過緊張とは?症状や原因、治し方を臨床心理士が解説!【仕事で心が休まらない方へ】

過緊張とは?症状や原因、治し方を臨床心理士が解説!【仕事で心が休まらない方へ】
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過緊張とは、ストレスなどによって自律神経のバランスが崩れ、心身がリラックスしにくくなる状態のこと。過緊張が続くと、不眠や頭痛などの症状につながりやすく、日常生活に影響を及ぼします。過緊張を和らげたい場合は、正しい知識と対処するためのスキルを学ぶことが大切です。今回は、公認心理師による監修のもと、過緊張の原因やメカニズム、対処法として効果的なリラクセーション法をご紹介します。

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過緊張とは?

過緊張とは、自律神経のひとつである交感神経の働きが活発になり、過剰な緊張が続いている状態です。

この状態になると、不眠や肩こりなどの身体症状や、イライラや不安などの精神的変化を招きやすくなります。

また、緊張状態が長期間続くと、大事な場面で能力を十分に発揮できず、失敗することも(※1)。その結果、仕事で本来の能力を発揮できなくなるケースも見られます。

緊張を克服できなかった経験が、さらなる不安を引き起こし、うつ状態につながることもあるのです。

過緊張による症状

次に、過緊張によってもたらされる症状をみてみましょう。

過緊張になると心拍や血圧が上昇し、次のような症状があらわれます(※2)。

・動悸、息切れ
・頭痛、肩こり
・食欲低下、便秘、下痢
・不眠、寝つきの悪さ
・集中力の低下、イライラ
・疲労感
・憂うつな感情

以上のように過緊張になると、体調を崩すだけでなく、メンタル面にも変化があらわれます。

思い通りにいかないことに対するイライラや、そわそわして落ち着かない状態が長く続き、焦燥感が強くなるのも特徴です。

過緊張が続くことで起こる病気

過緊張により、常に緊張状態が続くと、次のような病気に見舞われる可能性があります。

・過緊張性発声障害
・過換気症候群
・胃潰瘍

それぞれの病気について詳しく解説します。

過緊張性発声障害

過緊張性発声障害とは、舌や喉の過度な緊張により声がつまって起こる障害です。舌や喉の筋肉に力が入り過ぎて声帯が締まり、声が出しにくくなったり、ガラガラしたりします。

過緊張性発声障害が起こる原因は、呼吸コントロールの未熟さや誤った発声法、ストレスなどのさまざまです。手術や薬では直せないため、言語聴覚士による音声治療で改善を目指します。(※7)

過換気症候群

過換気症候群とは、不安や極度の緊張などが原因で過呼吸になり、血液がアルカリ性に傾くことでさまざまな症状が引き起こされることです。この症状に見舞われやすい人は、神経質だったり、不安症の傾向にあったりします。また、緊張しやすい人にも起きやすいとされています。(※8)

胃潰瘍

胃潰瘍とは胃酸の過剰分泌や胃粘液の分泌量の減少が原因で、胃を傷つけて胃炎を起こした状態です。本来であれば、胃粘液が胃粘膜を保護する役割がありますが、胃潰瘍になると胃粘液が胃酸から胃粘膜を守れなくなります。

ストレスにより過度に緊張した状態が続くと、胃潰瘍になることがあります。急に強いストレスがかかった場合は、急性胃潰瘍になることもあるため注意が必要です。(※9)

緊張が起こる仕組み

過緊張は、ストレスや脳の働きが複雑にからみあって引き起こされると考えられており、その仕組みは、心理学で説明できます。詳しくみていきましょう。

過緊張の原因

過緊張の最もよくある原因のひとつが心理学では、ストレスを「ストレッサー」と「ストレス反応」に分類してとらえています。

「ストレッサー」とは、ストレスを引き起こす刺激のことです。

たとえば、次のようなストレッサーが考えられます。

・気象や騒音などの物理的ストレッサー
・病気や睡眠不足などの生理的ストレッサー
・仕事や人間関係といった社会的ストレッサー
・有害物質や薬物などの化学的ストレッサー

なかでも、人間がとくに感じやすいのは社会的ストレッサー。昇進や結婚などのポジティブな出来事も、場合によってはストレスにつながります。

ストレスを受けると、気分が落ち込んで頭が痛くなったり、イライラして顔が真っ赤になったりと、ストレッサーに対しさまざまな反応をします。これが「ストレス反応」です。

各ストレッサーに対するストレス反応の現れ方には、個人差があります。つまり、同じストレッサーであっても、ストレスを強く感じる人もいれば、まったく感じない人もいるのです。

このような違いを生み出す原因には、ストレッサーに対する認知に個人差のあることが深く関わっています。そのため、ストレッサーに対する自分の認知(受け止め方)を変えると、過緊張を克服できる可能性があります。

なお、自分の認知を変えて、ストレスに対処することをストレスコーピングと呼びます。

過緊張と関わりの深い「扁桃体」

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過緊張には、脳内にある扁桃体という部分が深く関わっています。扁桃体は、目や耳などの五感から入った情報が最初に届き、わたしたちを危険から守る働きをする部位です。

