「なんで結婚しないの?」と聞かれる日常の中で─当事者が語る誤解と偏見、家族へのカミングアウト

むらかみさんよりご提供
むらかみさんよりご提供

性的マイノリティとして認知度が高いのはLGBTですが、それ以外にもさまざまなセクシュアリティがあります。たとえば他者に性的欲求が向かない「アセクシャル」です。アセクシャル当事者のむらかみさんは、3年半ほど前から、当事者向けのコミュニティスペースを運営しています。コミュニティスペースのこと、アセクシャルへの誤解や偏見、そしてむらかみさんご自身のご家族へのカミングアウトについてお伺いしました。

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アセクシャル当事者向けのスペースについて

——むらかみさんが運営されている「ARU-アセクシャルスペース-」について「アセクシャル・Aスペクトラム向け」とされていますが、Aスペクトラムとはどういった意味でしょうか?

恋愛感情や性的欲求が他者に向かないセクシュアリティの中にも様々な在り方があります。

今一番知られているのがアセクシャル(他者に性的欲求が向かない)だと思うのですが、デミセクシャル(基本的に性的な欲求はないが、強い結びつきを感じた相手にだけ性的欲求が向く)や、グレイセクシャル(性的欲求が他者に向くことは本当にわずか)……など、たくさんのセクシュアリティがあります。

私はA(エー)スペクトラムという言葉を、アセクシャルに近しいさまざまなセクシュアリティを包括する言葉として使っています。

恋愛感情や性的欲求が他者に向かない(向きにくい)セクシュアリティをまとめて表すものに、アロマンティックのAroとアセクシャルのAceを組み合わせてAroAce(アロエース)という言葉があります。私自身がアロマンティックではないこともあって、より包括的に感じられるという意味でAスペクトラムという言葉を使うことが多いです。

——どういったコミュニティスペースなのでしょうか。

アセクシャルとAスペクトラム当事者と「そうかもしれない」と思っている方が集まって、おしゃべりしています。2022年の3月から始めて、3年半ぐらいになりますね。

自認してから10年近く経っているけれどおもしろそうだから来てみたという方、アロマンティックやアセクシャルという言葉を知ったのがつい最近という方、当事者(かもしれない人も含め)同士で話すの初めてという方など、さまざまな方にご参加いただいています。リピーターは2~3割くらいで、新規の方がとても多いです。

——アセクシャルに限定せず、Aスペクトラムを対象としているのですね。

そうですね。なので、今までご参加された方の中には、アロマンティック・セクシャル(他者に恋愛感情が向かないものの、性的な欲求は向く)の方もいました。

「性的欲求を向けられることなく話せる場」をコンセプトのひとつとしていますが、なぜアセクシャルに限定しないかというと、アセクシャルはマイノリティの中のマイノリティと言われてるんです。そういった少数派の中で誰かを排除するのではなく、お互いに手を取れるところは取れたら……という思いがあって、Aスペクトラムを広く対象としています。

——日本社会において、「恋愛感情はなく、性的な欲求はある」のは風当たりが強い印象があります。

相手の恋愛感情を利用し、自分の欲望をぶつける……みたいなことがイメージされやすいですよね。ただ、私がお会いしたことがある方々からは、もちろん相手が嫌がることはせず、お互いの明確な同意を持って行為をしているというお話を伺いました。

最近はAスペクトラムをまとめて「アセクシャル」と呼ぶ風潮があって、自分はアセクシャルではないことから疎外感を感じている、ということも聞かせていただきました。

ARUに参加される方々にはスペースの趣旨をご理解いただいていて、いわゆる「出会い目的」ではなく、マイノリティであることの共感であったり、Aスペクトラムの中での違いを互いに質問し合って共有するといったことでご参加いただいています。

——スペースでのルールは設けているのでしょうか?

