不安と緊張で張り詰める日々を優しくほぐしてくれた、スリランカでのアーユルヴェーダ体験|連載 #こころをほどく
元アナウンサーの渡邊渚さんが、自身の心に宿る想いをひとつずつほどきながら、心身のつながりや揺れ動く気持ちを綴るエッセイ連載。
PTSDになってから3年が経ちますが、相変わらず良くなったり悪くなったりを繰り返しています。
あらゆる治療をやってきているのですが、やはり心身からトラウマをなくすことはできません。
ただ、生活を改善させる方法として有意義だと思ったのが、本場のアーユルヴェーダでした。
アーユルヴェーダを受ければPTSDが治るわけではありません。でも私にとっては、心と身体の「リズム」を整えるのにぴったりでした。
ということで、今回はヨガジャーナルオンラインで絶対に書きたいと思っていた、アーユルヴェーダ体験記です!
アーユルヴェーダは、インドに起源を持ち、5000年以上の歴史があるとされる伝統医療です。
スリランカでは、アーユルヴェーダは「観光客向けのスパ」だけではなく、国が正式に認めている伝統医療の一つとして根付いています。
アーユルヴェーダ医師や病院・診療所があり、伝統医療を担当する政府機関も存在します。現代医学による医療と並んで、アーユルヴェーダが公的な医療制度の一部として位置づけられているのです。
PTSDの再体験・過覚醒・回避の症状がひどく、不安で眠れず、食材を見るとフラッシュバックするから食べることもできず、自宅に引きこもっていた頃。
普通に生活することができず、生きてるのか死んでるのかよくわからないくらいの状態の時に、スリランカ人の友人から連絡をもらい、本場のアーユルヴェーダを受けてみたらどうかと提案されました。
その時の私は、自分の状態が少しでも変わる可能性があるなら、それがどんなに細い糸でも掴みたい一心でした。
藁にもすがるように、3週間のアーユルヴェーダ治療のため、スリランカへ向かいました。
友人が紹介してくれたアーユルヴェーダホテルは、目の前に海が広がり、大自然に囲まれた施設でした。
専門医が常駐し、毎朝診察。その日の体調に合わせて、施術メニューや薬が決まります。
1日の流れとしては、こんな感じ。
6時 モーニングヨガ
7時から9時 朝食
9時 診察
9時半から12時 施術
13時 昼食後は自由時間
16時 瞑想タイム
18時 夕食
21時 就寝
私の泊まった施設は毎日このスケジュールで、太陽の動きに合わせた生活をしていました。
本場のアーユルヴェーダの施術は、人によって全く異なります。
私は3週間の滞在で、トラウマによる不眠や不安を少しでも和らげ、心身の緊張をほぐし、生活リズムを取り戻すことを目標にしていました。
私が滞在した施設では、毎朝の診察で脈診や問診を行い、その日の体調などを踏まえて施術内容が決まっていました。
また、体調に合わせて、ハーブから作られたアーユルヴェーダの薬(錠剤やシロップ)を処方されます。
毎日の施術は約1時間半の全身のオイルトリートメントから始まります。
使うオイルも人によって異なり、ハーブなどを配合したものが使われていました。
トリートメント後には、頭に薬草の湿布を貼ったり、身体にコーヒー豆から抽出したスクラブを塗ったり、よもぎ蒸しのようなポンチョに身体を入れたり、ハーバルバスに入ったり...日によって行われる内容も違い、日本のマッサージ店やスパでは経験したことのない施術で、毎日が楽しみでした。
しかも、セラピストの技術がすばらしい!
