「みんな我慢していると思ってた」性的関係が苦痛だった女性たちが友情結婚にたどり着くまで

「みんな我慢していると思ってた」性的関係が苦痛だった女性たちが友情結婚にたどり着くまで
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異性との性的関係を持てない・持ちたくない性的マイノリティの方々が、互いの理解のもとで法律婚をする「友情結婚」という選択肢をご存知でしょうか。この選択肢は、「結婚=恋愛」という固定観念に縛られない新たな生き方として注目を集めています。今回は『恋愛・セックスはいらない「友情結婚」新しい結婚の選択肢』(幻冬舎メディアコンサルティング)の著者であり、友情結婚専門の結婚相談所「カラーズ」を運営する中村光沙さんに、友情結婚の実態や当事者の思いについてお話を伺いました。

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「友情結婚」専門の結婚相談所を始めたきっかけ

——どのような経緯で「友情結婚」専門の結婚相談所を始められたのでしょうか。

高校1年生のとき、父の仕事の都合でアメリカへ行くことになり、私もカリフォルニアで高校生活を送りました。その後ニューヨークの美大に進学し、2年目からファッションデザインを専攻したのですが、そこでは教授も学生もゲイを公言している人が多く、大学卒業後に就職したアパレル業界でも同様でした。マンハッタンにはチェルシーというゲイタウンもあり、ゲイの方がいるのは当たり前の環境だったのです。

2010年に日本へ帰国し、アパレル以外の企業で働き始めたとき、ふと「ゲイを公言している人がいないな」と気づきました。調べてみると、いないのではなく、日本の文化や風潮からカミングアウトせずに社会に溶け込んで生きている方が大勢いるとわかったのです。

同時期、日本でLGBTという言葉が広がり始め、雑誌で「LGBT市場○兆円」といった特集が組まれているのを見ました。ですが「カミングアウトしないのにLGBT市場なんてあるのか」と疑問を感じ、調べていくと、LGBT市場といってもインバウンド系やカミングアウトしている人向けのサービスが中心で、カミングアウトしていない人たちはこの市場に入っていないことがわかりました。

そうした中で「友情結婚」という言葉を知りました。すでに言葉として存在し、当時流行っていたSNSにもコミュニティが多数立ち上がり、「友情結婚したいです」という書き込みがたくさんあるのに、それに伴った有料サービスがなかったのです。

私はずっと起業したいという気持ちがあり、ほかにないサービスをやりたいという野望がありました。友情結婚の事業なら多くの人の助けになるのではないかと考えて始めたのが経緯です。

「友情結婚」の定義とは

——中村さんが運営している「カラーズ」における友情結婚の定義について教えていただけますか。

カラーズでは、異性と性的関係を持てない・持ちたくない性的マイノリティの方のみを対象にしています。その方たちが結婚したい理由は、家族やパートナー、子どもが欲しい、人によっては世間体や親を安心させたいなど、さまざまな理由が組み合わさっていますが、世間の多くの人たちと共通しています。

ですが、どうしても結婚には性的関係がセットでついてくるので、無理だと諦めてしまう。そこで、結婚相手と性的関係を持たないことを互いに理解した者同士で法律婚をする——これが友情結婚です。

「偽装結婚では?」と誤解されることもありますが、偽装結婚とは、夫婦として共同生活を送る意思がないにもかかわらず、在留資格の取得などの結婚以外の目的のために婚姻届を出す違法行為です。

一方、友情結婚は夫婦としての生活実態があります。結婚とは民法で、同居・協力・扶助の義務が定められていて、カラーズの会員様はこれらを理解したうえで友情結婚しています。

——「契約結婚」との違いはあるのでしょうか?

契約結婚とは法的に定義された言葉ではありません。多くの人がイメージする契約結婚は、映画やドラマの影響で、婚姻届を出す前にルールを決めたり契約書を作ったりして、夫婦間で合意を結んで結婚するイメージでしょう。

カラーズでは話し合い冊子を使って条件を確認するので、その意味では契約結婚ともいえるかもしれません。ただ、恋愛結婚でも恋愛感情だけで結婚する人はいないと思います。契約書を作らなくても「ずっと二人とも働き続けよう」「朝ごはんは一緒に食べよう」といった約束も契約の一種です。結婚は何かしらの契約を伴うものであり、そう考えると全ての結婚が契約結婚といえるのではないでしょうか。

友情結婚を望む背景

——友情結婚を望む方にはどのような背景があるのでしょうか。

さまざまですが、大きく2パターンに分けられます。1つは、子どもの頃から自分のセクシュアリティに気づいていた人。もう1つは、自分のセクシュアリティを知らなかった、気づいていなかった人です。

前者の場合、幼少期や学生時代にすでに自認していた人は、異性と結婚できない、子どもが持てないと早い段階で結婚を諦めています。会員さんの中には幼い頃から、自分は両親のような結婚ができないと諦めている方も少なくありません。

幼い頃から自分のセクシュアリティを自認していた方は、さらに2つに分かれます。セクシュアリティをオープンにして生きる人と、隠して生きる人。日本ではオープンにする人は少なく、周囲に打ち明けずに生きている方が多いのが現状です。

セクシュアリティを隠して社会に溶け込んで生きていくと、大学に行って社会人になって稼いで……という、日本人のマジョリティが進むルートを歩む中で、どこかのタイミングで結婚について考えるきっかけが出てくる。

