「仕事が頭から離れない人」へ。限界を迎える前に知ってほしい仕事の向き合い方とメンタルケア
ビジネスマンとして多忙を極めていた頃、無理が重なりうつ病と診断された経験を持つ、40代ヨガ講師・吉本憲太郎さんによる連載。ヨガに出合い、本来の自分を取り戻した経験から、心の痛みに寄り添える吉本さんの視点で、働く世代の心が軽くなる物の見方、考え方をアドバイス。実体験をもとに効果を感じた、体から心にアプローチする「お悩み解消ワーク」も紹介します。
夢中で走っている人ほど気づけない、自分の限界
―今回は、「仕事が頭から離れず、しんどい」ときの対処法についてうかがいます。吉本さんは15年以上にわたる会社員生活のなかで、同様の経験はありましたか?
「前職は経営カウンセラーをしていて、24時間365日、仕事のことが頭から離れませんでした。携帯電話を肌身離さず持ち歩き、休日に海でサーフィンをしていても着信が気になって、海から上がると真っ先に携帯を手に取ってしまう。遊びに行った先で着信があると、申し訳ございませんと意味もなく謝り、休むのが悪いことのように感じていましたね。ですが、当時はその状況にまったく違和感がなくて。会社に勤めさせてもらい給料をいただいている以上、言われたことはかならず達成するのが当たり前だと思っていました。でも、結果として違和感に気づかない状況がよくなかった」
―ツラいという自覚がある人より、無理をしていると気づいていない人のほうが心配かもしれませんね。
「自分からの黄色信号を感じている時点で一歩前進、と言えるのでは。僕の場合、人よりも業績を上げることだけを目標に走り続けた結果、ある日の朝、ベッドから起き上がれず会社を無断で休んでしまった。病院に行ったらうつ病、そしてパニック障害と診断されて逃げるように退職届を出しました。黄色信号を無視して走り過ぎたら勝手にスイッチが切れ、強制終了をかけられた感じです。自分は強い、できる人間だと思っている人に会うと、昔の自分を見ているようでちょっと心配になりますね」
仕事上の目標が持つ”特性”を知ると、働き方が変わってくる
―働いていると何かしらの目標が与えられ、それがプレッシャーになり仕事が頭から離れない。そんな人は多いと思います。心がポキッと折れて強制終了とならないためには、どうすればいいですか?
「働いている以上、目標やノルマが課せられるのは仕方ありません。でも、数字で示される目標、それに対する評価にゴールはなく、満足もない、無限のものだという”特性”を知っておくべきです。そうすれば、むやみに追い続けなくなる。逆に知らないと、ラットレースのように走り続けることになります。食事や睡眠も仕事のため、仕事の目標を達成することでしか自分の存在価値を示せなくなり、いつか行き詰ってしまいます。
ありきたりかもしれないけど、僕たちは仕事のためだけに生まれてきたわけではないですよね。学校や会社では教えてくれない豊かな人生の過ごし方をちゃんと自分で考えて、そのための時間の使い方を見直すときだと思います」
―数字の特性を理解できると、仕事との距離感が上手くとれそうですね。
「そうなんです。仕事上の数字は、単にやるべきことであって、人生の目標ではありません。だから、達成できなくてもあなたの人生を邪魔するものにはならない。目標があることで仕事に主体的に取り組めればいいですが、目標があなたを苦しめるのであれば、そこに価値はないのかもしれないし。達成できなくて職場での居心地が悪くなったり、上司に怒鳴られてツラくなったりしたら、そこから一旦離れていい。それは逃避ではなく避難、自分を責める必要はないですよ。達成できなかったときに手を貸してほしいとSOSを出す勇気と、そのSOSをいつでも受け取れる懐の深い環境も必要だと思います」
「楽しくて生産性のないこと」で仕事脳をリセット
―仕事で頭がいっぱいな人は、休日も仕事をしてしまいリセット下手な傾向があります。仕事スイッチを切るいい方法はありますか?
「僕が実践しているのは、”マニアックな趣味”を持つことです。理想は、誰かに披露するのを目的としない、自分にしかわからない楽しみ。短時間で行えて、生産性がないってところもポイントです。生産性があるものだと、生み出すことに意識が向いて仕事モードが発令してしまうので。それをやっている自分を俯瞰で見たときに、クスッと笑えるちょっと滑稽で、自分のパブリックイメージを手放して没頭できるものがいいですね。
僕の場合、植物の水やりがそれにあたります。毎朝、自分のヨガスタジオにある植物たちに水をあげるのが楽しみで、水やりをしているときは植物に集中して僕だけの世界に浸れる。小さい芽が出てきたぞ、昨日より大きくなったな、と変化を感じるのが純粋に楽しい。キャンプや山登りも好きですが、誰かに話すと、かっこいいですね、おしゃれですねと言われ、その時点で評価が生まれてしまいます。すると僕は、かっこいいイメージを壊しちゃいけないと思いブランド物のウエアを揃えたくなり、誰かに見せるための趣味になっていく。そうじゃなくて、もっと自分だけの楽しみでいいんです。仕事モードから離れやすくなりますよ。次に紹介するワークも生活に取り入れてみてください」
意識を今に集中させる「椅子に座ったキャット&カウ」
背骨の動きに意識を向けて、仕事のことばかり考えてしまう思考を、”今ここ”に引き戻すワーク。背骨がどれだけ動くかより、背骨を構成する椎骨を一つずつ動かすことに集中しましょう。
椅子に座ったキャット&カウ
目的と効果:背骨の動きに意識を向けて、マインドフルネスな状態を作っていく。
〈やり方〉
1.椅子に座り、脚は腰幅に開き、つま先を前に向ける。背骨はニュートラルな状態に。
2.息を吸いながら、尾骨、腰、胸、首の順に椎骨を一つずつ動かして背骨をしならせる。最後にあごを斜め上に向ける。背骨の動きに集中しやすいように目を閉じて行う。
3.息を吐きながら、同じく尾骨、腰、胸、首の順に椎骨を一つずつ動かして背骨を丸める。最後に目線はおへそへ向ける。5回繰り返す。
〈プロフィール〉
吉本憲太郎さん
ヨガ指導者、「..with THE CLEAR YOGA」主宰。会社員を経て、自分が苦しんだ経験を含めヨガの魅力を伝えるべく、ヨガ指導者の道へ。熊本にオープンした自身のヨガスタジオでは、ビギナークラスからOMYOGA認定校として指導者養成講座(全米ヨガアライアンスRYT200)も開催。月に一度の屋外クラスでは、ドネーションを募り熊本の自然環境保護団体に寄付している。https://with-the-clear-yoga.jp/、Instagram:@kentarouyoshimoto
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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