呼吸をするための「筋」の働き|理学療法士がヨギに知ってほしい体のこと
理学療法士として活躍する得原藍さんが、ヨギに知ってほしい「体にまつわる知識」を伝える連載。今回は、ヨガとは切り離せない「呼吸するための筋」について学びます。
呼吸をするための「筋」というと、何が思い浮かびますか?
呼吸をするための筋、と聞かれたとき、どのような筋を思い浮かべるでしょう。横隔膜、腹部の腹直筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋、それから肋骨の間にある内外肋間筋などが身近なところでしょうか。教科書を開くと、そのほかにも、胸鎖乳突筋や僧帽筋なども、運動したりなんらかの疾患で通常の呼吸量では足りなくなった際に使われると書いてあると思います。つまり、呼吸にはとても多くの筋が関わっています。
みなさんがヨガをされるとき、どのアーサナでも呼吸を大事にしていると思います。これは呼吸を続けるという点では日常の延長でもあるのですが、とる姿勢によって呼吸がしづらかったり、苦しかったりしませんか。先ほど、とても多くの筋が関わっている、と言いましたが、アーサナの中で呼吸をするということは、運動のためにどこかの筋を使いながら呼吸をするということですので「それぞれ筋を呼吸に使えるのか運動に使わなければならないのか」という条件が毎回変わることになります。さらに、普段呼吸で使われている部分が引き伸ばされたり、圧縮されるような形をとったりすることで呼吸に関与しづらくなっている場合もあります。
ダウンドッグを例にとると、例えば呼吸の中心になるはずの横隔膜も、動きづらくなります。なぜなら、この姿勢では腹部の中(腹腔)にある内臓が、横隔膜を圧迫する方向に重力がかかるからです。同時に、肩関節が大きく屈曲することで肩や胸の前方が引き伸ばされます。すると、上部の肋骨も少し引き上げられ、上部胸郭が少し広げられるような形をとることになるでしょう。この部分は肩をつかって呼吸をするタイプの人が普段動かしている部分なので、ダウンドッグの姿勢の維持と集中した呼吸を同時に行うには、いつもと違う部分を動かさなければならず、難しいと感じる人もいるかもしれません。
さまざまな姿勢で安定して呼吸ができるということは、呼吸に関わるさまざまな要素を満遍なく使える能力がある、ということです。呼吸は命の要ですから、どのような姿勢でも呼吸が可能なように人の身体は複雑に作られています。それぞれのアーサナでの呼吸を見直すことは、日常生活で偏ってしまった呼吸筋の使い方を見直すことにも繋がるのです。
教えてくれたのは…得原藍さん
大学時代にアメリカンフットボールの学生トレーナーをした経験から身体運動に興味を持ち、卒業後社会人経験を経て大学に再入学し理学療法士となる。総合病院と訪問リハビリテーションで臨床経験を積み、身体運動科学について学ぶために大学院に進学、バイオメカニクスの分野で修士号を取得して5年間理学療法士の養成校で専任教員を勤める。現在はSchool of Movement®️ IES Directorとして様々な運動関連職種の指導者に対してバイオメカニクスを中心とした身体運動の科学を教えている。
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