血管の老いは、愉しみある未来を失うリスクになる【医学博士が指摘する】血管の健康
私たちの体は歳を重ねると、細胞レベルで少しずつ衰えていきます。その細胞の衰えに働きかける成分として注目されているのが「ポリアミン」という長生き成分です。毎日の食事を少し見直すことが、あなたの未来の体を、そして人生を、大きく変えていきます。ポリアミン研究の第一人者である著者松藤千弥(まつふじ・せんや) さんの著書『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)より、内容を一部抜粋して紹介します。
ポリアミンは血管を若く保つ
「人は血管とともに老いる」
カナダ出身で近代医学の礎を築いた、ウィリアム・オスラーが100年以上前に残した言葉です。健康寿命を左右する重要な要因のひとつが、血管の健康なのです。2024年の厚生労働省の「人口動態統計月報年計(概数)」によると、血管の老化に伴って起きる、心筋梗塞などの心疾患と、脳梗塞、脳出血などの脳血管疾患を合わせた「血管病」は、日本人の死因の約20.5%を占めています。これは1位であるがんの約23.9%とほとんど変わらない数字です。血管病が進行して血管が詰まる・破れるという事態になると、命が助かったとしても、その後の生活の質が大きく低下してしまうことが少なくありません。脳梗塞で、体の片側が動かせなくなったまま残りの人生を過ごさなくてはならないこともあります。血管の老いは、愉しみある未来を失うリスクでもあるのです。
血管の健康を保つうえで大切なのは「血管内皮」のはたらきです。血管内皮は、血管のもっとも内側を覆っている層で、さまざまな物質をつくって、血管を広げたり縮めたり、血管壁から水分や栄養分を通したり、血液中のいろいろなものが血管壁にくっつくのを調節したりします。この血管内皮の細胞のはたらきがうまくいかなくなると、たとえば、脂っこい欧米型の食事を多くとる人では、悪玉コレステロールが血管の内側にくっつきやすくなり、血管の壁の中に入り込んでしまうリスクが高まります。動脈硬化の始まりです。これだけでも厄介なのに、さらに負の連鎖が始まります。悪玉コレステロールを異物として認識する免疫系が反応し、マクロファージが出動します。
マクロファージは、せっせと悪玉コレステロールを食べて処理しますが、たまったコレステロールが多すぎると処理しきれません。ついには、悪玉コレステロールを食べ過ぎて細胞内がいっぱいになり、血管壁の中で巨大化して死んでしまいます。これが「泡沫細胞」です。しかも、マクロファージは仲間を呼び寄せるために「炎症誘導物質(サイトカイン)」を放出し、その結果、炎症系の細胞がさらに集まり、血管壁は炎症状態になってしまいます。
ポリアミンには、このような炎症を抑える「抗炎症作用」があります。免疫細胞の表面にあるLFA-1という分子のはたらきを弱め、炎症細胞が血管の壁にくっつくのを防ぐことが報告されています。イメージとしては、血流という川を流れる免疫細胞が、血管の壁という岸に上陸しようとしたとき、岩に引っ掛けるロープを出せないようにする。そんなはたらきです。
さて、中くらいよりも太い動脈の血管壁の炎症が年単位で続くと、マクロファージを中心に、他の炎症細胞や血管組織の細胞などの死骸がたまり、血管の中にドロッとした、おかゆ状の沈着物(プラーク)ができます。これが「アテローム性動脈硬化」です。これにより血管が狭くなって血の流れが悪くなり、血管を完全に塞いでしまうこともあります。また、もろくなったプラークがはがれて、血流に運ばれ、もっと細い血管に詰まることもあります。このようなことが、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などへとつながっていきます。
さらにいうと、プラークができた血管の部分は、その内側の内皮細胞が傷つきやすくなります。すると、傷ついた部分を塞ごうと血小板が集まり、互いにくっつき合います。これは、出血のときにも起きる正常な反応で、血小板の「凝集(ぎょうしゅう)」と呼ばれます。しかし、内皮細胞がくり返し傷ついたり、プラークが大きく裂けたりすると、大がかりな血小板凝集が起こり、血栓をつくります。血栓は文字通り血管の中に栓をしてしまうため、その部分で血流が止まることもあり、そうなれば、命に関わることもあります。動脈硬化の患者さんが抗血小板薬を服用していることがありますが、こうした血栓の発生を防ぐためです。興味深いことに、ポリアミンが血小板の凝集を抑えることが、ラット、ウサギ、イヌを用いた実験で明らかになっています。
これは、ポリアミンは天然の抗血小板薬として、血栓の形成から体を守っている可能性があるということです。人でも同様の効果が確認されるか、今後の研究が期待されています。2016年に、国際的な医学専門誌『Nature Medicine』に興味深い研究が報告*されました。この研究では、ポリアミンを与えることで心臓細胞のオートファジーがしっかりはたらき、その結果、マウスが長生きすることが観察されています。つまり、ポリアミンが細胞のゴミ掃除を手伝ってメンテナンス機能を高めることで、心臓の健康や長寿につながる可能性が示されたのです。心臓と同じように、血管の細胞が元気にはたらき続けるためにも、ポリアミンによるオートファジーの活性化が重要な可能性があります。この点についても、今後の研究の進展が楽しみです。
*Eisenberg T et al., Cardioprotection and lifespan extension by the natural polyamine spermidine. Nature Medicine 22: 1428–1438, 2016
この本の著者…松藤千弥(まつふじ・せんや)
東京慈恵会医科大学学長。医学博士。1958年、東京都生まれ。1983年、東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学附属病院内科研修医、同大学大学院を経て、1989年、同大学栄養学教室助手。1992~1995年、米国ユタ大学人類遺伝学研究所留学。2001年、東京慈恵会医科大学生化学講座第2教授。2007年、同分子生物学講座担当教授。2013年より学長。また2018~2024年、日本ポリアミン学会会長を務める。専門分野は遺伝子発現調節およびポリアミンに関する生化学・分子生物学である。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く