「結婚して一人前」という風潮はまだ残っているので、「まだ結婚しないの?」「なんで彼女(彼氏)いないの?」「孫の顔が見たい」などと言われ、プレッシャーを感じているという声もよく伺います。

20代後半頃から周りも結婚し始め、「自分は一生一人なのか」「家族を作れないのか」と悩み始め、昔は諦めていたものの、今ならどうにかならないかと調べ「友情結婚」という言葉やカラーズを知って相談に来る方がいます。結婚を一度諦めているからこそ切実で、真面目な方が多いです。

——セクシュアリティに気づいていなかったパターンについても教えていただけますか。

圧倒的に女性に多いです。「結婚するものだ」と思って婚活し、付き合ってきたけれども、どうしても性的関係が無理、できたとしても苦痛でしかない、もしくは結婚したものの性的関係を持てず、離婚してから相談に来る方もいらっしゃいます。

結婚したら性行為はできると思っていたのにできなくて「私は普通じゃないのかも?」と思い始めます。「性行為できない 結婚」「性行為せずに子どもを作る方法」などと調べるうちに「友情結婚」やカラーズを知る。

そして、他者に性的欲求を持たない「アセクシャル」というセクシュアリティがあることを知り、自分が性的マイノリティだと初めて気づくといった流れでしょうか。

なので相談に来られるのは「まだよくわからないのですが、私はアセクシャルなのでしょうか」という方が多いです。皆さん、性的なことが苦痛でも「世の女性はみんな嫌いなのを耐えているんだ」と信じ込んでしまっているんですよね。「みんな我慢して子どもを授かっているのだから、自分も……」と言い聞かせて、無理をして婚活してきたというお話もよく伺います。

——アセクシャルの会員に女性が多いのはなぜでしょうか?

アセクシャル・ノンセクシャル(※)の女性が自分のセクシュアリティに気づくポイントは、婚活したり付き合ってみたりしたときです。交際経験のある人は、大体は男性から「付き合おう」と言われて付き合っていて、女性側から告白したという人はレアです。

交際を申し込まれたので付き合い始め、そこで「性的関係を持つのは無理かも」と気づく。一方、男性は「付き合おう」と言われる機会が少ないので誰とも交際せず、自分のセクシュアリティに気づかないまま一生を過ごす方が多いので、アセクシャルの男性会員が少ないのだと思います。

女性の場合、付き合ったことがなくても「男性から性的な目で見られることに嫌悪感がある」ことで気づく人もいます。一方で男性は、日常生活で女性から性的対象として見られる機会が少ないため、自分のセクシュアリティに気づくきっかけもなかなかありません。

現在、生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことがない人の割合)は男性の約4人に1人と言われていますが、その中にアセクシャルやノンセクシャルの方も多く含まれているのではないかと考えています。恋愛や性的なことに興味がないから、婚活しようというモチベーションもない。性行為のない結婚があるとは思わず、調べもしないまま諦めている人が多いのではないでしょうか。

※本記事ではアセクシャル(他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない「アロマンティック・アセクシャル」)、ノンセクシャル(他者に恋愛感情は抱くが性的欲求は抱かない「ロマンティック・アセクシャル)と表記しています。

——カラーズには「カミングアウトをしない」という選択をされている方もたくさんいらっしゃっているのですよね。

カミングアウトしたとしても、もしかしたら周りはそんなに気にしないかもしれませんが、言った自分が「そういう目で見られているんだろうな」と気にして生きづらくなってしまうから、絶対にカミングアウトしないというお話を伺ったこともあります。言わない方が生きやすいだろう、と判断しているのです。

同性とパートナーシップを築くことを望んでいない方は、カミングアウトのメリットを感じていない方も多いです。会員さんからは「別にカミングアウトしてもいいけれど、カミングアウトして何のメリットがあるんだろう」と伺います。特に職場でのカミングアウトは、どんな反応をされるか、その後の仕事にも影響があり、「言って和を乱したくない」という感覚が強いのだと思います。

反対に言わないデメリットとしてよく挙げられるのは、会社員や公務員として働いていると「なんで結婚しないの?紹介してあげようか」と言われること。特に男性の場合、風俗店に誘われるのが苦痛だという声も聞きます。断ったら怪しまれるのではないか、と思って渋々行くものの、会話のみで終わるという話を聞きます。かといって、そのためにカミングアウトするほどではないと考えているようです。

※後編に続きます。

 

『恋愛・セックスはいらない 「友情結婚」新しい結婚の選択肢』(幻冬舎メディアコンサルティング)
『恋愛・セックスはいらない 「友情結婚」新しい結婚の選択肢』(幻冬舎メディアコンサルティング)

【プロフィール】
中村光沙(なかむら・ありさ)

株式会社COLORUS81代表取締役。
1985年、徳島県生まれ。中学卒業後、両親とともにアメリカへ移住。ニューヨークのパーソンズ美術大学でデザインを学び、卒業後は現地のパタンナーとしてキャリアをスタート。2010年に帰国後、外資系企業に勤務。日本で働く中で、ニューヨークではLGBTQ当事者がオープンにごく自然に社会に溶け込んで生活しているのに対し、日本ではその姿が見えにくいという現実に衝撃を受ける。そんな折、「友情結婚」という言葉に出会う。
2015年に友情結婚専門の結婚相談所「カラーズ」を設立。これまでに4000人以上の相談を受け、300組以上の成婚をサポートしている。

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