自分の弱さを受け入れて生きる|メンタル崩壊…から復活した男性が語る「今、苦しい人に伝えたいこと」

 自分の弱さを受け入れて生きる|メンタル崩壊…から復活した男性が語る「今、苦しい人に伝えたいこと」

心と体のバランスを崩した会社員時代にヨガに出合い、本来の自分を取り戻した、40代ヨガ講師・吉本憲太郎さんのこれまでと現在地をインタビュー。価値観を一瞬で覆したヨガとの出合いと、「今、苦しみを抱える人に伝えたいこと」をお話いただきました。

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ヨガとの出合いは必然。あのときの僕に必要なのは、ヨガだった

― 吉本さんは熊本でヨガを指導しているそうですが、ヨガの先生になる前はどんな仕事を?

「大学を卒業して最初の仕事は、車の営業マンでした。車のことはあまり知らないのに営業成績は良くて、今になって思うと調子にのっていたし、自分は仕事ができる人間だと勘違いしていました。もっとフィールドを広げたくて転職したのは、全国転勤のある経営カウンセラーという職種。とにかく数字に追われる毎日でした。入社してすぐ無力さを痛感し、思うように結果が出せない自分に苛立ち、言葉や態度は攻撃的で人間らしさと笑顔を失っていたと思います。ずっと剣道をやっていた影響なのか負けず嫌いで、その性格が自分を苦しめた。勝って当たり前、勝たなければ意味がない。人より劣ることを許せず、誰よりも業績を上げることだけを考えて常にプレッシャーと闘っていました」

― 仕事中心だった吉本さんが、なぜヨガを始めようと思ったのですか?

「2016年4月に熊本地震があり、そのタイミングで心がめちゃくちゃになって自分を鼓舞できなくなったんです。朝が来てもベッドから起き上がれず、誰にも相談できなくて会社を無断欠勤し、休んだ理由を嘘で繕う。苦しくなって逃げるように会社を辞め、大切な家族とも別れて生活する状況になりました。なぜヨガを始めたのか聞かれると、今まではこう答えていたんです。『震災のタイミングで体と心が壊れ、仕事もきつくて自分をコントロールできなくなったから』と。確かにそのタイミングでヨガ経験者だった妻や姉、両親にもヨガを勧められ、家族がそんなに言うならと体験レッスンを受けたわけですが。でも、ヨガを学んで物事を客観視できるようになると、僕は震災などを理由に都合よく記憶を書き換えていたと気づいたんです。じゃあ、なぜこのタイミングでヨガなのかというと、完全に導いていただいた結果。物事の偶然性を信じるタイプではなかったけど、理屈ではなく壮大な流れみたいなものに動かされた必然的な出合いだったと感じます」

― 物事を俯瞰で見られると、過去の苦しかった経験の答え合わせができる瞬間がありませんか。その経験は自己形成に必要で、ちゃんと意味があったんだと。

「そう思います。たとえば、剣道を続けてきたのは、一度負けず嫌いな自分を作り上げ、それを破壊して本当の自分に戻るために必要な経験だったとか。ヨガを勉強していると、点と点が線になり、自分の人生に合点がいく瞬間が確かにありますね」

自分の弱さを知るために、海に入り、山に登る

― ヨガを始めて、自分のなかで変化した部分はありますか?

「一人じゃ生きていけないじゃん。そう気づいたことは大きな変化だと思います。会社員時代は、一人でなんでもできる強い人間だと思っていたし、それこそが失敗の原因でした。あるヨガの先生に『ヨガをして自分が満たされると、あふれ出た部分を他者に循環できる』と教えられ、その通りだと思います。そう思える時点ですでに他者の存在があり、他者がいることを前提に自分が幸せになるべきなんですね。独りよがりじゃなくて。自分が幸せでいられるのはあなたがそばにいてくれるからで、周りの人に幸せを届けるために自分の幸せを作っていく、という順番を忘れたくないです」

― 好きなことやこだわりなど、ライフスタイルにおける変化は?

