「恋愛感情と性的欲求は同じじゃない」当事者に聞くLGBTだけじゃないセクシュアリティの多様性

むらかみさん(ご本人よりご提供)
むらかみさん(ご本人よりご提供)

性的マイノリティとして認知度が高いのはLGBTですが、それ以外にもさまざまなセクシュアリティがあります。たとえば他者に性的欲求が向かない「アセクシャル」です。アセクシャル当事者で、当事者向けコミュニティスペースを運営する、むらかみさんにお話を伺いました。

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「○○セクシャル」「○○ロマンティック」……性的欲求と恋愛感情は別という捉え方

——むらかみさんは、「アセクシャル」で「クワロマンティック」とプロフィールに書かれています。それぞれどういったセクシュアリティか教えていただけますか。

アセクシャルとは、他者に性的欲求が向かないセクシュアリティです。

クワロマンティックは友情と恋愛感情の違いがわからない、あるいは区別をつけたくないというセクシャリティで、私は違いがわからないという感覚ですね。

——恋愛感情と性的欲求は別の軸ということでしょうか?

そうですね。「○○セクシャル」は性的指向の話で、「○○ロマンティック」は恋愛感情の話です。

マジョリティと言われる「異性に恋愛感情と性的欲求が向く人」は、ヘテロロマンティック・ヘテロセクシャルに該当します。

「アロマンティック・アセクシャル」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、他者に恋愛感情も性的欲求も向かないセクシュアリティを意味します。

世間的には恋愛感情と性的欲求は一括りで捉えられがちなので、私も最初に別軸だという考え方を知ったときには、目から鱗が落ちる感覚でした。

——むらかみさんはアセクシャルの説明として「他者に性的欲求が“向かない”」とおっしゃっていますが、あくまで他者に向かないのであって、「性的欲求がない」というわけではないのですか?

そうなんです。アセクシャルの定義として「性的欲求がない」「性的欲求を抱かない」という説明を聞くこともあるのですが、個人的には「性的欲求が他者に向かない」がいちばん包摂的だと思っています。

性的欲求が「ない」だと、セルフプレジャーの意味も含めて、「ない」ことになりますが、アセクシャルの人の中には、セルフプレジャーをする人もいます。

他者に性的欲求を「抱かない」ですと、人を見て性的欲求が湧くことがないという意味ですよね。

性的欲求が「向かない」ですと、人を見て性的な欲求が湧くことはあっても、だからといって、人と性的な行為に及びたくはない、もしくは必要としない、という意味になります。

——現状、ない・抱かない・向かないの違いまでの分類はないので、アセクシャルの人の中には、性的欲求がある人もない人も、他者に性的欲求を抱く人も抱かない人もいますが、他者に性的欲求が「向かない」という点では共通しているということですね。

そうですね。なのでアセクシャルの定義として「他者に性的欲求が向かない」という表現を用いると一番取りこぼしがないのでは、と考えて、私はその言い表し方を使っています。

むらかみさんが描かれたアセクシャルの漫画
むらかみさんが描かれたアセクシャルの漫画(ご本人よりご提供)

性別がない「Aジェンダー」

——むらかみさんはAジェンダーとも書かれていますね。

A(エー)ジェンダーとは、Aが打消しを意味するので、ジェンダーがないということを表しています。

——ノンバイナリーやXジェンダーとは違うのですか?

ノンバイナリーもXジェンダーも、自身を男性にも女性にも当てはまらないと感じていることを示す言葉ですが、Xジェンダーは性自認のみについて、ノンバイナリーは性自認だけでなく性表現についても含みます。

私は生まれたときに割り当てられた性は女性ですが、自分のことを女性というには違和感があったので、自分のことをノンバイナリーもしくはXジェンダーなのかなと思っていました。

