「こう愛されたかった…」が全部ここにあった。自分の世界が豊かになる「ぬいぐるみの愛し方」|ぬい活体験談

「こう愛されたかった…」が全部ここにあった。自分の世界が豊かになる「ぬいぐるみの愛し方」|ぬい活体験談
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ぬいぐるみと暮らす人々が増え、「ぬい活」という言葉も広く浸透しつつある今、ぬいぐるみとの向き合い方を深く掘り下げた『ぬいぐるみの愛しかた』(青月社)。著者の袴田実穂さんに、ぬいぐるみの「心」の捉え方や、ぬい活の楽しみ方についてお話を伺います。ぬいぐるみに感情を見出し、その声に耳を傾けることで世界が豊かになっていくという袴田さん。本書に込められた想いとともに、ぬいぐるみと生きることの温かさを伺いました。

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ぬいぐるみに「心」があるという捉え方

——袴田さんはどんなぬいぐるみと一緒に過ごすことが多いですか?

家には数えきれないくらいいるのですが、よく一緒に過ごす子は「15ぬい」ほどですね。一緒にいて落ち着いたり、気持ちが通じやすいと感じたりする子と一緒にいることが多いです。

科学的な説明は難しいのですが、自分の感覚として、「楽しそうだな」「笑ってるな」「怒ってるかも」といった感情が見えやすい子がいます。何に心を動かされるのか、分かりやすく「見える」子のほうが、一緒にいて楽しいんです。

——本書は「ぬいぐるみにも心がある」という前提で書かれていますが、ぬいぐるみを「もの」として見ている方もいらっしゃると思います。袴田さんご自身は、ぬいぐるみの「心」をどう捉えていますか?

私自身は、文学に対する向き合い方と近いと感じています。たしかにぬいぐるみは布と綿の塊で、それは事実として間違いではありません。

ただ、そう言い切ることは、ぬいぐるみと向き合ううえで豊かな心持ちではないと思うんです。

例えるなら、ファンタジー小説を読んで「そんなこと起こるわけないじゃん」と切り捨てることに似ている気がして。見えないものをあるように見ることで、解釈は何通りにも広がっていく。その世界に深く潜ったり、現実の世界とは別の想像を膨らませたりといった体験が、自分の内側を耕していくと思っています。

——ぬいぐるみの「心」を考えることで、自分の世界が豊かになっていくのですね。

実は、今でも私は自分が存在していることをありがたいとか、素晴らしいとは思えていなくて……。それでも生きていく意味を感じる瞬間はあります。

たとえば大きな書店へ行くと、まだ読んだことのない本が何万冊と並んでいて、その光景を目にするたびに「私にはまだこんなにも知らない世界が残っている」と人生を前向きに受け止められます。私にとって物語は、自分が選ばなかった生き方や感情の色を教えてくれる存在ですが、そうした気づきを得る体験はひとつでも多く持っていたほうが、世界を見る目が鮮やかになると思うんです。

——ぬいぐるみの表情を感じ取ったり、感情を読み取ったりすることも、自分の世界が広がる感覚になっているのでしょうか?

「笑っているな」「寂しそうだな」と考えるだけで、生活を楽しむ余白が生まれます。

言ってしまえばただの妄想ですが、笑っていると思いさえすれば「なんか良いことあったのかな?」と、その表情の背後にひとつの物語を生み出せますよね。実際には起きていないと分かっていても、そう考えていたほうが日々は豊かになると思うんです。

——私はぬいぐるみに愛を注いで過ごしているのですが、袴田さんはぬいぐるみの心を読み取りながら過ごしているんですね。ぬいぐるみ好きの中でも楽しみ方に違いがあるのがおもしろいです。

少し話がずれるかもしれませんが、本書を作り終えたとき「自分がどこかで求めていた愛を詰め込んだ作品」だと感じました。制作過程で意図していたわけではなく、完成したときに「これは自分が『こう愛されたかった』の塊だ」と思ったんです。

私はずっと父親に対して、私への興味の持ち方を知らない人だと感じていました。暴力を振るわれたり暴言を浴びせられたりといったことはなく、物質的な豊かさは出し惜しみせず用意してもらったと思います。ただ、娘として父親から愛されていると感じた瞬間は絞り出しても思い出せないんです。

こうしたコンプレックスがどこまでぬいぐるみとの関わりに繋がっているかはわかりませんが、自分からぬいぐるみへの愛や「可愛い」の気持ちを一方的に伝えるというよりは、ぬいぐるみたちを大切にする分、自分にも同等の愛を向けられてみたいという思いが潜在的にあったのかもしれないですね。

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「ぬい活」の楽しみ方

——「ぬい活」をこれから楽しみたい方へ、初心者向けのポイントを教えていただけますか?

