なぜ一度使うと止まらない?それは意志の弱さが原因ではない|ファイナンシャルセラピストが語る、買いすぎの裏にある心理
社会的に活躍し、経済的にも恵まれているはずなのに、なぜかお金のことで心が揺らぐ——。衝動買いや罪悪感の裏にあるのは、意志の弱さではなく「心のサイン」かもしれません。お金の不安に“寄り添う”専門家・ファイナンシャルセラピストの岸原麻衣さんが、お金の使い方を通して本当の不安を紐解く連載です。
「今日は春の新作コスメをひとつだけ…」 そう決めていたはずなのに、気づけば両手にいくつもの紙袋を抱えている帰り道。あるいは、ベッドに入ってから寝落ちするまでの間、なんとなくスマホを開いて、気になっていたあれこれを次々とカートに入れていく。
続々と届く段ボールや、ショップのおしゃれな紙袋を片付けながら、「またやってしまった」と自分を責める——。
社会的に責任のある立場にあり、収入もいわゆるアッパー層。世間からは「バリキャリ」などと呼ばれてきた女性たちが、なぜお金のことになると、これほどまでにもろく崩れてしまう瞬間があるのでしょうか。
それは「意志が弱いから」でも「だらしないから」でもありません。 心が限界を迎えているサインなのです。
その「理想」はリアルか、幻想か
仕事帰りの駅ビル、ふらりと立ち寄ったショップでもらう「これひとつできちんとして見えますよ」という一言。SNSに流れる「30代で手にしたい一生モノ」「40代なら持っておくべき名品」というフレーズ。さらには 「オバ見え卒業」「老け顔が一気に垢抜け」といった煽り文句。
「理想の自分でありたい」「あの人みたいになりたい」という思いは、本来、あなたをモチベートしてくれる健全な感情です。しかし、その「理想」や「あの人」というのは、果たしてどのくらい現実感のある存在なのでしょうか。
私たちは、意図的に切り取られた一面しか見ていない。いつもおしゃれな取引先のあの人のオフは知ることがないし、インスタグラマーの「リアルな一日」は「いかにリアルっぽく見せるか」という趣旨のコンテンツであることも知っている。
でも、追いかけてしまう。幻想は、束の間に癒しになるから。
心のダムがオーバーフローを起こす時
私たちの心には、ダムのような機能が備わっています。一日に数千、数万もの微細なストレスにさらされる中で、イライラや不安といった感情を調節するために、脳は自動的に行動を起こします。
ダムの役割は、適切な水量を貯めたり、適切に流したりすることです。それによって人々の生活が守られています。しかし、予想外の水がダムの容量を超えたとき、水は堤体の上を乗り越えて「オーバーフロー(越流)」状態になります。
あなたのお金の使い方にも、これと同じことが起きているのかもしれません。
仕事では「責任者」の顔、家庭では「妻」や「母」の顔。身体も心も一つなのに、まるで複数の顔を持って生きているよう。誰にも頼れないという緊張感や、将来への漠然とした不安、そして「一人でしっかりしていなければ」というプレッシャー。その重圧が心のダムの水位をじわじわと押し上げますが、責任感の強い人ほど自分のことは後回しになりがちで、アラート音に気がつかないこともよくあります。
最後の何気ない一滴で、心のダムは一気にオーバーフローを起こします。一度あふれ出した感情の勢いは、自分自身のコントロールを軽々と超えていきます。この制御不能な感情を鎮めるために「とりあえずお金を使う」という行動が、脳内で自動的に選択されているのかもしれません。
名もなき「ざわつき」を鎮めるために
実は、オーバーフローが起こる直前、私たちの心にはあるサインが出ています。 それは、はっきりと「寂しい」とか「虚しい」と呼べるほど分かりやすいものではないかもしれません。ただ、何となく落ち着かなくて、胸のあたりがざわざわとする…。そんな「名前のつけられない空白」のような感覚です。
長年、強くあることを志してきた人ほど、こうしたネガティブな感情の扱い方を知りません。そんな感情に振り回されるのは弱さの象徴であり、当然ながら学ぶ機会を与えられなかったからです。しかし、強さ一辺倒で生きることは無理があります。陽のあるところには陰がある。ネガティブな感情や弱さといった「陰」にも同じように開かれてこそ、私たちはバランスが取れるのです。
オーバーフローを起こすまでに頑張っている自分を見つけたら、まずは、あなたの頑張りが「お金を使う」という激しい放流につながったことを、ただ静かに眺めてみましょう。ただ自分の身に起こっていることを、あるがまま、眺めるだけです。呼吸に意識を向け、どんな感じがするかを存分に味わってみましょう。想定外の感情が出てくるかもしれません。あるいは、最初はうまく感じられないかもしれません。それもまた眺めるだけ。ジャッジは必要ありません。
ファイナンシャルセラピーでは、こうした瞑想も取り入れながら、「あなたの心」を写す鏡である「あなたのお金の使い方」を一緒に見ていきます。
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