「20年前からサーフィンを続けていますが、以前と今では自然のなかに入る目的が変わりました。人のことを考えず自分の名声を高めることにがむしゃらだった頃は、その自分に疲れたら海に入りリフレッシュする感じでした。今は自分の弱さを知るために入ります。そして、一人じゃ生きていけないことを学び、自分が調子にのっていないか、無理をしていないかを確認します。海や山が怒ったらひとたまりもないし、自然のなかに身を置くと地球環境があるから人は生きていられるんだと謙虚になれる気がします」

― 吉本さんにとって、自然は偉大な師のような存在ですね。

「そうかもしれません。登山も好きで、この前は頂上ばかり気にしていたら岩につまずいてこけちゃって。でもずっと下を向いて登ると首や腰が辛くなる。どちらかに偏らず、バランスが大事。そう思って少しの間、頂上を見るのを我慢して足元を確かめながら登ったら、思いのほか頂上が近くなっていました。これって生き方にも当てはまると思いませんか?自然のなかに入ると、忘れかけていた感性や倫理観がリチャージされる感じがします。重要な決定をするときこそ、海や山に入るといいですよ」

ヨガ

40年信じてきた価値観を一瞬で覆した、ヨガの叡智を伝えたくて指導者に

― ヨガを学ぶ生徒から、伝える先生になろうと思ったのはなぜですか?

「初めて体験レッスンを受けたとき、できない自分を認めてとか、ポーズは人と比べないでとか、先生が言っていることの意味がまったくわかりませんでした。みんなはできるポーズが自分だけできないし、なんでだよという葛藤を繰り返した1時間でもありました。でもクラスが終わり目を閉じた瞬間、嫌悪感しかなかったはずなのにとめどなく涙があふれてきたんです。それは、自分の価値観は間違っていたかもしれないと気づいた瞬間でした。40年間信じてきた自分を一瞬で変えたヨガってなんだろう。できるなら忘れがたいこの経験をシェアしたいと思い、その日のうちにヨガ指導者資格のRYT200に申し込みました」

ヨガ

― 初レッスンが人生を変える強烈な体験だったんですね。ヨガの先生を目指す過程で影響を受けた存在は?

「OMYOGAの吉田香代子先生のもとでRYT200を受講し、解剖学から心のことまでヨガのイロハを学びました。当時はヨガウエアを持っていなくて、初日のクラスは海パンとTシャツ(笑)。仕事を辞めてヨガで生きていきますと、意気込んだ割に体はびっくりするほど硬くて先生も苦笑いでしたね。ヨガがどういうものかわかり始め、ヨガで生活していく思いが一層強くなった頃、Five Elements Yoga創設者の山本俊朗先生を知りました。最初は、山本先生のように全国で活躍したいという憧れが強く、どうしたらもっと有名になってお金を稼げるかという思考が働き、また道を外れそうになった。先生が伝えたいのは、そんなことじゃないのに。軌道修正してエゴを手放し、自然体に戻ったらいろいろなご縁をいただけるようになりました。不思議ですよね。自分から求めていたときは全然ダメだったのに」

― 自分を律するとき、ヨガ哲学は役に立っていますか?吉本さんが大切にしている教えがあれば聞かせてください。

「心に留めているのは、クリヤーヨーガについて書かれたヨーガスートラ第2章の1節、『タパス スヴァディアーヤ イーシュヴァラ・プラニダーナ』という教えです。規則正しく生活し、自分のことを知ろうと努力し、かならずできると信じ続けることが大切と、この教えを自分なりに読み解き意識して生活しています。ヨガの経典はけっして簡単ではなく、読まなければいけないと思ってページを開くとすぐに閉じたくなります。だから、一週間に一節だけ読み、その教えを意識して過ごしてみる。すると、かならずリンクする現象が起こり、身を持って体験して初めて『そういうことか』と腑に落ちる。このやり方で学びを続けています。ヨーガスートラの訳書はたくさんあり、本によって解釈が少しずつ違います。僕は4冊の訳書を手元に置き、それぞれの訳をノートに書き写し、そこに自分なりの解釈をつけ加えて実生活に生かしています」

ヨガ

コロナで苦境の末にヨガスタジオをオープン。大切なことを思い出せる場に

― 2022年、熊本にご自身のヨガスタジオ「..with THE CLEAR YOGA」をオープンしました。この場所で伝えたいことは?