SNSで目にするものとしては、「ぬい撮り」の写真が多いと思います。一緒にお出かけして写真を撮ることは始めやすいのではないでしょうか。

撮るときに心がけたいのは、その子が撮られてうれしい場面にのみカメラを向けること。人間を撮影するときも、盛れる角度から撮ってもらえたほうがうれしいし、まばたきの途中を写した1枚なんて残してほしくないですよね。

ぬいぐるみに対しても同様に、どの角度が一番可愛く映るか、その写真を見せたときに喜んでもらえるか考えながら撮ると、盛れる写真になりやすいです。そうした工夫をすることで、「人間本位のぬい活」にはならないんじゃないかなと思います。

——同じ子でも角度が違うと印象が変わりますよね。

そうなんです。ある角度から見ると怒ったような表情の子も、角度を変えてカメラを向けるとクリクリの目がばっちり見えるなんてこともあります。なので撮り方は重要なんです!

毛並みを整えてから撮ってあげるのもポイントです。毛流れによって険しい表情に見えたり、目元が隠れてしまったりするので、スタイリストの気持ちで整えてから撮影しています。

——本の中でぬいぐるみ病院さんについても紹介されていますが、新しく知ったことはありますか?

実際のケアについてですが、ホットタオルで拭くだけでも汚れが取れることです。

私は今までずっと洗面器にお湯を張って丸洗いしていたのですが、乾くまで時間がかかったり、毛並みがわかりやすい子だと、濡れるだけでボサボサになったり、重みで体の形が変わってしまったりもしたんです。

タオルで拭くだけなら、お出かけの後にも簡単に清潔を保てるので、もっとひろく知られるようになれば、ケアしやすくなるぬい主さんが増えるだろうなと思って、ぜひ共有したいと思いました。

——他のぬい主さんへのインタビューを通じて、何か気づいたことはありましたか。

インタビューを重ねるうちに、ぬいぐるみに向ける愛は人それぞれで、正解は一つではないことを強く感じました。人それぞれ、ぬいぐるみとの「嬉しい」は違うことをお話を伺う中で実感しました。

感覚的な話になってしまうのですが、皆さんとやり取りをする中で、ほかのコミュニティでは経験したことのない柔らかい空気が伝わってきて、ぬいぐるみと一緒に暮らす人ならではの温かさのようなものも感じました。

——ぬい活ブームが広がっていく過程もリアルタイムでご覧になっていたと思いますが、どう感じていましたか?

私も含め、長い年月ひそかにぬいぐるみを好きで一緒に過ごしてきた方はたくさんいらっしゃると思います。そこに「ぬい活」という枠組みが生まれて、私たちが「生活」の一部としてあえて区別することもなかった行為に名前がついたわけです。だから正直なところ最初は不思議な感覚もありました。

とはいえ、ぬいぐるみたちと過ごす時間(概念)が「ぬい活」という言葉を介して誰かと共有できるようになったことで、今までこっそりぬいぐるみを好きだった人も「実は好きで」と言い出しやすくなったり、同じ趣味の人たちが出会いやすくなったりしている。これは喜ばしいことだと思っています。

——「ぬい活」に関するサービスやグッズも増えましたよね。

そうですね。今は100円均一でもぬいぐるみ用の服や家具が手に入ります。ぬいぐるみサイズのお菓子を出してくれるカフェや、ぬいぐるみサイズのベッドやガウンがついてくるプランを出しているホテルもあって、ぬいぐるみとの生活を充実させやすい環境が整ってきたことを実感します。

こうした環境は、ぬいぐるみと暮らした期間の長さにかかわらず、ぬいぐるみと共に生きるみなさんにとって優しいものですよね。もっとブームが広まっていけば、私がかつて感じていた「恥ずかしいんじゃないか」という思いを抱える人も減って、堂々と「ぬいぐるみが好き」と言えるようになるのではないでしょうか。

 

『ぬいぐるみの愛しかた』(青月社)
『ぬいぐるみの愛しかた』(青月社)

【プロフィール】
袴田実穂(はかまだ・みほ)

2001年東京都生まれ。書籍編集者。
早稲田大学文学部卒業。2024年より株式会社青月社に勤務。
ベッド総面積の半分をぬいぐるみが占めている。

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『ぬいぐるみの愛しかた』(青月社)