「私には物事を成功する力がある」と信じられる「自己効力感」。自己肯定感との違いは?【専門家解説】

 「私には物事を成功する力がある」と信じられる「自己効力感」。自己肯定感との違いは?【専門家解説】
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「私には物事を成し遂げる力がある」——こうして自分の能力を信じられることを「自己効力感」といいます。変化の大きな現代において、自己効力感が高いことで、さまざまな困難に向き合うことも可能になります。一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会代表理事で、『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の著者でもある、工藤紀子さんに詳しくお話を伺いました。

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自己肯定感という土台の上に、自己効力感

——自己効力感とはどのようなものでしょうか。

自己効力感とは、「自分ならできる」「自分がやることはうまくいく」といった、自分のスキルや能力の可能性を信じられることです。「自信」と似ていますが、自己効力感は明確な根拠のある自信といったイメージです。

——自己効力感と自己肯定感にはどんな関連がありますか?

自己効力感の土台にあるのが自己肯定感です。自己肯定感とは、「何かができるから」など条件によらない、自分の存在そのものへの自信です。

自信には「Beの自信」と「Doの自信」の2種類があります。「Beの自信」とは、能力や成果などは関係なく、自分の存在そのものを受け入れることによって生じるもの。自己肯定感と密接に結びついています。自己承認や自己受容をしていくことによって、土台である「Beの自信」は育まれていきます。

「Doの自信」とは、自己効力感と関連の高い、「自分は成功できる」といった能力への自信です。「Doの自信」は他者からの評価や数値的な結果など、外的な要因に影響を受けやすいという特徴があります。

——自己肯定感が低いまま、自己効力感を高めていくことは可能でしょうか?

「自己肯定感」という土台がなければ、「自己効力感」を積み上げていくのは難しいです。「Doの自信」の根拠となっている、成果・能力・結果は変動するものです。自分より高い成果を出した人がいたり、調子が悪くて結果を出し続けられなかったりもします。

そうすると、「Doの自信」の根拠はなくなってしまい、自己効力感を発揮できなくなってしまうのです。

「何があっても自分は自分であって大丈夫」という自分の存在への自信がないと、「Doの自信」だけで自分を支えていたとき、非常にもろくなってしまう。ですので、自己効力感を持つためには、自己肯定感という土台は欠かせないものです。

自己効力感が高い人・低い人

——自己効力感が高い人にはどんな特徴がありますか?

自己効力感が高い人とは、どんなことがあっても前向きに物事が捉えられたり、内発的な動機(評価や成果などの外的要因ではなく、自分の関心など内側から湧くもの)で自分のモチベーションを高められます。

また、失敗や困難に直面しても、現状を認識しながら「この状況下で自分にできることは何だろう」と前向きに捉え、進んでいけることも特徴です。自己決定力が高かったり、自分の行動を適切にコントロールできたりする面もあります。

——あらゆる分野で自己効力感は役立つのですね。

そうですね。たとえば対人関係においても、全く知らない人の中でも、「自分は受け入れてもらえる」「この人たちとうまくやっていけそう」といったふうにコミュニケーションを取れるので、人間関係が構築しやすかったり、相手に受け入れてもらいやすくなったりします。

——反対に自己効力感が低い人にはどんな特徴がありますか?

自己効力感が低い人は、自分の可能性を信じられないので、新しいことへの挑戦への恐怖心が大きくなり、消極的になったり、失敗を恐れがちになったりもします。

また、内発的な動機が低い傾向にあります。そのため、外発的にモチベーションを高めていかないと、物事に取り組めないケースも珍しくありません。外発的な動機は、不安や焦りによって「やらなければ」という気持ちになるため、内発的な動機に比べ「やらされ感」も高くなります。

自己効力感が低い人は、たいていは自己肯定感も低く、自分に厳しかったり真面目な方も多いです。繊細さ、謙遜しがちな面、慎重である部分もあると思います。

人間関係においても仕事においても、あらゆることにおいて、変化が大きい時代です。自己効力感が低いと、変化への柔軟な対応が難しくなってしまいます。自己効力感を高めていけると、生きづらさを感じにくくなることが期待できます。

日本人が自己効力感を持ちにくい理由

——本書には日本人は自己効力感を持ちにくい傾向があることが書かれています。どういう理由があるのでしょうか?

文化的背景でいうと、謙遜を重んじる文化がありますので、「私はこれができます」と主張しにくい側面があります。

ただ、一番大きいのは、失敗を許容しない文化があることだと思います。失敗が許されない空気があると、どうしてもチャレンジしようという感覚を持ちにくいですし、挑戦する機会が少なければ、「自分ならできる」という感覚を積み重ねることも難しい。失敗に厳しいため、周りで挑戦を肯定的に応援してくれる人も、海外と比べると少ないかもしれません。

「みんな一緒」であることが評価されやすく、何か特別な挑戦をしようとすると、応援するよりも足を引っ張るような空気があることも影響していると思います。

——教育においても、みんなと違うことをすると叱られることが多いように思います。

少しずつ変わってきてはいるとは思うものの、一人ひとりの好きなことや得意なことを伸ばしていく教育はまだまだですので、人と違うことに興味を持ったり打ち込んだりして成功体験を持つことのハードルが高い環境でもあると思います。

子育てでも、愛情を持って接しているものの、親から子どもへの働きかけがうまくできていないという指摘もあります。たとえば、「偏差値の高い学校へ進学して、大企業に就職をすれば将来安泰だから」など、子どもを大切に思っているがゆえの言動でも、親の価値観を押しつけてしまうと、子どもの意欲や自主性、自己決定力を阻んでしまう恐れがあるのです。子どもが自分の選択を信じられない環境で育つことは、自己肯定感や自己効力感にも影響があると考えています。

※後編に続きます。

『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)
『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)


【プロフィール】
工藤紀子(くどう・のりこ)

外資系企業に勤務しながら、「自己肯定感(セルフエスティーム)の向上」について研究し、誰でも自己肯定感が高まる独自のメソッドを確立。
2013年に一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立し、代表理事を務める。多くの上場企業や、全国の中学・高等学校、行政機関でも研修や講演を行っている。
著書に『そのままの自分を受け入れて 人生を最高に幸せにしたいあなたへの 33の贈り物』(三恵社)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)などがある。

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『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)