「このスタジオで一番大切にしているのは、自分はなぜ生きているのか、何をもって幸せと感じるのかを自問自答できる場所であり続けること。そして、自然のなかに身を投じたときと同様、生かされていることの喜びを再確認して日常に戻る、リセットできる場所でありたい。みなさんがそのままの自分を受け入れられるように、僕自身も弱さをさらけ出し、できないことを悲観する必要はないよと、伝えていきたいです」

ヨガ

― 指導者資格を取った後、スタジオをオープンするまでの道のりは険しかった?

「正直、コロナ禍は厳しかったです。当時は公民館やヨガスタジオで細々と教えながら、事務員のアルバイトをして生計を立てていました。コロナになってクラスが全部ストップしたときは、農業を手伝ったりして。ヨガで生きていくのはもうダメかと諦めかけた矢先に、ご縁に恵まれて熊本の大江という場所にスタジオを持つことができました。嬉しかったことがあって、ヨガの活動を知った会社員時代の仲間が、僕の送別会やっていないからと全国から集まってくれたんです。突然退職したことを謝ったら、なんにも謝ることないし『いつ憲さんに会えるか楽しみに待ってたんよ』って。当時は人の優しさに甘えることを知らず、勝手に自分を追い込んでいたと顧みることができました」

― コロナで先が見えなくなった人も多いはず。今も不安を抱え、前に進めない人に吉本さんが伝えたいことはありますか?

「全部を自分で解決しようと頑張らず、SOSを出してほしい。それが難しければ、一人でいいから海に入るとか、風にあたるでもいいから自然のなかに足を踏み入れて。同じ環境に誰かいれば挨拶が生まれる可能性があり、その一言からコミュニケーションが生まれ、一人じゃないと気づくと物事は好転していきます。同じようなバイブレーションをヨガで感じられると思えば、ヨガスタジオに行くのもいい。自分に合う”自然体に戻れる場所”を見つけてください。それと、自分の弱さを知っている人は他者に優しくできるし、ちょっとした幸せに気づける人だから、今は辛くても安心していいよと伝えたいです」

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〈プロフィール〉

吉本憲太郎さん
ヨガ指導者、「..with THE CLEAR YOGA」主宰。会社員を経て、自分が苦しんだ経験を含めヨガの魅力を伝えるべく、ヨギ指導者の道へ。熊本にオープンした自身のヨガスタジオでは、ビギナークラスからOMYOGA認定校として指導者養成講座(全米ヨガアライアンスRYT200)も開催。月に一度の屋外クラスでは、ドネーションを募り熊本の自然環境保護団体に寄付している。https://with-the-clear-yoga.jp/ Instagram:@kentarouyoshimoto

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吉本さんのヨガを体験できる、「the Yogi in 沖縄」開催間近!
2023年4月15日(土)、吉本憲太郎さんをはじめ5名の男性ヨガ講師と禅僧によるスペシャルヨガイベントを沖縄で開催。講師がペアを組み、ほかでは体験できないレッスンを指導。「100点を目指さず、できないことはできる人に助けを求めていいと教えてくれるイベントでもあります。16名の講師陣による化学反応をお楽しみに!(吉本先生)」/同時開催:2023年4月16日(日)「6名のthe Yogi講師”ヨギーズ”による指導者ワンデー特別講座」。各詳細:https://theyogi2023.hp.peraichi.com

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取材・文/北林あい

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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