「ガラスの天井」の議論からこぼれ落ちる、低賃金とケア役割に縛られた地方の女性たち【インタビュー】
特定非営利活動法人Sisterhoodは、山形市の中心部で若年女性のためのフリースペースを運営しています。家庭内での虐待や役割の押しつけに苦しみながらも、誰にも相談できずにいた女性たちが少しずつ本音を語り始める場となってきました。代表を務める小笠原千秋さんにお話を伺いました。地方の女性支援というと、管理職を目指すような上昇志向の人へのキャリアアップ支援に予算が注がれがちです。一方で、ケア役割を担わされているがゆえに家から出ることすらできなかったり、就労自体が難しい人たちへの支援は非常に少ないと小笠原さんは指摘します。山形で活動を続ける理由とともに、お話を伺いました。
週2回、若年女性のためのフリースペースで見えてきたこと
——活動の中心となっている取り組みについて教えてください。
中心となるのは、若年女性のためのフリースペースです。山形市の中心部で一軒家の何部屋かを借りて、週2回開いています。助成金の関係で年齢を区切らなければならず、16歳から35歳までという形にしています。悩みのあるなしに関わらず、家に帰るのがしんどい、学校でも職場でも言えないことがある、なんとなく誰かと喋りたい、そんな方が集まれる場にしたいと思って始めました。
それと月に1回、講座も開いてきました。地域の中に女性支援に関わる人を増やしたいという思いがあって、PTSDのこと、性被害のこと、ハラスメントのことなど、ある程度の知識を持って相談し合える人が一人でも増えたらいい、という考えで続けています。
——実際にはどのような方が来られていますか。
最初の想定では不登校や元引きこもりとされる方が中心かと思っていたのですが、実際には、職場でハラスメント被害に遭ったけれども誰にも相談できなかった方、子育て世代でママ友はいるけれどジェンダーや性教育の話ができないと話される方、経済的に困っていたり親からの虐待があったりという方もいらっしゃいます。ボリュームゾーンとしては20代前半が多いですね。
当事者同士でいろいろな話をする中で気づきがあったり、回復があったりする。2年かけて、ようやくそういう場として定着してきたという印象があります。
——フリースペースでは夜ごはん会も開かれていますね。
活動を始めたばかりのころ、別の女性支援団体さんで修行させていただいた時期があって。そこで夜ごはん会を開いたときに、大学生の方が「一食でもこうやってみんなと無料で食べられるのは本当にありがたい」と言ってくれたんです。よく聞いたら、家庭の事情で親から支援が受けられず、バイトと奨学金だけでカツカツで暮らしているとのことでした。それなら、若い人たちが安心して家族以外の人とごはんを食べられる場所が必要だと思って、今も続けています。
——お菓子作りなどもされているそうですね。
ただ黙って場にいても、思っていることはなかなか出てきません。作業をしながらだと、ついでというか、横並びの関係でぽろっと本音が出てきやすいんです。食べ物の話をすると「うちでは実は…」と家族の話が出てきやすい、というのもやっていて感じることです。
——慎重な方が多いとも伺いました。場の空気に慣れていく過程はどんな雰囲気ですか。
来た当初は緊張して、一言も話さないまま帰る方もいます。でも、その場にいて周りの様子を見るうちに「話しても大丈夫なんだ」とわかってくると、ぽろぽろと話してくれるようになる。本当に別人のように変わる方が多いです。
最近もある方が「自分の話ができる場所が本当にないんですよね」とお話ししてくれたんです。職場で少し話したことが、かなり話が大きくなって広まってしまった経験があったり、家では父親の力が強くて、何を言っても全部否定で返ってきて自分の話ができない。だから、どこで話していいかわからなかったとおっしゃっていました。
虐待などの家庭内の話は、友人だと気を遣わせてしまうかもと思って、話しにくい部分もありますよね。祖母から「家の中の話は外に漏らすな」とずっと言われて育ってきたから、家の中で起きている虐待のような話もしてはいけないと思って生きてきました、と話してくれた方もいました。
——活動を始められて、新たに気づかれたことはありますか。
だんだんと虐待のケースが出てきて、山形にもこういうつらい思いをして誰にも言えない若い人たちがいるんだ、ということを私自身まったく知らなかったことに気づかされました。ケースとしては、身体的な暴力もありますし、ネグレクトで親と何年も口を聞いていない方もいます。「奨学金を使い込まれて学費が払えない」という相談から始まり、よくよく話を聞いてみると、殴られたり蹴られたりが実はあった、ということで一緒に警察に行ったこともありました。
それから、家庭内のことでつらい思いをしている若い人たちが行政や福祉の窓口に繋がりづらいということ。窓口まで同行したのですが、制度の枠組みに当てはまらない部分があると「うちでは支援できません」と断られてしまったこともありました。学校でも奨学金の手続きをする場はあっても、生活上の悩みを相談する場がない。社会システムの仕組みの部分で、私自身が知らなかったことが多くて、来てくださる方たちと一緒に学ばせてもらっています。
