か弱いことより、強い方がうんと良い。「40歳からの体力作り」はどんな変容をもたらすのか
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
『魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべき時』(世界文化社・刊、訳:田中千晴)は、韓国でベストセラーになったエッセイです。著者のイ・ヨンミさんは、25年以上のキャリアを持つ書籍編集者。運動を始める前は、身長153センチ、生まれつきの虚弱体質、出版社勤務13年目にして重度の高血圧が発覚した、どこにでもいる普通の40代女性でした。
そんな彼女は、40歳を超えてから運動を始め、トライアスロンを完走するほどの体力を身につけました。少しずつ、コツコツと運動を重ね、50歳になる頃には、40歳の頃よりも強靭な肉体を手に入れられたと言います。本書は、発売されるとともに瞬く間に重版を重ね、現在までに二十二刷を超えるロングセラーになった上で、現在、「女性が自身の体・運動への関心を高めた一冊」として評価されています。
彼女がこの本に込めたメッセージは、至ってシンプル。40歳は、体を味方につけ始めるのにちょうどいい年齢であり、体力を鍛えるのに、特別な才能も、鉄の意志も、高価なジムの会員権も必要ない、というものです。
40代からの運動で、体力・筋力の低下を抑えるどころか、アップさせることができる
ところで、なぜ40代から体を鍛えた方がいいのでしょうか?
40代は、一般的に体力がむしろ失われやすい年齢だと言われています。疲れやすい。眠りが浅い。階段で息が上がる。かつてなんでもなかった動作が、少しずつ億劫なものに変わっていく……そんな時、多くの人は「年だから仕方ない」と諦めがちです。
実際、年齢とともに筋力や体力の低下は確かに起きます。しかし、運動して体力をつければ、その低下を食い止めるどころか、体力をアップさせることだってできるのです。
体を味方につけると、人生の景色が変わる。頭脳労働者にこそ、体力は必要
40代から適切な運動を始めることで、骨密度の低下を緩やかにし、基礎代謝を維持し、ホルモンバランスの乱れによる不調を和らげる効果も期待できます。
さらに近年の研究では、定期的な有酸素運動が記憶力や集中力など認知機能にも良い影響を与えることが示されています。著者は、頭を使う仕事をするためには、運動は最適だと述べています。精神力を支えてくれるのは体力であり、研ぎ澄まされた頭脳労働者として長く生きるためには、何よりも体力をつけなければならない、と著者は言うのです。
何より重要なのは、50代・60代の体は、今日、あなたがする選択によって変わってくるということです。10年後の自分のために何かできるとすれば、今日体を動かすことでしょう。
今日、体を鍛えることは、未来の自分に対する贈り物であり、セルフケアの一種だとも言えそうです。
強くなることは、美しくなること
心理学者アルバート・バンデューラは「自己効力感」という概念を提唱しました。これは、「自分にはできる」という感覚を持つ人は、実際にさまざまなものにチャレンジする勇気を持てる、という概念です。
運動には、この自己効力感を育てる力があります。日々、コツコツ運動することができたと言う小さな積み重ねが、「私はできるんだ」という実感そして、自信に変わっていくのです。そしてその実感は、仕事や人間関係にも影響を与えます。
女性は、「痩せていること=美しいこと」という社会規範を内面化していることが多々あります。メディアで持てやはされる女性像に日々触れている女性が、摂食障害を罹患するケースも珍しくありません。「痩せていること=美しいこと」という概念は、女性の健康にとって有害であるケースが多いようです。
著者は「スリムな体にこだわる人たちへ、こう言ってあげたい。か弱いことよりも、強いことの方がうんと美しい」と言い切っています。
体を鍛えることで、「自分にはできる」という気持ちが高まり、仕事にも集中できて、さらに美しくなれるとしたら……体を鍛えない手はないでしょう。
「やる気が出たら始める」では、永遠にやらない。習慣化できるきっかけを作ろう
ただし、運動をしたいとは思っているけれど、実際に始めるきっかけがない、という人も多々います。
「運動しなきゃとは思っているんですけどね〜」。これほどよく耳にする言葉も、なかなかありません。
行動科学者のBJ・フォッグは、行動変容において「やる気」はほとんど当てにならないと述べています。やる気は感情であり、感情には波があります。やる気が出るのを待つのは、雨が降るのを待って洗濯するようなものです。晴れる保証はどこにもありません。
では運動を始めるために、何が有効かというと、「これをしたら運動をする、というきっかけを設定すること」です。歯を磨いたあとにスクワットをすると決める。コーヒーを待つ2分間に体を伸ばすと決める。朝起きてすぐにヨガマットを広げると決める。こういった具体的なきっかけの設定が必要なのです。日常の習慣に紐ついたきっかけを設定することで、運動が続けやすくなるでしょう。
ヨガは40代の体力作りに最適
著者は、トライアスロンの実践者でもあるため、おすすめの運動として「水泳」を挙げています。確かに、水泳は全身を使う運動であり、体を鍛えるのに向いています。しかし、水着を揃えたり、プールに通ったりと、なかなか手間がかかるのも事実でしょう。
「運動を始めたいけれど、準備に時間やお金がかかるものはちょっとハードルが高いかも……」という方にこそ、ヨガをすすめたいと思います。
ヨガは、競うものでも、追い込むものでもありません。自分の体と、静かに対話するためのものです。呼吸を整えながらポーズをとることで、硬くなった筋肉をほぐし、体幹を育て、自律神経のバランスを整えていく。40代以降に起きやすい、肩こり・腰痛・睡眠の質の低下といった不調に、ヨガはことのほか相性がいいのです。
さらに、ヨガには「今この瞬間に集中する」という特性があります。これはマインドフルネスと重なる感覚で、慢性的なストレスを抱えやすい40代の女性にとって、体だけでなく心への作用も大きいとされています。特別な道具は必要ありません。マットひとつあれば、今日から始められます。
ヨガで運動習慣ができて自信がついてきたら、水泳やランニング、テニスなど、そのほかの運動にもチャレンジしよう、という気持ちが湧いてくるかもしれません。
頭がモヤモヤしているときこそ運動が効く!今日から、5分だけ始めてみよう
心配事がある時ほど、運動は役に立ちます。問題を解決しよう、と集中すればするほど、ドツボにハマってしまう前に、現実から抜け出し、少し体を動かしてみましょう。
もちろん、そうしたからといって心配事が消えるわけではありません。ですが、運動は、メンタルを強化するのに、魔法のように効果を発揮することがあります。気分が変わり、ポジティブな気持ちになります。
ストレスが溜まっているときこそ、思い切って、体を動かしてみましょう。
「よし、じゃあ明日から始めよう」は、人類が発明した最も巧妙な先延ばしの言葉です。
今、5分だけ体を動かしてみましょう。呼吸を意識しながら、5分だけストレッチする、動画を見ながら少しだけスクワットしてみる、そんな些細なことから始めてもいいのです。ちょっとした積み重ねが、より強い自分を作り上げていきます。
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