「男性主体の性」への疑問から生まれた「セクシャルウェルネスブランド」創始者が語る、女性の性の課題

 THE NEW CHAPTERより
THE NEW CHAPTERより

以前、ヨガジャーナルオンラインにてルッキズムやパートナーとのジェンダー観のすり合わせに関してインタビュー取材をおこなった、スタイリストの小泉茜さんがセクシャルウェルネスブランド「THE NEW CHAPTER」を立ち上げました。プロダクトはコンドームとローションの2つ。小泉さんがお持ちの性に関する課題意識や、プロダクトへの思いについて伺いました。

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セックスに応じないなら浮気されても仕方ない!?友人の衝撃の言葉

——なぜセクシャルウェルネスブランドを立ち上げようと思ったのでしょうか?

ここ数年で女性の性に関することが徐々にオープンにはなってきていると思うものの、依然として性=男性主体というイメージや、男性の性欲を満たす存在だという潜在意識があると感じていて、それらを変えたいと思ったからです。

というのも、友人と飲んでいたときに「気分じゃないときは、彼からの誘いを断っている」という話をしたところ、「ありえない。浮気されても何も文句を言えない」「男性は性欲が強いものだし、女性は愛されるために応える必要がある」と言われて。そんな考えはなかったのでびっくりしました。

でもなぜ友人がそう思ったのかを考えると、アダルトコンテンツもプロダクトも男性向けのものが多くて、アダルトコンテンツでは男性が女性を襲ったり、リードしたりと男性主体のことが多い。女性に性欲がないことにされている場面が多いからですよね。

5年以上前ですが、セルフプレジャーグッズを女友達同士でプレゼントすることになって、一緒にアダルトグッズ専門店に行ったのですが、お店の人に「冷やかしなら帰れよ」と言われたこともありました。

もし女性も性に主体性を持つことを応援するTHE NEW CHAPTERのアイテムが、セレクトショップなどファッショナブルな場所にあるのを日頃から目にしていたなら、世の中の感覚も変わるのではないかという希望的観測も込めて立ち上げました。若い女性が友人のように思い込まなくていい社会にもしていきたいです。

——今でも、性に関して男性が主体であって、女性が客体(対象とされる側)という感覚が世間にあるように感じます。

確かにセックスについて「男性に付き合ってあげる」「演技をしてやり過ごしている」という話を女性から聞くことも少なくないです。でもそれは悲しいことだと思います。

女性にも性欲があるのにないものとされていることや、男性の性欲に応えるべきとされていることに抵抗感があります。反対に男性も性への関心が薄い人もいますし、必ずしも主導権を握りたいわけでもないですよね。ブランドを通じて、世の中の見方を変えていきたいと思います。

——「THE NEW CHAPTER」というブランド名に込めた意味についてお伺いしたいです。

今の社会では、性に関することだけでなく、既存の枠組みや暗黙のルールから出ようとする人を叩いたり揶揄したりする空気があると感じています。

新しい取り組みをする人を見て不安になるのだと思います。変化は恐怖心を伴うことでもありますからね。

でもそういった風潮に負けずに、未知の世界であっても自分を信じて挑戦してほしい。新しい章に踏み出す人を応援したいという思いを込めています。

THE NEW CHAPTERのコンドームのパッケージ
THE NEW CHAPTERより

女性も性に主体的であることを応援したい

——なぜコンドームとオーガニックルブリカントローションを販売することにしたのでしょうか?

コンドームについては、男性が体につけるものだから、男性が用意するものという認識が世間に存在していますよね。でも女性が自分の体を守るものでもある。女性が買いやすいデザインが少ないと感じたので、女性が手に取りやすいコンドームを作りたいと思いました。

ローションは男性が使うアダルトグッズのイメージが強いですが、性交痛のある人や加齢で濡れにくい人が使えば、セックスを心地良くし、安心できるものにできます。長い付き合いのカップルの気分転換にもなりますし、セルフプレジャーにも使えるので、もっとみんな使ったらいいのにと思っていました。私も個人的に色々なローションを購入して使っているのですが、成分が気になったり、海外製のものは甘い香りのものが多く、もう少しリラックス感のある香りのものが欲しいと思ったりしたので、自分で作ることにしました。

——プロダクトのこだわりをお話しいただけますか?