身体の声を聞き取る手を持っているかのようで、自分でも気づいてなかったこわばりも解けていきました。
特に好きだったのは、スチームバス。
スチームバスは首から下を専用の木の箱に入れて、寝転がります。
箱の下には、体調に合わせたハーブが調合された鍋がグツグツしていて、ハーブの香りを楽しみながら、じんわり発汗します。
サウナや酵素浴ほど暑くなく、首から上が出ているので息苦しくもない。
アーユルヴェーダでは、発汗を促して身体を“浄化”するための施術の一つと考えられています。寝転がっているだけでよく、当時体力が皆無だった私にとってはとても貴重な、身も心も緩む時間でした。
アーユルヴェーダといえばの『シロダーラ』もやりました。
シロダーラは、額に温かいオイルなどを一定のリズムで垂らし続ける、アーユルヴェーダの代表的な施術です。アーユルヴェーダでは、心身を落ち着かせたり、睡眠や不安などの不調に用いられることがあります。『脳のデトックス』のように説明されることもあります。
私もシロダーラで脳からトラウマが出ていってくれることを楽しみにしていたのですが、予想と違って、結構しんどかったのです。
最初は、オイルがツーっと落ちて頭が温かくなる感覚が気持ちよかったのですが、だんだん脳の奥が重くなって、ズーンと鈍い頭痛がしてきたのです。
担当のアーユルヴェーダ医師からは、アーユルヴェーダの考え方では、こうした反応を身体の状態や過度な緊張などと関連づけて捉えることがある、と説明されました。老廃物が溜まっていたり過度な緊張状態にあるとそうなるらしく、私の身体には合っていなかったようでした。
「脳のデトックス」は成功しなかったのですが、それもまた経験になりました。
目の周りに土手を作り良質なオイルを注いで目を開ける『ネトラバスティ』も行いました。
オイルの中で目を開けてみると、視界は真っ黄色で濁っていて、古い写真のように霞んでいました。
オイルが目にしみることはなく、眼球に膜が張っていくような優しい感覚で、眼精疲労があっという間に消えていった気がしました。私の場合は、その後しばらく目の乾燥が気にならない時期が続きました。
ホテルでの生活は、非日常的なのに、心が妙に落ち着く、くつろげる時間でした。
スリランカの建物の特徴は、内と外の境界が曖昧なところ。
スリランカはかつて、イギリス・ポルトガル・オランダによる植民地支配を受けていたため、ヨーロッパ風な要素と、熱帯の気候に合わせた開放感が共存している建物が多く見受けられます。
洋風なデザインの大きな窓や吹き抜け・中庭・回廊が風の通り道になっていて、そこに南国特有の木々やハーブがたくさん植えられていて、水辺には色鮮やかなハスの花が咲いています。
年季の入った壁も、開け放たれた窓も、そこに生える植物さえも、ひとつの建物に見えるくらい、自然と融合した建物でした。
仕切られていない建物の入り口からは、猿やリス、犬、猫、見たことのない色をした鳥など、野生動物がたくさんやってきます。
一番驚いたのはオオトカゲです。
オイルマッサージをしている最中、屋根からガサガサと何かが爪を立てて歩いている音が聞こえました。
聞いたことのない音だったのでセラピストの方に尋ねると、「Iguana」と言っていましたが、どうやらオオトカゲだったよう。
素っ裸で仰向けになり施術を受けていると、時々天窓からオオトカゲがこちらをのぞいてきて、舌をぺろぺろと出してきます。
初めて見た時は「ひぃーーーー!!!無理ーーー!!」と心の中で叫びましたが、数日すると慣れてきて、子犬に話すような優しい声で「How are you doing ?」と言えるように。
スリランカで見かけた大型のトカゲは2m近くあり、ぱっと見はコモドドラゴンかと思うほどの迫力でした。
1人で散歩中に大きなオオトカゲと遭遇した時は本当に焦りましたが、日本の路上では絶対に遭遇しない動物たちにたくさん出会えました。
そんな動物たちにびっくりしたり感動したり、悲しみやトラウマに苛まれていた自分の心が、そうではない感情に揺れ動くことができることに気づけました。
日本ではベッドから起き上がるのですらやっとだったのに、ここでは毎朝鳥のさえずりが目覚まし時計。自室の前には様々な動物たちがやってくる...東京にいたときは常に不安と恐怖で神経が張り詰めていたのですが、スリランカの自然と共生することで、徐々に生活や心が豊かになっていきました。
まだまだ、アーユルヴェーダの食事やヨガについてなど、語りたいことがたくさんあるので、続きはまた次回!
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