お金がないのに奢ってしまう。安定収入があるのに貯めても不安が消えない。なぜこんなに「苦しい」のか
社会的に活躍し、経済的にも恵まれているはずなのに、なぜかお金のことで心が揺らぐ——。衝動買いや罪悪感の裏にあるのは、意志の弱さではなく「心のサイン」かもしれません。お金の不安に“寄り添う”専門家・ファイナンシャルセラピストの岸原麻衣さんが、お金の使い方を通して本当の不安を紐解く連載です。
「本当は貯めたいのに、つい使ってしまう」「お金を使うたびに、なんだか罪悪感がある……」。現代を生きる私たちには「自己コントロール感」や「ケア」への渇望感があることを先日書きました。では、なぜ私たちは、これらの渇きをお金で埋めようとするのでしょうか。そのルーツを探っていくと、自分でも気づかないうちに家族から受け継いだ「マネースクリプト」が見えてきます。
マネースクリプト:心に書き込まれた「お金の脚本」
マネースクリプトとは、いわば「お金にまつわる人生の脚本」です。私たちは幼い頃から、親のお金の使い方や、家庭内に漂うお金の空気感を、疑うことなく吸収して育ちます。
「お金の話をするのは卑しいことだ」
「贅沢は敵であり、常に備えなければならない」
「愛しているなら、高価な贈り物をするのが当然だ」
これらは、その家族の中だけで通用する独自のルールです。しかし、子どもにとって家族は世界のすべて。そのルールが「世界の普遍的な真理」であると思い込んだまま、私たちは大人になります。色々な経験をしたり、ファイナンシャルセラピーを続けていく中で初めて、それが「我が家だけのルール」だったことに気づくのです。
「なぜか苦しい」の正体
たとえば、安定した収入があるのに「お金がなくなる不安」が消えない30代の女性がいらっしゃいました。話を伺っていくと、小学生の頃、海外旅行に出かける友達をうらやむ彼女に、母親は「うちはお金がないから我慢して」と言い聞かせたそうです。けれど事実は違いました。本当は裕福だったのに、旅行が嫌いな母親が娘を黙らせるための作り話だったのです。その場限りのはずだった嘘が、何十年も彼女を縛り続けていたのでした。
一方で、部下や友人と食事に行くと、まるで反射のように「ここは私が」と全額支払ってしまう40代の女性。本当は自分の将来のために貯金したいのに、ついつい誰よりも先にお財布を出してしまう。そんな彼女の父親は、地域の有力者。毎週のようにお客様を招く家庭で、幼い頃から「ケチなところを見せたらおしまいだ」「人には気前よくしなさい」と厳しく躾けられていました。
「違和感」は自分らしく生きるためのヒント
日常のふとした瞬間にも、あなたのお金にまつわる脚本は顔を出します。たとえば、いつもリッチなディナーを提案してくる友人に「なんて浪費家なんだろう」と唖然としたり、逆に自分が選ぶ手頃な店を「恥ずかしい」と感じてしまったり。パートナーとの金銭感覚の違いに、言葉にできないほどの絶望感を覚えたり。
「なぜか不安」「ついイライラする」といった感情は、あなた自身のマネースクリプトに気づくヒントになります。モヤッとしたり、気持ちがザラついたりした時には、立ち止まって、心の中でこんなふうに問いかけてみてください。
「私は今、何に『おかしい』と感じたのかな?」
「このお金の価値観、もしかして誰かから教わったもの?」
あなたの心に書き込まれたマネースクリプトは、すぐには見つからないかもしれません。あるいは、見つかっても簡単には手放せないかもしれません。
それもそのはず。お金の価値観は、かつてあなたが家族の中で自分を守り、愛されるために、身につけてきたものだからです。まずは、今日までその脚本通りに頑張ってきた自分に、お疲れさまと伝えてあげましょう。
こうして、違和感を辿り、ひとつずつ言語化していくプロセスが、自分自身の手で「新しい脚本」を書いていくための力になっていきます。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く




