自分の能力を信じることができる「自己効力感」の高め方を専門家に聞いた【インタビュー】

 自分の能力を信じることができる「自己効力感」の高め方を専門家に聞いた【インタビュー】
GettyImages

自分の存在に自信を持てる「自己肯定感」、自分の能力を信じることのできる「自己効力感」。2つには密接な関連があり、自己肯定感という土台の上に、自己効力感があります。自己効力感が高いと、失敗や困難に対処しやすくなったり、対人関係が円滑に構築できたり、柔軟な対応力が身についたりします。一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会代表理事で、『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の著者でもある、工藤紀子さんに、自己効力感の高め方について、話を伺いました。

広告

自分の成功体験を振り返ってみる

——自己効力感はどうやって高められるのでしょうか?

最初に取り組んでいただきたいこととして、これまでの人生での成功体験や、よくがんばったと思えるものが、きっといくつかあるはずなので、子どもの頃から今に至るまでどんな小さなことでもいいので、思い出して書き留めることが効果的です。色々な成功体験のある人でも、自分のものとして落とし込んでいないと自己効力感になりにくいので、改めて認識することが重要です。

続いて、実際に小さな成功体験も積み上げていく方法があります。たとえば、「早起きしたい」と思ったとき、いきなりいつもより1時間早起きするのはハードルが高いので、スモールステップとして、10分早く起きてみる。それができたなら、成功体験として自分を認めてあげます。そうやって小さな成功体験を積み重ねることで、だんだんと大きな挑戦をする自信も育むことができるのです。

自己効力感の低い人は、自分に厳しいことが多いため、高すぎるゴールを設定する傾向があるのですが、毎日無理なく続けられるよう、目標を設定してみてください。

——失敗に不寛容な社会では、自己効力感を育むことのハードルも高いと思うのですが、自分でできることにはどんなことがありますか?

自己効力感を高めるアプローチの一つに「言語的説得」というものがあります。家族や友人、職場の人など、周囲の人からの励ましの言葉を受けることで、自信が持てるようになり、自分の能力を信じられるようになるというものです。

言語的説得は他者から受けるだけでなく自分から自分に向ける方法もあります。厳しい状況にあるときでも、どんなときでも自分が一番の自分の味方でいてあげることで、自分の支えとなります。

自己効力感を高めやすい環境づくりのために

——お子さんや部下の自己効力感を高めやすい環境を作るためにはどんなことができるでしょうか?

まずは親御さんや上司自身の自己肯定感の土台があることが必要です。自分のことを受容・承認できていない中で、他者を受容・承認することはできないので。

そのうえで、存在を受け入れてあげることが非常に重要だと思います。もちろん、自己肯定感を育むうえでも重要ですが、「ここではどんなことを言っても、ちゃんと聞いてもらえる」という、心理的安全性が確保されているからこそ、安心して挑戦もできるのです。

存在の承認についての具体的な行動としては、ちゃんと挨拶をするとか、名前を呼んであげるとか、目を見て話を聞くとか、そういう基本的な働きかけがポイントになってきます。

「ここにいて大丈夫なんだ」という感覚が持てることで、相手への信頼度も高まり、信頼関係が築かれます。そういった環境を整えていくことで、自己肯定感を育みながら、自己効力感を高めやすい空間を作ることができるのです。

——安心して本音を打ち明けられる環境を整えることは、チームとしてどんなメリットがありますか?

色々な企業で研修をさせていただく中で、2、3年の離職率が高いという話を伺います。ただ厳しく、コミュニケーションを取りにくい環境ですと、転職されてしまう可能性は高まるでしょう。

相手を理解しようとする気持ちが上司側にあると、職場で良質なコミュニケーションが取れますし、エンゲージメント(従業員満足度)も高まるというデータもあります。

上司のように、その空間でパワーを持つ人がどういう状態でいるかは、その空間の雰囲気に与える影響が大きいですよね。穏やかな空気が漂い、安心していられるのでしたら、パフォーマンスは上がります。「この会社にいて良かった」「ここで貢献できることが嬉しい」と部下が思いながら働ける環境でしたら、上司のエンゲージメントにも繋がっていくと思います。

自分の可能性を信じられるようになって

——今まで研修などで出会った方の中で、自己効力感が高まった印象的なエピソードはありますでしょうか?

以前、女性向けのエンパワーメントの講座にて、自己肯定感と自己効力感を高めるプログラムを担当していたことがあります。

その中で出会った、独自性のある魅力的な絵を描く方がいらっしゃって、ご自分では「趣味の範囲ですから」とおっしゃっていたものの、周囲から見たら本当に素敵で「展覧会ができたらいいですね」なんてお話していたんです。

最初はその方も自己肯定感も自己効力感も低かったのですが、数か月かけてトレーニングをし、卒業する頃には、会社を辞めて、アーティストとして一歩を踏み出されていました。

こうやって、自分で自分の可能性を信じることによって、新しい面を開花させていく姿を何人も見てきました。

——「自分なんかダメだから」と挑戦しなければ状況は変わらないですが、新しいことをやってみることで、変化が訪れるかもしれないのですね。

ほかにもヨガが大好きな方で、相当長く続けていて、人に教えられるくらいの方だったのですが、「自信がない」とおっしゃっていて。その方も自己肯定感と自己効力感のトレーニングを行い、その後海外のヨガ教室でインストラクターになる勉強をし、帰国後、素敵な教室を開いていました。その方も自分の可能性を信じられるようになって、挑戦できたのだと思います。

——挑戦する際に「失敗が怖い」という気持ちとどう向き合っていけばいいのでしょうか。

私の場合は、最悪の場合を想定し、リスクマネジメントをしています。「失敗したらどうしよう」と考えたとき、いくつか対処法がありますよね。その対処法を書きだしておくことで、「失敗してもこうすればいい」と、不安に対して冷静に分析ができます。

また、失敗をどう捉えるかという「リフレーミング」も重要です。「こうすると上手くいかないことがわかった」とか「全体的に見たら失敗だけれども、ここは上手くできた」など、失敗を成功の糧にする視点も持つようにしています。

そもそも挑戦に後ろ向きになっている場合、自己効力感の下にある自己肯定感の土台が揺らいでいる可能性もありますので、土台を安定させるためにも、自己肯定感に向き合っていただくことも有効だと思います。

 

『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)
『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)

【プロフィール】
工藤紀子(くどう・のりこ)

外資系企業に勤務しながら、「自己肯定感(セルフエスティーム)の向上」について研究し、誰でも自己肯定感が高まる独自のメソッドを確立。
2013年に一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立し、代表理事を務める。多くの上場企業や、全国の中学・高等学校、行政機関でも研修や講演を行っている。
著書に『そのままの自分を受け入れて 人生を最高に幸せにしたいあなたへの 33の贈り物』(三恵社)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)などがある。

広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)