貯金・老後・キャリア…40代の『お金がずっと不安』はなぜ起こる?心の鏡としてのお金について、専門家に聞いた
仕事・家庭・老後・自分のキャリアなど、“人生の後半戦”を意識したモヤモヤが一気に押し寄せてくることはありませんか。特に「お金の不安がずっと消えない」「これからどんな金銭感覚で生きればいいの?」といった悩みは、向き合い方がわからず、心に影を落としがちです。今回は、ファイナンシャルセラピストとして活動する岸原麻衣さんに、「お金と不安」をテーマにお話をお聞きしました。Vol.1ではファイナンシャルプランナーとの違いから、「お金の悩み=心のSOS?」という気づきまで。40代が抱えやすいお金の不安の正体と、その向き合い方をひも解いていきます。
お金にまつわる心理的な領域を扱うファイナンシャルセラピスト
――まずは、ファイナンシャルセラピストについて教えてください。ファイナンシャルプランナー(FP)とは、どう違うのでしょうか。
岸原さん:ファイナンシャルセラピストは、お金にまつわる困りごとのなかで、一般的なFPとの相談では踏み込めない心理的な領域に焦点を当てて、問題を解決していこうとする専門家です。一般的なFPは、家計管理や税制、保険の変更、資産運用などの実務や計画に伴走するパートナーになりますが、ファイナンシャルセラピストはどちらかといえば、プランを実行していくうえでの障壁になっている心理的な部分、感情や行動を扱うというのが大きな違いです。
ファイナンシャルセラピーは、2008年のリーマンショックによる世界的な金融危機をきっかけに、FPと心理の専門家が協働して生まれました。家や職を失うなど生活の基盤が揺らいだ人々を支援するためには、具体的なお金のことだけでなく、メンタルのケアが必要でした。しかし、FPには「お金の専門知識では、その背景にある心の問題までは扱えない」という限界があり、一方で心理の専門家にも「具体的なお金の話に伴走するのは難しい」という課題があったのです。異なる分野の専門家たちが、それぞれの顧客に最善の支援をしようとした結果、「お金の問題は、感情的、行動的な問題と結びついている」という認識を共有し、手を取り合ってこの領域を発展させてきたといえます。
――岸原さんご自身は、もともとFPでいらっしゃるんですよね。
岸原さん:そうですね。私は新卒で証券会社に入社して、そこで働いたあとに心理学の勉強を始めました。キャリアとしてはガラッと変えたように見えますが、これは私自身が金融の業界で「この先も頑張り続けられるだろうか」と感じていたことと、富裕層のお客さまと日々お会いするなかで「お金に余裕があっても、お金についての悩みは絶えない」ということを目の当たりにしたのがきっかけです。
当時の私には、驚きでした。富裕層の方がお金にまつわる心理的な問題をかけているなんて思ってもいなかったですから。もともと心理学に興味があり勉強をしていく過程で、ファイナンシャルセラピーという分野があることを教えてもらい、これまでの経験を活かせるのではと感じました。現在は、FP、臨床心理士、公認心理師として、心理療法を基盤にしてご相談をお受けしています。
お金を使ったときの気持ちを自分で把握する
――やっぱりお金の悩みとメンタルの悩みは切り離せないものなんですね。
岸原さん:その通りです。お金の悩みというのは、心の悩みがお金に投影された状態。心とお金は、いわば鏡合わせになっています。だからこそ、どちらか一方ではなく、両方を一緒に見ていく必要があると考えています。
漠然としたお金の不安というのは、大きく塊になっているから「どうしたらいいんだろう」と扱えないように感じてしまうんですが、それを少しずつ細分化していくと「これはこういう問題があって、だからこういう不安が生まれていたんだ」とわかってくるんですよね。まずはそれだけでも心が軽くなっていくと思います。
――岸原さんのもとには、どんな方が相談にいらっしゃるのでしょうか。
岸原さん:FPに相談をしたことはあるけれどその場限りで終わってしまった、言われるがまま家計を見直したが自分のマインドはなにも変わっていない、資産運用を始めたものの将来の不安は消えない。そういった方が多いですね。
人生の後半が見えてきたタイミングで、これまでお金に振り回されてきた感覚がある方や、お金にまつわる幼い頃からのトラウマを自覚していて「そろそろ扱えるのでは」と感じて相談に来られる方もいらっしゃいます。ファイナンシャルセラピストというまだ新しい分野の専門家を見つけて相談に来られるわけですから、お金のことに自ら向き合おうという強い思いや自立心を持っている方が多いです。
――人生の後半戦を見据えて相談に来る方が多いとのことですが、今持っているお金の不安に向き合う最初の一歩として、どういう視点を持ったらいいでしょうか。
岸原さん:セルフケアとしてできることだと、「何が自分にとって一番脅威になっているのか」を可視化するといいと思います。例えば、お金を使ったあとに「こんなに使ってよかったのだろうか」と不安になることがあるとします。お金を使った瞬間には必ず感情が動いているんですよね。それをジャーナリングのような形で書き出すのがおすすめです。
従来の家計簿では金額と用途を書きますが、その代わりに、そのお金を使った瞬間にどんな気持ちになったのか、どんな思いで支払ったのか。それを書いていくと、自分がどんなクセを持っているのかが見えてきます。お金の不安に向き合うための第一歩として、どんなときにどんなふうに不安が出てくるのかを丁寧に辿っていく方法です。
例えば、仕事帰りにすてきなバッグを見つけて衝動買いをしたときに、心が躍ったのか。「買っちゃった」とドキドキしたのか。それとも「これで周りより優位に立てる」という思いがよぎったのか。お金・感情・体の動きをセットで見つめることでクセがわかり、次に衝動買いしそうになったときに立ち止まるきっかけになるのではないでしょうか。
お話を伺ったのは…岸原麻衣さん
臨床心理士/公認心理師/AFP(日本FP協会認定)
金融機関勤務を経て、お茶の水女子大学大学院 博士前期課程を修了後、臨床心理士と公認心理師を取得。2017年からプロフェッショナル・サイコセラピー研究所〈IPP〉に在籍。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く
