「介護予防のためのヨガでシニアに健康と笑顔を」山田いずみさんの転身ストーリー


生徒さんから圧倒的な支持を集め、メディアやイベントでもひっぱりだこのヨガ講師たち。そんな彼らに共通しているのは、「セカンドキャリア」としてヨガ講師を選んでいるということ。彼らの転身までの背景を知ることは、「どうしてヨガ講師として成功できたのか」に結びついているに違いない、そんな思いからスタートした企画。異業種からヨガ講師へ転身した彼らの、決意、行動、思いから、「本当に良いティーチャーとは」という講師の素質にも迫ります。今回は番外編。健常者ヨガからシニアヨガ講師へ転身したストーリー。
♯CASE13「健常者ヨガ」から「シニアヨガ講師」への転身ストーリー
「シニア世代にヨガを教えたい」。その一心で活動の場を積極的に切り開き、今ではシニアヨガの第一人者となった山田いずみさん。超高齢化社会を迎え介護予防としてのヨガに注目が集まる今、シニアヨガの講師として成功するために知っておきたい、高齢者の心身との向き合い方、介護現場で働き実感した高齢者が抱える不安への理解、また若い世代とは異なる情報発信の方法など、シニアと同じ目線に立ち寄り添ってきた山田さんにお話をうかがいました。
――前職はモデルをしていたそうですが、ヨガ講師を目指した経緯を教えてください。なぜシニアヨガに魅力を感じたのでしょうか?
18歳から楽しくモデルの仕事を続けてきて、岐路に立ったのは20代後半です。モデルとしての将来を考えたとき多くは子育て系、キャリア系に進路がわかれますが、私はそのどちらにもあまり魅力を感じませんでした。今後の方向性を見失いかけたとき、周りを見ると資格を取ってヨガ講師になるモデル仲間が多くいて、私自身、体型維持のためヨガをしていたこともあり、自分の将来に「ヨガ講師」という選択肢が加わりました。でも、若くて健康な人たちにヨガを指導している講師像が自分にはしっくりこなくて……。

そんなとき実家の祖母が体操教室を始めたんです。近所で先生をスカウトしてきて。祖母は体操教室をきっかけに心身共に見違えて元気になっていきました。気になって私も参加したところ、おばあちゃんたちが本当に楽しそうに体を動かしていて、笑い声が絶えず、その光景にときめいてしまって(笑)。「ヨガでこんなクラスを作りたい!シニアにヨガを教えたい!」と、この体験を機にシニアヨガ講師を志しました。笑顔溢れる体操教室が私の原点であり、今も目指すクラスの姿です。

――今でこそシニアヨガ講師のニーズは高いですが、当時の状況はどうでしたか?すぐにシニアヨガ講師の道は開けましたか?
シニアヨガの講師になると決めて資格を取れるスクールを探したのですが、私の知る限り当時はシニアヨガ専門の指導者養成コースはありませんでした。それが今から10年前です。なので、健常者向けの指導者養成コースに通いヨガ指導の基礎を学びました。卒業後、指導場所を探すのにも苦労し、結局シニアヨガの指導機会は得られず、ならばヨガの指導経験を積もうとスポーツクラブなどで健常者向けのヨガを1年程教えていました。その間もシニアヨガを提供できる環境を探し求め、介護予防運動指導員の資格を取得。そんなとき、介護職員としてヨガを提供できるリハビリ施設の求人を見付け正社員になり、この施設で椅子に座って行うヨガ、筋トレ、歩行訓練、個別の運動指導を担当できることに。念願だったシニアへの指導は心底楽しく、上司にもそれが伝わったのか「山田さんほど楽しそうに仕事をする人はいないね」と言われ、トレーナーに推薦していただいたんです。リハビリメニューのマニュアル作成やスタッフ研修を行う立場を任されやりがいはありましたが、「シニアにヨガを教えたい」という思いと現実が離れて行き、しかも私の意見が通らないことも多くもどかしさが募り……。入社3年目のタイミングでリハビリ施設を退社し、フリーでシニアヨガ講師として活動することを決めました。

――リハビリ施設を退社後、フリーのシニアヨガ講師としてどんなスタートを切りましたか?また、今までの指導経験がどのように役立っていますか?
リハビリ施設を退社した頃、シニアヨガ講師の資格を取るインストラクターは少しずつ増えていました。でも、シニアの間では、「ヨガは体が柔らかく元気な人がやる」というイメージが強く、椅子に座って誰でもできるという認識はまだ薄かったようです。リハビリ施設で経験を積んだチェアヨガを必要な人に届けたい。また、介護を必要な人が後を絶たない現状を見て介護予防は65歳からでは遅いことを痛感し、「30代からの介護予防」も提唱したい、そう思っていました。裾野を広げるには、レギュラークラスをしながらシニアヨガを広める指導者を育てようと準備を始め、分厚いテキストを一から自作するところから養成コースの立ち上げに着手しました。
私が指導する養成コースの特徴の一つは、チェアヨガの技術を教えるだけでなく、自分の介護予防について考える時間を設けていること。何をするかと言うと……。配偶者や健康など老後に失うものに捉われ悲観して生きる自分、そしてヨガの「知足」の精神で今与えられているものに感謝して生きる自分、その両方を瞑想状態で疑似的に体験。後者のマインドで年齢を重ねれば、老後の心の豊かさは変わることを感じてもらいます。このカリキュラムは、リハビリ施設で様々な不安を抱えて生きる多くのシニアを見て、不安と向き合う心の在り方を考える必要性を感じて採用しました。自分事として考え、感じる体験を積むことで、実際にシニアに接したときの共感力や寄り添い方が変わっていくと考えています。