「ガラスの天井」だけでなく「ベトつく床」の解消を
——「地方から女性がいなくなっている」という話題があります。この件について、どう見ていらっしゃいますか。
これまで「ガラスの天井」という言葉が使われてきました。山形でも女性管理職が思うように増えなかったり、女性の賃金が低かったりと、行政はそこをなんとかしようとして、キャリアアップの講座に予算をつけて、上に行きたい人がいけるような仕組みを整えようとしています。
一方で私たちが見ているような、ケア役割を担わされているがゆえに家から出ることすらできなかったり、就労自体が難しい若年女性への支援は非常に少ないんです。婚活のようなわかりやすいものや、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)に関する啓発には予算が出る。本当に必要なのってそこなんでしょうか、という思いがあります。
「ガラスの天井」に対する言葉として、低賃金や固定的な性別役割から抜け出せない状態を示す「ベトつく床」という言葉を聞いたことがあって、まさにそれじゃないかと思いました。上に行こうとする人への支援はもちろん必要ですが、今まさに床に這いつくばって、立ち上がることすらできない状況にいる人たちにも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
——家庭環境が苦しくて、逃げるように出ていく人もいらっしゃるのでしょうか。
そうですね、決して余裕がある状況ではないけれども「もう地元にはいられない」と出ていく人もいます。居場所事業をやるにあたって、いろいろな地域の若年女性支援団体を回らせてもらったのですが、東京でも仙台でも札幌でも「山形から来ていますよ」と伺いました。流出とは、いわゆる上昇志向で出ていく人だけではなくて、地元では生きられないから出ていく人もいることを行政には知ってほしいです。
選択肢の少なさの問題もあります。学生の方から「山形には友達もいるし、自然も食べ物もいい、ごみごみしていない、できれば暮らし続けたい。けれど、やりたい職業がなかったり、家庭が経済的に苦しいので自分が家にお金を入れなければならず、少しでも賃金のいい地域に行くしかない」というお話を伺ったこともありました。
それでも山形で活動を続ける理由
——活動を続けるうえでの困難はありますか。
金銭面はかなり厳しいです。助成金は民間も含めて種類はあるのですが、多くは申請の時期が重なっていて、同じ事業で複数の助成金に応募できなかったり、結果が出る時期が近いためにずらして応募することもできなかったり、複数採択されてしまったら対応できないんじゃないかと思って申請を躊躇ってしまう部分もあり、難しさを感じています。
代表理事には人件費を出さないという立て付けの助成金も多くて、私のように代表がNPOに専念している場合、生活が成り立たなくなってしまいます。現在も休眠預金の活用制度が2月末で終了して、3月以降は無給で運営している状態です。お金はないのですが、定期的に来てくれてここがよりどころになっている人もいて、閉めるわけにはいかないので、週2回の居場所は開き続けています。
——大変なことも多いと思うのですが、どういった思いで続けていらっしゃるのでしょうか。
私は秋田生まれで、中学2年生のときに親の転勤の都合で山形に来て、それ以降はずっと山形で暮らしています。山形でいろいろな人間関係ができていく中で、人との出会いが大事になっていきました。女性たちが生きづらさを抱えている声を聞くたびに、自分のためにも、これから地域を担っていく人たちのためにも、大人の責任として変えていかなければと思うんです。
正直なところ、若い人で山形から出たいと思っているなら出ていったほうがいいと、現時点では思う部分も大きいです。でも「いつか帰ってきたい」「本音では帰ってきたいけれど、この部分は嫌だ」と思っている人も少なくない。それなら地域の中の息苦しさを改善していくのが自分の役割なんじゃないかと思って、活動を続けています。
【プロフィール】
小笠原千秋(おがさわら・ちあき)
自身のハラスメント体験を誰にも話せなかった、話す場がなかったという経験から2022年にSisterhoodを立ち上げ、2024年3月に法人化。
Sisterhood(シスターフッド)とは女性同士の連帯を意味しますが、女性に限らず性的マイノリティの人や外国にルーツを持つ人、障害がある人など、社会的に弱い立場に置かれている人たちが、差別排除されることのない社会を目指して活動中。また、志を共にするさまざまな立場の人たちと連携し、誰しもが生きやすい地域社会にしていくために、活動の輪を広げていきたいと考えています。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く