「情動の発生機」とも呼ばれる扁桃体は緊張や不安、恐怖などのネガティブな感情を敏感に察知します。

五感からの情報は扁桃体で危険なのかどうか判断され、その後の行動に影響を与えます。

たとえば、上司に怒られて嫌な気分になった場合を考えてみましょう。

危険を感じとった扁桃体は「身体を守って!」という指令を大脳の視床下部に送ります。

視床下部は交感神経の働きを活発にし、心拍や血圧を上げることで、私たちの身体をストレスから守ろうとします。嫌な気分になったとき、身体の震えが止まらなかったり、顔が真っ赤になったりするのは、扁桃体による体の防御機能が発動した結果といえます。

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一方で、扁桃体の働きにブレーキをかける役割をはたすのが、大脳の前頭葉です。扁桃体が「動物的な本能」であるのに対し、前頭葉は「理性」をつかさどります。

前頭葉の役割は、過去の記憶や経験をもとに、入ってきた情報が本当に危険なのかを判断し、扁桃体の活動を抑えることです。

しかし、ストレスの強さによっては、前頭葉が抑え込めないくらいに扁桃体が暴走します。

このようなケースでは、常に神経が高ぶった状態となり、それが過緊張を引き起こし、心身の疲労につながるのです。

緊張と身体の関係

緊張が起こる仕組みを理解するためには、緊張と身体の関係も知っておく必要があります。

人前でのスピーチや大事な試験を受けるときは、緊張して胸がドキドキしたり、手に汗をかいたりする経験は誰もが持っているでしょう。

このように、緊張する気持ちと、身体の反応には深い関係があります。

胸のドキドキ感や手汗などの身体の反応を作りだしているのは、自律神経と呼ばれる器官のはたらきです。

では、自律神経のメカニズムとはどのようなものなのでしょうか。

実は、人間の内臓の働きや代謝などは、交感神経と副交感神経の2種類の自律神経によってコントロールされています(※3)。

交感神経は、心拍数や血圧を上げて、身体を「活動モード」に切り替える際に働く自律神経です。主に、運動や仕事など、日中の活動している時間帯に活発になり、ストレスに立ち向かう際にも働きます。

一方で、副交感神経は体を「休息モード」にするために働き、心拍数や血圧を下げて心身をリラックスさせます。入浴中や就寝前など、身体をゆっくり休めるときに働く神経です。

この2つの神経の関係は、いわゆるアクセルとブレーキ。周りの状況に応じて、どちらかが優位になり、身体の働きを調節します。

たとえば、大事なスピーチの前に動悸が激しくなるのは、交感神経が優位になって、身体が「活動モード」に切り替わった証拠です。交感神経の働きによって心拍や脈拍が上がり、ストレスに立ち向かうパワーを作りだしているのです。

無事にストレスを乗り越えた後は、夜になるにしたがって副交感神経が優位になり、休息できる状態になります。これが人間に元来備わっている、自律神経のバランス機能なのです。

しかし、強いストレスに長くさらされると、交感神経のアクセルが暴走してしまい「活動モード」が継続します。

その結果、交感神経から副交感神経への切り替えがうまくできず、頭痛や不眠、イライラをはじめとした心身のあらゆる不調につながるのです。

このような過緊張を和らげるためには、軽い運動やリフレッシュによって、副交感神経の活動を活発にすることが大切です。

心身相関

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過緊張状態から抜け出すヒントのひとつが、心身相関の考え方です。

心身相関とは、「こころが生まれる場である脳と、身体が相互に影響し合うこと」です(※4)。

たとえば、次のような経験をした人も多いのではないでしょうか。

・軽いストレッチをしたら気分がスッキリした
・プレゼンテーションの前に深呼吸をしたら緊張しなかった
・人と話したり笑ったりするとだんだん緊張が解けた

以上は心身相関によってもたらされる現象で、身体の動きが心の状態に影響を与えた結果起こります。

このように、心身相関の考え方を応用して過緊張をコントロールできるケースがある一方で、意識して落ち着くように努めても、逆に興奮してリラックスできないこともあります。

このような過緊張は、大事なスピーチや試験などの交感神経が優位にある場面で見られる現象です。

落ち着こうと意識するほど、かえって緊張して、失敗につながるケースもみられます。

このような心身相関の罠に陥らないためには、交感神経の高ぶりをおさえ、意識的に副交感神経を優位にするスキルが必要です(※5)。

どんなことをしたら不安や緊張が和らぐのか、「心と身体のつながり」を普段から意識しておくのもよいですね。

リラクセーション法を使った過緊張の和らげ方3選

ここまで、過緊張が起きる仕組みについて説明してきました。過緊張から抜け出すためには、ストレスを和らげたり、副交感神経の働きを活発にしたりすることが大切です。

ここでは副交感神経をダイレクトに刺激し、緊張状態を和らげるリラクセーション法を紹介します。過緊張をほぐす方法を学んで、心地よいリラックス状態を作れるようになりましょう。

漸進的筋弛緩法

漸進的筋弛緩法は、神経生理学者のエドモンド・ジェイコブソンが開発したリラクセーション法です(※6)。

筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行い、副交感神経を優位にして、心身をリラックス状態に導きます。

