<ぬいぐるみを愛する人々の物語>を描く著者が語る「大人もハマる、ぬいぐるみの持つパワー」

 『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)より
『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)より

かつては「ぬいぐるみ=子どものもの」というイメージでしたが、最近は大人がぬいぐるみとの時間を楽しむことも珍しくなくなっています。小さい頃からそばにいてくれたぬいぐるみがいる人、大人になってから苦しいときにぬいぐるみに支えられた人もいらっしゃるのではないでしょうか。『わたしのぬいぐるみさん』(著:こやまこいこ、協力:ぬいぐるみ病院、KADOKAWA)では、ぬいぐるみを愛する人々の14の物語が描かれています。著者のこやまさんに、制作を通じて「ぬいぐるみ」に対して感じたことや、ぬいぐるみのホツレやヘタリなどをなおしてくれる「ぬいぐるみ病院」さんの魅力について伺いました。

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ただ「かわいい」だけではない、大切な存在

——本作では、小さい頃から共に暮らしたぬいぐるみとの思い出や、ぬいぐるみが心の支えになってくれること、夫婦が子どものようにぬいぐるみをかわいがる様子などが描かれています。ぬいぐるみを愛する方々のお話から、想像を膨らませて物語として構成されているとのことですが、インタビューをする中で印象に残っていることはありますか?

インタビューはリモートで実施したのですが、多くの方が画面にぬいぐるみを映している状態で、画面外で隣に座る形でインタビューを受けてくださって。その光景がかわいいものでしたし、ぬいぐるみと話している感覚になるインタビューで、楽しかったです。

インタビューを受けてくださった方々の手元から、大事にぬいぐるみを扱っている様子が伝わってきたのも印象的で、その様子が伝わるように描きました。

——取材や制作を通じて、「ぬいぐるみ」というものの存在や、「ぬいぐるみとの生活」への印象の変化はありましたか?

今家にいるぬいぐるみたちを「これからも大切にしよう」という思いが高まりました。また、外出した際に、道行く人たちがぬいぐるみを持っていると、絵に描きたいと思う気持ちも強まっています。

インタビューをする中で、私が思っていたぬいぐるみの存在よりも切実に「生きていくためのパートナー」のように、ぬいぐるみを大切に思っている方がたくさんいらっしゃることを、知ることができました。ワンちゃんや猫ちゃんのようにペット・家族として大事にされている方もいらっしゃると解釈して、漫画を描いています。

——作中では、外でぬいぐるみをかわいがったり共に過ごしたりする際に、周囲の目を気にしている話が何度か登場しています。取材した方々からも、そのようなお話が出てきたのでしょうか?

そうですね。「一緒に出かけたいけれども、周囲の目が気になって遠慮してしまう」とおっしゃっている方は多かったのですが、それが切ないと感じて。一方で、一緒に出かけない理由が「汚れたりなくしたりするのが心配」という方もいらっしゃいました。

なので、それぞれのタイミングで、無理のない範囲でお出かけを楽しむことができたらいいなと思います。加えて、ぬいぐるみと一緒にお出かけしている人を見て何か思ったとしても、何も言わないことも大切だと感じました。

——「ぬいぐるみ病院」さんの魅力についてお話しいただけますか?

ぬいぐるみ病院さんのホームページXアカウントを見ると、ぬいぐるみを「命ある存在」としてお迎えしていることが伝わってきます。預ける際には「もんしんひょう」にて要望をヒアリングしてくださるなど、丁寧にご家族の意思を汲んでくださるので、安心して預けられるのではないかと思います。

ぬいぐるみ病院さんの写真を見ると、世界観やストーリーがきめ細かく作られていて、写真を見ているだけでも楽しい気持ちになります。

『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)より
『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)より

一緒に暮らしたぬいぐるみは、かけがえのない存在

——こやまさんは、ぬいぐるみとどのような思い出がありますか?

小さい頃は、ぬいぐるみがすごく好きで、窓辺にたくさん並べていました。家で一緒に遊ぶことが多かったです。大好きだったハムスターのぬいぐるみがいて、私が遊んでいるときに目が取れてしまって、母が代わりにどんぐりをうめこんでくれたのですが、それが怖くて大泣きした記憶があります……(笑)。そのエピソードは作品にも取り入れています。

子どもが生まれてからは、子どもたちが大切にしていたぬいぐるみと共に、その当時の色々な思い出も詰まっています。子どもたちにとって、ぬいぐるみは、寂しいときにそばにいて、話し相手になってくれたり、寄り添ってくれたりする存在でもあります。簡単なものですが、ぬいぐるみのお洋服を作ってあげたり、一緒にお出かけしたりと、楽しかったです。上の子が裁縫が上手で、私にぬいぐるみを作ってくれたことがあって、今はその子を大事にしています。

娘が幼い頃に、相棒のように大切にしていた白猫のぬいぐるみがあったのですが、旅行先でなくしてしまって。今でも「もっと探してあげれば」「私がちゃんと見ておけばよかった」と思い出して悲しくなります。たとえ同じようなぬいぐるみを買ったとしても、その子ではないのですよね。一度、一緒に暮らし始めたぬいぐるみは、代わりがいない、かけがえのない存在になるのだと思います。

——ぬいぐるみにはどのようなパワーがあると思いますか?

入院のときや、災害時の避難用リュックにぬいぐるみを入れておくといい、という情報を見たことがあります。人が不安な状態のときに、ぬいぐるみがいることで、心が和らぐこともある。目には見えないけれども、大きな力を持っていると感じます。

触れたり抱きしめたりして安心できる存在がいると、つらい現実と向き合う中で、休憩にもなりますし、また少し頑張ってみようという気持ちにもなれる。単にかわいいだけではない、持ち主を支える力があるのだと思います。

疲れているときでも、心に入ってくる作品を

——こやまさんは作品づくりでどのようなことを大切にしていますか?

シンプルですが、「読みやすく・わかりやすく」を大事にしています。ネームや下書きを描いていると、脱線したり、余計なセリフを入れてしまったりしがちで……。そういうときには、もう一度、本当に何が伝えたいのかを思い出して、整理するようにしています。

また、疲れているときでも読めるものにしたいとも思っています。私自身が疲れていたり、しんどかったりするときには、攻撃的な言葉や、殺人事件の小説のようなハードなものは読めないので、そういうときでも心に入ってくる言葉やイラストをイメージしながら描いています。

『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)
『わたしのぬいぐるみさん』(KADOKAWA)


【プロフィール】
こやまこいこ

漫画やイラストなどを描いています。夫と娘2人とトイプードルと暮らしています。
代表作『もぐの夜』(パイインターナショナル)『次女ちゃん』シリーズ(扶桑社)『わたしのぬいぐるみさん』『スキップするように生きていきたい』(KADOKAWA)、『ふしぎなメリーゴーランド』(徳間書店)、『脱・呪縛』(理論社)といった書籍の表紙や挿絵なども手がける。好きな食べ物はたこ焼き。1日の終わり湯船につかりながら本を読むと気持ちが整います。
 

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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