初めて参加される方には、必ず利用案内をしています。

・Aスペクトラムとは、恋愛感情や性的欲求が他者に向かない人たちのこと
・セクシュアリティにはグラデーションや移ろいがあること
・店内では他の方の感情や在り方を否定することを禁止していること

私以外にもスタッフがいますが、スタッフ間でも参加者の方が不快な思いをしないよう努めることを重要視しています。

「ARU-アセクシャルスペース-」の前で(むらかみさんよりご提供)
「ARU-アセクシャルスペース-」の前で(むらかみさんよりご提供)

アセクシャルへの誤解と偏見

——Aスペクトラムの方に限らず、独身だと「なんで結婚しないの?」とまだ聞かれる環境もあると思うのですが、そういった大変さを感じることはありますか?

私はフリーランスで毎日誰かに会う環境ではないので、そういう経験が少ないのですが、ARUにいらっしゃる方は会社員の方も多いので、そういう悩みを話される方はたくさんいます。

「仕事は楽しいし、会社の人たちも悪い人ではないけれど、恋愛の話が多くて困っている」「よかれと思って『紹介するよ』と言われて、断っているのに、遠慮しているのだと勘違いされて大変」といったことを話される方は多いです。

親御さんからの「早く結婚しろ」の圧が強くて、実家に帰りたくなくなるといった話もよく聞きます。

——少しずつアセクシャルを始め、Aスペクトラムのセクシュアリティについて認知されてきているのでしょうか?

認知度が上がってきていると感じますが正直まだまだで、認知度が低いゆえに非当事者への説明の大変さはあります。

すでにAスペクトラム全てをアセクシャルと認識されることがある点では、間違って広がっている部分もあるとは思うのですが、認知度を高めていく過程で、誤った情報や偏見が広がることの懸念もありますね。

「アセクシャル=子どもを持たない」という意見を聞くこともあります。しかし、「いつか子どもがほしいので、日常的には性的な行為をしなくてもいいが子どもは望んでいる、というパートナーを見つけたい」という方や、アセクシャル同士で結婚して体外受精で子どもを授かった方がいると聞いたこともあります。

「子どもを持つ=生産性」という捉え方にもひっかかりを感じますが、他者に性的欲求が向かないことと、子どもを望んでいないことが別だということは、まだまだ知られていないと感じます。

家族にアセクシャルであることのカミングアウト

——むらかみさんはご家族へのカミングアウトはされているのでしょうか?

私は家族全員に話しています。姉と妹がいて、2人には3年半ほど前に打ち明けていました。

親には、私がアセクシャルであることをどう思うかという以前に、アセクシャルという概念をわかってもらうことが難しいのではと思って、なかなか話せなかったです。

1年ほど前に、アセクシャル4人でパートナーのような関係を組んでいるクィア・プラトニック・リレーションシップ(QPR)について取材していただいたことがあって、これを読んでもらえれば、親にも伝わるのでは…?と思い、家族のグループLINEに記事を送って親にもカミングアウトしました。

——ご両親の反応はいかがでしたか。

「あなたの好きに生きたらいいんだよ」という感じでした。

おそらく恋愛感情と性的欲求が別々なものだとか、QPRがどういう関係性なのかとかを、正確に理解しているというわけではないと思うんです。でも「そういうものなんだ」と受け取ってくれた様子でした。

母親は今でもよく質問してくれて、少し前に母親とキャンプに行ったのですが、「他の3人はキャンプする人なの?」みたいに話をふってくれることもあります。友達とも恋人とも違うけれども、結びつきのある人がいることは伝わっているようです。

【プロフィール】
むらかみ

クワロマンティック・アセクシャル。Aジェンダー。2022年3月から「ARU-アセクシャルスペース-」の運営を開始。アセクシャル4人でQPR(クィア・プラトニック・リレーションシップ)を組んでいる。

漫画家・中村あいさつとして、『ソリチュード-ひとりを愛する人が集まるバー』、『死逢わせサポートセンター』等を制作。

■X:@aroace_mu
 

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