運動をするとなぜ呼吸数が増えるのか|理学療法士がヨギに知ってほしい体のこと

 運動をするとなぜ呼吸数が増えるのか|理学療法士がヨギに知ってほしい体のこと
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得原藍
得原藍 2019-05-20

理学療法士として活躍する得原藍さんが、ヨギに知ってほしい「体にまつわる知識」を伝える連載。今回は、「継続した運動を実現する呼吸の仕組み」について学びます。

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「継続した運動」を実現する呼吸の仕組み

令和を迎えたその日に108回の太陽礼拝を行った、という友人がいました。108回というとどのくらいの時間がかかるのでしょう。最後にはとても疲れると思います。運動を継続すると、呼吸は乱れます。呼吸数が増えますし、1回の呼吸で出し入れする空気の総量も増えます。これは、なぜでしょうか。

わたしたちの身体は、ATP(アデノシン三リン酸)という分子を産生(細胞で物質が合成・生成)することで生命機能を保っています。つまり、筋細胞だけではなく、全ての細胞が、酸素や必要な分子を取り込んで不要なものを排出することで生きているわけです。そして、その活動を支える根本的なエネルギーを生み出すのがこのATPを介した化学反応です。(ATPは、人間だけでなく、植物や動物など地球上で酸素を消費して生きている生物ほぼ全てがエネルギーを産生するために使っている「エネルギーの共通通貨」です)。

このATPが、筋の収縮の際に大量に消費されます。

筋を細かく顕微鏡で見ていくと、アクチンとミオシンというタンパク質の構造で成り立っているのですが、このアクチンとミオシンが結合して距離を縮めることで筋が収縮しています。この結合を繰り返し起こすために、ATPはミオシンの一部とアクチンの一部が結合しているのを「引き離す」役割をしています。

心臓を動かすのにも、呼吸をするのにも、ヒトは常にATPを使っています。もちろん、運動をするとなると、そこにさらに大量のATPが必要になります。

「ミトコンドリア」が効率よく呼吸数・量を増やす

人間がATPを産生するのに一番効率の良い方法は、ミトコンドリアによる産生です。ミトコンドリアというのは細胞の中にある小器官のひとつですが、ここでは酸素と血中の栄養素を分解した分子を使ってATPが産生されます。つまり、筋の活動を維持するために、ミトコンドリアで多量の酸素を必要とする、そのために、呼吸数・呼吸量の増加が必須になるわけです。

より多くの酸素を身体に取り込まなければ、継続した運動は実現できません。運動の形を学ぶ前に、呼吸法を学ぶというのはとても理にかなった方法ですね。様々な姿勢の中での呼吸ができるようになる、ということも、より強度の高い運動に移行していくためには必要不可欠な過程だと思います。

教えてくれたのは…得原藍さん
大学時代にアメリカンフットボールの学生トレーナーをした経験から身体運動に興味を持ち、卒業後社会人経験を経て大学に再入学し理学療法士となる。総合病院と訪問リハビリテーションで臨床経験を積み、身体運動科学について学ぶために大学院に進学、バイオメカニクスの分野で修士号を取得して5年間理学療法士の養成校で専任教員を勤める。現在はSchool of Movement®️ IES Directorとして様々な運動関連職種の指導者に対してバイオメカニクスを中心とした身体運動の科学を教えている。

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