ただ、Xジェンダーやノンバイナリーには男女ではない「第3の性」という意味合いもあり、その概念が自分には当てはまらない感覚があったんです。

そんな中、Aジェンダーというものを知りました。男女どちらにも当てはまらないという言い方でもなく、第3の性でもなく、「ジェンダーがない」という言い方が自分に一番しっくりくるので、Aジェンダーだと自認しています。自分という人間を説明するときに、性別という概念は必要がないという感覚を持っています。

セクシュアリティを自認するまで

——むらかみさんがアセクシャル、クワロマンティック、Aジェンダーを自認するまでの経緯についてお伺いできればと思います。

今35歳なのですが、最初は29歳頃にクワロマンティックを知りました。

私は男性とも女性ともお付き合いしたことがあるのですが、性的なことも含めて色々とうまくいかなかったんです。

ある日Twitterで画像が流れて来て、クワロマンティックの説明として「友情と愛情の違いがわからない」と書いてあって、そうそう!と思いました。

はっきり自認したのは1年以上後ですが、言葉を聞いてすぐにハッとしました。

——アセクシャルやAジェンダーもすぐに自認につながったのですか。

そうでもなくて、アセクシャルはクワロマンティックと同じタイミングで知ったのですが、納得するまでに時間がかかりました。

アセクシャルもクワロマンティックも自認までに1年以上かかりましたが、それは自分の中にある「人とは恋愛をするものだ」という恋愛規範が強かったからです。小さい頃から漫画やドラマなど物語が好きで、色々と見てきましたが、恋愛描写がある作品は本当に多いですし、「恋愛は素敵で尊いもの」という描かれ方をしていますよね。

「そういうもの」と思っていたものを「そうとは限らない」と認識し直すことがむずかしかったですし、それまでに違和感を持ちつつも、何人かとお付き合いもしてきたので、じゃあ今までのことはなんだったんだろうという混乱した感情もありました。

ただ、たとえ親密な人であっても、私は人とコミュニケーションをとるうえで、性的な行為が全く必要がないと思っているので、自分はアセクシャルに該当するという結論に今は至っています。性行為を必要としない人がいることはすぐに受け入れられましたが、自分がそうだと受け入れるまでには時間がかかった感覚です。

Aジェンダーはここ1年ぐらいです。SNSでAジェンダーの情報が流れてきて、詳しく調べてみて、今までノンバイナリーやXジェンダーがしっくりこなかった理由がわかったような感覚でした。

友情と恋愛感情の違いがわからない中での「好き」とは?

——友情と恋愛感情の違いがわからないとおっしゃっていましたが、むらかみさんにとって他者への「好意」とはどういったものでしょうか。

私は比較的すぐに人のことを好きになるんです。一緒にいて楽しい!と感じたら、好き!という感じです。

でもみんなが話すような、パートナーに異性がいる飲み会に行ってほしくないとか、一番好きと思われたいとか、そういった感情がほとんどなくて。パートナーが飲み会に行くのも気にならないですし、自分が一番じゃなくても自分のことを大事にしてくれていたらそれで満たされていたので、みんなと話が合わないなとずっと思っていたんです。

クワロマンティックを自認してからは、自分の中に人に対する感情が4段階くらいしかないことに気づきました。嫌いな人と、他人、知り合い、それ以上の好きな人です。

この「それ以上の好きな人」の中に、家族も長年の友人も、4人でパートナーのような関係を組んでいるクィア・プラトニック・リレーションシップ(QPR)の3人も含まれていて、「それ以上」の中での序列はほとんどないんですよね。


※中編では、アセクシャル4人で組んでいるクィア・プラトニック・リレーションシップ(QPR)について伺っています。


【プロフィール】
むらかみ

クワロマンティック・アセクシャル。Aジェンダー。2022年3月から「ARU-アセクシャルスペース-」の運営を開始。アセクシャル4人でQPR(クィア・プラトニック・リレーションシップ)を組んでいる。

漫画家・中村あいさつとして、『ソリチュード-ひとりを愛する人が集まるバー』、『死逢わせサポートセンター』等を制作。

■X:@aroace_mu
 

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