「また買っちゃった…」は、わがままじゃない。浪費の裏にある心のSOS|"お金の不安の専門家"が教える、向き合い方
「また買っちゃった…」「気づいたらお金が消えてる」など、そんな“つい使ってしまうクセ”に、実は深い心理的背景があるのだとしたら? 今回、お話を伺ったのは家計や運用の実務だけではなく、その一歩手前にある“心のつまずき”に向き合いながら、お金についてアドバイスを行う専門家・ファイナンシャルセラピストの岸原麻衣さん。買い物・浪費の心理、ためられない人に共通する無意識の思考パターンなどについて、お話をお伺いしました。
買い物依存は“わがまま”ではなくSOSのサイン
――“買い物でストレス発散”がクセになっている女性も少なくないのかなと思いますが、ファイナンシャルセラピストから見た買い物依存の本質とはどんなものでしょうか。
岸原さん:適度な買い物であれば、それは健全なストレス発散であると思います。買い物によって脳内に分泌されるドーパミンという快楽物質のホルモンは、心のバランスを保つのにとても役立ちますから。ただ、それが「依存」という状態にまで移行してしまうのが問題。依存は「痛みの自己治療」とも呼ばれます。ストレスや心の痛み、満たされない部分を満たすために買い物をして紛らわすようになり、どんどんエスカレートしていく。買い物依存は単なるわがままや贅沢ではなく、SOSのサインなんだということをまず理解してほしいですね。
――具体的には、どんなものをサインとしてとらえるといいのでしょうか。
岸原さん:買い物によって心の痛みを紛らわせることを続けていると、脳のセンサーの感受性が鈍ってきてしまい、どんなにドーパミンが放出されても元通りの満足感が得られなくなります。欲しかったものを買ったのに喜びが得られない、それどころか「またやってしまった」「私はいつもこうだ」と後悔や自己嫌悪に陥ってしまう。こうした感覚があったときには、すでに依存に片足を突っ込んでいるサインなので、そこを感知してもらえるといいのかなと思います。私のところでは、必要に応じて医療機関にもお繋ぎしています。
――買い物依存になりやすいのは、どんなタイプの人ですか。
岸原さん:完璧主義や自分に厳しい人。ストレスや感情を我慢してしまう人は、買い物に限らず依存になりやすいと言えます。「大人なんだから、人に頼らず自分でどうにかしなければならない」と考える人ほど、自己管理しなければいけないというプレッシャーを強く感じています。自分に厳しい目線を向け続けているがゆえでもあるのですが、とっくにキャパオーバーになっているのに気づいて認めてあげることができず、心の痛みを紛らわせるために買い物などで自己治療に走ってしまうことが多いのかなと。
依存というのは、“人に頼れない病理”とも言われています。人に頼らない代わりに物や行為に頼らざるを得なくなっている状態なんですよね。アルコール、ギャンブル、ドラッグ、セックス、ゲームなど対象はさまざまですが、人に頼れるようになってくると、物や行為に頼らなくても済むようになってきます。
――岸原さんのもとにも買い物依存、ついつい使いすぎてしまうという相談が多いのでしょうか。
岸原さん:お困りごととしては一番多いかもしれません。将来のことを考えるとお金を残しておきたいのに、つい使ってしまう。そのクセをやめるにはどうしたらいいのか、という相談ですね。はっきりと「これに使ってしまった」という支出が把握できると対処しやすいのですが、なんとなくダラダラと使ってしまっている方には、1カ月の収支をご一緒に見ながら「これはこういう感情で買ってしまった」というのを一つずつ確認していくこともありますね。
お金に対する価値観や考え方を振り返ってみる
――そういったついつい使いすぎてしまう、お金がためられないという人に共通する心理パターンや考え方はありますか。
岸原さん:お金に対する信念(これをマネースクリプトと呼びます)が無意識のなかにあり、それが健全ではない状態で固まり、絡み合っている、ということがあると思います。例えば「お金は自分には扱いきれないもの」「お金は悪いもの」「お金を前にすると自分はとても無力」といった信念が心の水面下で働いて「これだけ頑張ったんだから、このくらい使ってもいいよね」と過度に自分へのご褒美を与えてしまうケース。ご褒美自体はセルフケアとして良いのですが、頑張った直後だと衝動買いになりやすいので注意が必要です。「今私は、ご褒美を買うことで心の穴を埋めようとしている」といったことに気が付けるといいのですが、お金に支配されてしまっている状態では、それに気づくのが難しいんですよね。
――お金についての考え方や価値観は、育ってきた環境で無意識に作られていく部分もありますよね。
岸原さん:そうなんですよね。小さいときに見た周りの大人たちの価値観や行動様式は、お金のイメージとして無意識に蓄積されています。そのため、大人になって金融リテラシーを身に着けたとしても、頭で理解はできても感情や行動が伴わないということがよくあります。
例えば、記念日に高価な贈り物をし合う家庭で育ったとします。一見ロマンチックですが、実は世間体を保つためだったり、両親の関係が冷え切っていたりすることを子どもは敏感に感じ取っているものです。するとその子どもの心のなかには「本当の愛ではないとしても、お金をかければそれなりの愛情は手に入る」といった信念が少しずつ根を張っていく。その結果、大人になって人間関係につまずいたときに、お金をかけて相手をつなぎ止めようとしてしまうなどのケースもあります。
プレゼントなど“物に愛情を置き換えてしまうクセ”がある人は、一度自分を見つめ直してみるのがおすすめです。意識的であれば問題ありませんが、無意識にやってしまっている場合は、根深い背景があるのかもしれません。幼少期のことを丁寧に振り返ることで、「もしかしてこういうこと?」と仮説が立ってきたりします。難しいところもありますが、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。
お話を伺ったのは…岸原麻衣さん
臨床心理士|公認心理師|AFP(日本FP協会認定)
金融機関勤務を経て、お茶の水女子大学大学院 博士前期課程を修了後、臨床心理士と公認心理師を取得。2017年からプロフェッショナル・サイコセラピー研究所〈IPP〉に在籍。
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