過度に緊張しているときは、知らず知らずのうちに筋肉がこわばってしまうものです。

まずは、基本動作を覚えて、全身の力を上手に抜けるようになりましょう。

①各部位の筋肉に10秒間ほど力を入れて緊張させる。
②緊張をゆるめたら、15〜20秒間ほど脱力する。
③両手、両腕、背中、肩、首、顔、腹部、足の下側、足の上側の各部位に対して行う。

以上を1日に2〜3回、3〜5分程度の練習を継続するとよいでしょう。

脱力することを過度に意識すると、逆に力が入ってしまうこともあります。最初は上手にできなくても大丈夫です。脱力したときの感覚を大切にしましょう。

漸進的筋弛緩法が終わったあとは、深いリラックス状態から身体を覚ますために、次のような消去動作を行ってください。

①手のひらを握って開くことを5回程度行う。
②こぶしを握り、ひじを胸の方に曲げ伸ばしするのを5回程度行う。
③両手を組み、息を吸いながら天井に向かって2回ほど大きく伸びをする。
④息を吐いて、脱力したら終了。

呼吸法

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呼吸法は、息を吸ったり吐いたりして、身体の緊張緩和や心拍の安定化を図るリラクセーション法です。

呼吸法のなかでも腹式呼吸は簡単にできるため、慣れない人でも取り組みやすいでしょう。腹式呼吸には、心拍をおだやかにし、リラックス効果を高める作用があります。

次の手順で、腹式呼吸法によるリラクセーションを練習しましょう。

①あごを軽く引き、背骨を自然に伸ばした状態にして、楽な姿勢をとる。
②両手を下腹部のあたりにそっと置く。
③身体の力を抜き、おなかを前後左右にふくらませながら、鼻から息を吸う。
④おなかをしぼませながら、口から息を吐き出す。
⑤まずは3回呼吸を行い、慣れてきたら回数を増やす。

呼吸法では、息を吐くことでリラックス感を得られます。緊張や不安を息とともに外に出すイメージで行うと高い効果が期待できます。

自律訓練法

自律訓練法はドイツの精神科医シュルツ氏が考案した、集中や自己暗示によって心身をリラックスさせるリラクセーション法です(※6)。

「公式」と呼ばれる言葉を繰り返し唱えて、自分に暗示をかけ身体の緊張をほぐし、疲労回復やストレスの緩和を図ります。

1日10分程度の練習で深いリラックス効果を得られるため、心療内科などで使われる代表的な心理療法の1つです。

自律訓練法は、全体的な安静をもたらす「背景公式」と、身体の内側から状態を安定させる「第1~第6の公式」からなる「標準練習」が基本。その後、必要に応じて特殊練習や黙想練習を取り入れます。

まずは、背景公式と第1公式、第2公式を心の中で唱えてみましょう。

①静かな環境で、楽な姿勢をとる。
②背景公式「気持ちが落ち着いている」を、心の中で静かに繰り返す。
③身体がゆるんできたら、第1公式「両腕・両脚が重たい」を実践する。
④全身の力を抜き「右腕が重たい」を心の中で繰り返す。
⑤重く感じたら、左腕、両腕、右脚、左脚、両脚の順で暗示をかける。
⑥第1公式と同じように、第2公式「両腕・両脚が温かい」を実践する。
⑦漸進的筋弛緩法と同じように、消去動作を忘れずに行う。

このように、決められた公式を段階的に心の中で繰り返すことによって、半分眠っているような深い自己催眠状態に入ります。

「重く感じなくては」と焦って取り組むと逆効果です。わずかでもゆるんだ感覚がつかめれば大丈夫。少しずつ慣れていきましょう。

おわりに

本記事では、過緊張が起こる仕組みから、具体的な対処法までを解説しました。

過緊張は、ストレスによって脳や自律神経のバランスが崩れ、心身が常に「活動モード」になることで起こります。この状態を改善する鍵は、意識的に副交感神経を働かせ、心身を「休息モード」に切り替えることです。

そのための有効なセルフケアとして、3つのリラクセーション法をご紹介しました。

過緊張の仕組みを正しく理解し、ご自身に合った方法を生活に取り入れることで、過度な緊張を和らげていきましょう。

※この記事はAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」と連携しています

<参考文献>

(※1)(※5) 坂入洋右(2011).「心身の過緊張に有効なカウンセリング技法」『バイオメカニズム学会誌』35(3),181

(※2) 「自律神経と心臓の関係」(名古屋ハートセンター)

(※3) 「ストレスとは」(厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト)

(※4) 鈴木はる江(2008).「感覚と情動から心身相関を考える」『心身健康科学』5(1),8

(※5)(※6) 丹野義彦ほか『臨床心理学』有斐閣,2018年,P250 

(※7) 【Dr.ブログ】のどに力が入りすぎると声がうまく出ません。過緊張性発声障害は、音声治療で解決しましょう。(朴澤耳鼻咽喉科)

(※8)  過換気症候群(一般社団法人 日本呼吸器学会)

(※9)  ストレスと胃痛について(ゆたか倶楽部)

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