現在指導しているチェアヨガのベースは、リハビリ施設で行っていたカリキュラムです。禁忌の動きや頑張りすぎてケガをするシニアの心と体の癖、緊張をほぐすコミュニケーション術、傾聴への理解、すべて施設での経験が役立っています。ポーズやアジャストの幅が広くオリジナル性の高いメソッドを提供できるのは、健常者向けヨガの指導経験がおかげ。シニアクラスで心掛けているのは、次回も足を運びたくなる雰囲気作りで、そのためにはコミュニケーションが大事。名前で呼び距離を縮めたり、体に優しく触れたりしてレッスン前に気持ちを和らげ、そうすると体の緊張も緩み安全かつ楽しく参加してもらえます。また、相手の話に耳を傾ける「傾聴」の姿勢も大事ですね。体の痛みを相談されたとき、「辛いですね。大変ですね。」と共感を伝えるとほっとした笑顔を見せてくれます。シニアヨガの講師は相手の話をよく聞くことも重要な役割だと思います。

――指導者養成コースやレギュラーレッスンの活動は、どのように広げていったのでしょうか?
シニア向けのヨガが今よりメジャーではなかった分、自分で営業先のヨガスタジオを探し、「これだ!」と思った相手に自らアプローチして活動の場を切り開きました。リハビリ施設を退社後、実家のある名古屋に引っ越し、指導者養成コースは自宅から通いやすい名古屋と京都のヨガスタジオからスタート。どちらもスタジオのコンセプトに惹かれてアポを取り、自作のテキストを持って売り込みにいきました。レギュラークラスの一つにカフェを併設した医食同源、予防医学を提唱するクリニックがあり、やはりシンパシーを感じて私からアプローチしました。決して勢いではなく、やりたいこと、持っているスキル、相手のニーズを重ねて一致したら進むようにしています。やりたいことの判断基準は、ワクワクするかどうか。迷ったら手帳にやりたいことを絵にして描き、心がときめかなければ軌道修正しとことん自分と向き合います。本当にやりたいことが見えると、そこに向かっていくための具体的な行動が見えてきますよ。
告知の方法もシニアは独特。若い世代と違いSNSより紙媒体の告知効果が高く、シニア世代は地域の回覧板や自治体の広報誌をよく見ています。また、老人会などの自治体の集まり、団地の集会所などシニアが集まる場所でチラシを配る、地域内でシニア世代とつながりの深い民生委員から活動場所の情報を得るのも有効です。介護施設でヨガを教えたい場合、様々な症状の人への対応力が求められるためボランティアから経験を積むのもいいでしょう。

――シニアヨガ講師を目指してコースに通う人たちに伝えたいことはありますか?先輩講師としてメッセージをお願いします。
受講生の皆さんは全員同じことを学びますが、感じ方は一人ひとり違うと思います。自分なりに感じたことを咀嚼して、アウトプットは自分らしく行ってください。そして、シニアクラスの生徒さんは先生の顔が見たい、おしゃべりしたいと、先生に会うのを楽しみに参加する方も多いので、体はもちろん心に寄り添える先生になってくださいね。シニアにとってヨガクラスは、コミュニケーションの場でもあります。
――ヨガを通して介護予防に携わってきて、この先社会にどう貢献していきたいですか?今後の展望を教えてください。
介護が必要な人は右肩上がりで増え続ける今、これからは運動イコール介護予防という考え方ではなくホリスティックな視点が求められ、社会のあり方にも変化が必要だと感じています。まずは若いうちから「健幸」で暮らせる知恵を身につけられる場所が必要で、なおかつ超高齢社会で介護や医療を満足に受けることが難しくなっても家族間や地域内での相互扶助が成り立つ社会に戻していくことが大切。だから長い時間をかけて「幸福な老い」ができる地域の仕組みを整え、その一環として自由にヨガやおしゃべりができ、シニアが能力を発揮して輝ける場を作っていけたら。体にいい食事をしよう、運動をしたいという健康行動は、生きる意欲があってこそ生まれてくるもの。例えばフリースクールをヨガができて食事もとれる場にして、そこでシニアがご飯を作って地域の子どもたちみんなと食べる、そんな場所を形にしたいです。

山田いずみさん
インド政府公認ヨーガインストラクター、シニアヨガインストラクター、チェアヨガインストラクター、介護予防運動指導員、チョプラセンター認定瞑想ファシリテーター、マクロビオティックスクール・リマ師範科修了。自身の祖母が体操で元気になっていく姿をみたのがきっかけでヨガインストラクターになる。 介護予防運動指導員として施設での運動指導経験を元に、介護施設や公民館などで高齢者を対象にヨガを指導。自身も山梨県北杜市にて自然のリズムで暮らすホリスティックな生活を実践中。ヨガ以外にも、食養生、摘草料理、瞑想などの経験を、講座、ワークショップ、リトリートなどで人々に伝えている。【8/28・9/7・9/21開催】シニア向けチェアヨガ指導者養成講座:ベーシック (東京・大阪)ヨガジェネレーションにて申込受付中 ※10月以降も随時開催
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