科などの医療機関に相談することをおすすめします。
反芻思考を止めて充実した毎日を過ごそう
反芻思考とは、ネガティブな気分や状況に陥った原因や、意味についてぐるぐると考え続けることです。
反芻思考には問題解決につながる「リフレクション」と、過去の嫌な出来事を繰り返し思い出す「ブルーディング」の2タイプがあります。
対処方法として、本記事で紹介した3ステップの方法や認知行動療法、マインドフルネスが有効といわれています。認知行動療法やマインドフルネスはセルフケアとして実践できますので、まずは自分で実践してみてはいかがでしょうか。
ただし、反芻思考による気分の落ち込みが長期にわたり続くと、精神疾患につながることもあるため注意が必要です。またぐるぐる思考から抜け出せずに気分の落ち込みが続く場合は、すでに精神疾患を患っている可能性もあります。症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。
本記事が、ぐるぐる思考から抜け出し自分らしく過ごすための一助となれば幸いです。
※この記事はAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」と連携しています
<参考文献>
※1 治療と職業生活の両立におけるストレスマネジメントに関する研究(pp.57-58)厚生労働省
※2 S.ノーレン=ホークセマ(2004)『考えすぎる女たち』ソニー・ミュージックソリューションズ
※3 Rumination as a Transdiagnostic Phenomenon in the 21st Century: The Flow Model of Rumination
※5 【健康】自然の中で過ごすことが健康と幸福感の向上につながる|nature asia
※6 令和2年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況|厚生労働省
※7 「How to Step Overthinking Things」Eileen Kennnedy-MooreE,PhD
※8 反すうが自動思考と抑うつに与える影響 |比治山大学 西川 大志
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