どちらも「セックスを男性を喜ばせるためのものだと思ってほしくない。女性に自分の心地良さをもっと追求してほしい」という思いが強かったので、「女性が買いやすいか」という視点を重視して制作しています。

コンドームは、部屋に置いても馴染むような布製のパッケージにしました。女性だけでなく、性別問わず手に取っていただけたら嬉しいです。

ローションも香水瓶のように見えるもので、インテリアとしても違和感のないデザインにしました。特に香りにはこだわって、何度も作り直しをしました。香りが良いとセックスだけでなく、セルフプレジャーなど、セルフケアとしても使いやすいと思ったからです。私が良いと思った香りでも、友人に試してもらったら好きじゃないこともあって。無香料にした方がいいかもしれないとも思ったのですが、自分の貯金を崩して始めたことですし、販売するときに心から良いと勧められることも大事なので、まずは自分が良いと思えるものを作ろうと思いました。結果的には好評をいただいています。なお、オーガニックや植物由来の成分を使っています。性交痛の軽減やセルフプレジャーだけでなく、デリケートゾーンのケアにも使えます。

——販売を始めてからの反響はいかがでしたか。

コンドームは男女問わず人気です。友人へのギフト用に、と購入してくださる方も多いです。

ローションはデリケートゾーン用のケアアイテムとして買ってくれる人が多かったです。ケアアイテムとして認知してもらい、そこからセクシャルウェルネスやフェミニズムなどを知るきっかけになったらいいなと思っております。

——今後、セクシャルウェルネスの領域で挑戦したいことはありますか。

寄付システムをわかりやすく作り、THE NEW CHAPTERを通じて、社会問題を知ることができる仕組みを作りたいです。本ブランドからメディアのように色々な社会課題を知ったり、女性の性に関してシェアできたりする場にしていければと思います。既にdonation systemを導入していて、決済時に上乗せしていただいた金額を代理で寄付しています。

THE NEW CHAPTERのオーガニックルブリカントローション
THE NEW CHAPTERより

ビジネスとサステナブルの両立の難しさに直面

——THE NEW CHAPTERは合同会社Seepとして運営を行っています。

ロゴデザインや写真撮影は外注しているものの、実態としては一人で運営しています。会社にした方が取引がしやすいと思い、立ち上げました。

2022年の秋頃に始動したのですが、当時はスタイリストとして関わる業界や社会に対して憤りが高まっている時期で、「やりたい」という気持ちが先行し、勢いだけで始めた部分もあります。販売を始めてからもう少しビジネスやマーケティングの勉強をしておくべきだったと反省している部分もあって……今も勉強中です。

——勉強してみてどんなことに気がつきましたか?

今の時代は物が溢れていて、言ってしまえばTHE NEW CHAPTERの商品がなくても明日を生きていける。そのうえで欲しいと思ってもらえるよう、良さをわかってもらうために、ブランディングの重要性を痛感しています。

ビジネスと社会的な正義の両者をバランス良く取ることの難しさも学んだことです。サステナブルな素材であることや、人権面を考慮しながらつくると、コストがかかって利益を出すのが難しいという現実に直面しました。

ローションに関しては、プラスチック容器を使いたくなかったのでガラス容器にしました。でもガラス容器にもデメリットはあって、100%の正解はなく、何を優先するかで決める必要があって。「本当のサステナブルな選択とは何か」という点で何度も壁にぶち当たりました。

極論ですが、環境問題の観点から考えるなら、作らないのが一番だとも思ったので、自分が作ることに意味があるのかという葛藤もありました。でも届けたい思いがある。それならせめて地球のゴミになるようなものは作らないようにしようと思いました。

——迷いがありつつも、ローンチしてみていかがでしたか?

ブランドを立ち上げたことによって、周囲の人がファムテックやフェミニズムに関する自分の考えや経験について話してくれることが増えたのはありがたく感じています。

2023年の11月にはSisterというアパレル店でポップアップショップを行いました。中には男性のパートナーと一緒に来てくださった方もいましたし、直接お客様とお話をして、私と同じ思いを持っている方がたくさんいることが見えて、大きな希望を持ちました。


※小泉茜さんのインタビュー記事はこちら
https://yogajournal.jp/17692
https://yogajournal.jp/17693


■HP
https://thenewchapter.net/

■Instagram:@__the.new.chapter__

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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